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第七章 東の理

7.21 『魔法』の規則性を調べる

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「やっぱり、古代の神の像に、何らかの『魔法』、掛かってるよね」

 ベッドに座り、蝋板を広げたサシャに、大きく頷く。神像に触ってもメイネ教授は移動しなかったから、古代の神像に触れたサシャが時間移動や空間移動をしてしまうのは、おそらく、サシャだけに起こる、古代の神々のいたずらに似た『魔法』。それを確かめるために、サシャはトールの制止を聞かず、あの犬の像に触った。

[規則性、あるかもな]

 謝るサシャに首を横に振り、これまでの、時間移動や空間移動をする前のサシャの行動を思い出す。

[『顔の無い翼持つもの』の像に触れた時は、時間が移動してた]

「うん」

 古代の神々の主神の名を表紙に出したトールに、サシャは大きく頷くと、『時間移動』と『顔無き翼持つもの』という二つの言葉を蝋板に刻み、線で結んだ。

「確か、北都ほくとの郊外で、『顔無き翼持つもの』の小さい像を見つけた時は、二日、迷子になっていたことになっていたよね」

夏炉かろの地下で、大きな『顔無き翼持つもの』に触れた時は、夏が秋になってたな]

「うん」

 大きな像ほど、飛ばされる時間が長くなる。蝋板にそうメモすると、サシャはトールを自分の近くへと引き寄せた。

帝華ていか北部の森の中から南の夏炉に飛ばされた時に見た像は、大きな円盤を掲げ持ってた」

[『象牙の塔』近くの川原から南へ飛ばされた時の像は、小さかったな]

「じゃ、やっぱり像の大小が、移動の遠近に関係してるんだね」

 神像の種類は『方向』に関連しているのかな。トールの言葉に頷いたサシャが、『日輪』と『南』という単語を蝋板に刻み、線で結ぶ。

「トールの言う通り、規則性、あるね」

 もう一度頷いたサシャは、これまでのことを思い出しながら、古代の神像と移動する方向を結びつけていった。

 北――帝都ていとの南の林で見つけた、額に九芒星を刻んだ像。

 北東――夏炉で狂信者達に包囲された砦の地下にあった、胸から上が人で下が馬の像。「砦を出た後、北へ向かい、中央街道を見つけたつもりだったが東街道だった」というピオの言葉があるから、北東で間違いないだろう。

 北西――南苑なんえんの廃墟のような洞窟で見つけた、鎌と小麦の穂を持った像。その像の所為で、一人と一冊は八都はちとの南端にある南苑から、八都の西側の洋上にある西海さいかいへと飛ばされた。

 南西――リエトとグイドを助けるために、夏炉の修道院の地下でサシャが動かした、弓矢を持つ像。その像が作った抜け道のおかげで三人と一冊は春陽はるひの騎士ラドヴァンの一族が所有する砦の近くまで逃げることができたが、後で地図を見ると、リエトとグイドが隠れ住んでいた修道院は、ラドヴァンの砦の北東に位置していた。

[今日触れたのは、犬の像だったよな]

 サシャの鉄筆が止まったのを見計らい、今日のことを表紙に並べる。

[あの、狂信者が隠れていた遺跡、『象牙の塔』の図書館で見た『古代の遺跡マップ』にあったかも]

「うん」

 トールが覚えている限りの地図の情報を、絵として表紙に浮かべる。トールが出してきた地図絵を指でなぞって何度も確認したサシャは、『南東』と『犬の像』を線で繋いだ。

「あとは『東』と『西』が分かれば、全部埋まる」

[残っている神像も二つだけだな]

 そこまでの言葉を表紙に浮かべたトールの耳に、ウベルトらしい足音が響く。

[蝋板と鉄筆、しまわないと]

「うん」

 トールの言葉に頷いたサシャは、手の中の蝋板と鉄筆をするりと肩掛け鞄の中にしまい、そして一息で、ベッドに横たわり目を瞑った。

 すぐに聞こえてきた寝息に、小さく微笑む。

 まだ方角に結びついていない古代の神像は、ふわふわのマフラーをしているように見える像と、釣りの道具を持っているように見える像。様々な場所で何度も見た、古代の神々の絵を脳裏に浮かべる。どちらか一つの方角が分かれば、消去法でもう一つが決まる。何とかなるだろう。トール自身の表紙に飛び散った血の方は、製本師であるカレヴァにまた何とかしてもらわないといけないかもしれない。部屋に入ってきたウベルトが持っている盆の上の、穏やかな湯気に幻のお腹が空いたように感じ、トールは小さく首を横に振った。
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