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第七章 東の理

7.3 それぞれの、信ずる道へ

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「なあ、ホセ学生長」

 カジミールの声に、思考が中断する。

「サシャはともかく、なんで俺まで、津都つとの太守に目を付けられているんだ?」

 サシャに付いていっただけで、俺は別に何もしていない。カジミールの、北向きたむくの北に位置する、八都はちとの人々が信奉している『唯一神』とは異なる神々を信奉する『冬の国ふゆのくに』にルーツを持つ明るい色の髪が小さく傾く。

「サシャと一緒にあの村に行った者として、村にいたロレンシオの手先が報告したようですね」

 そのカジミールに冷静に答えたのは、ホセの護衛、ボリバル。

「じゃ、俺はサシャと別行動の方が良いな」

 小さく唸ったカジミールが、不意にサシャを見下ろす。

「何故だ?」

「一緒に捕まって、俺が拷問にかけられたら、さ、こいつ、絶対、嘘付いてでも俺を助けようとするんで」

 ホセの問いに明るく答えたカジミールは、一瞬だけ不本意そうな顔をしたサシャの蒼白い頬を指で小さくつついた。

「確かに」

 カジミールの回答に、トールと同時にホセが頷く。カジミールの言う通り、サシャは、大切な友人のためなら自分の身を差し出してしまうきらいがある。その行為で悲しむ者も、この場所にいるというのに。そのサシャの気質が、トールは正直腹立たしかった。だが。サシャの、友人のための行動が、サシャの心を安定させるのであれば、トールには何も言えない。

「『星読みの道』を使って、北向の養父に挨拶してから、セルジュがいる東雲しののめに行くのが無難」

「そうだな」

 沈むトールの耳に、あくまで明るいカジミールの声と、カジミールに頷くホセの声が響く。北向と『冬の国』との境に捨てられていたカジミールを拾ったのは、秋津あきつの王族で北向の星読ほしよみ博士でもあるヒルベルト。おそらく、カジミールは、星読みだけが知る、冬の山道でも雪に邪魔されることなく星の観測所まで行くことができる道を、ヒルベルトから教えてもらっているのだろう。

北辺ほくへんも通るから、サシャが東雲に行くこと、ユーグさんにはうまくごまかして報告しておこうか、サシャ?」

「ありがとう、カジミール」

 大丈夫だろうか? 雪で白くなっている外の寒さを考慮するトールの耳に、再びサシャの頬を指でつついたカジミールの声と、お礼を言うサシャの落ち着いた声が響く。

「では、それで行こう」

 旅の準備は、こちらで最大限用意する。再びサシャに頭を下げたホセは、静かに、一人と一冊に背を向けた。

「なら、さっさと支度しやがれ」

 そのホセの背に、先程まで黙っていたユドークス教授の罵声が響く。

「儂は知らん」

 その声とは裏腹に、ユドークス教授は、旅の準備のために立ち上がったカジミールが座っていた椅子を奪い取り、サシャの顔が見える位置にどっかと腰を下ろした。

「じゃ、サシャの要るものも準備しておくから」

 そう言い置いて部屋を出るカジミールに、大きく頭を下げる。

「全く」

 まだ少し血が滲んでいるように見えるサシャの怪我の具合を確かめるユドークスの、止まりそうもない愚痴にも、トールは大きく頭を下げた。
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