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第四章 帝都の日々
4.27 南の丘の悲傷②
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走り通し、息が上がったサシャを確かめる前に、夕闇に沈む帝都の城壁が見えてくる。
「ま、待って!」
黒竜騎士団が管理する南東の小さな門の跳ね橋が上がりかけているのを見るや否や、サシャの口から必死の叫びが漏れた。
「お願い!」
自分と体格が違わないブラスを背負い、必死に走り続けたサシャの声は小さすぎて、跳ね橋を上げる黒竜騎士団員には届かない。トールが人の形をしていれば、サシャの代わりに叫んで上がる跳ね橋を止めてもらうことができるのに。いや、サシャの代わりにブラスを背負って走ることができるのに。呻きを堪え、トールは首を横に振った。今、トールができることは、サシャを見守り、励ますことだけ。
「待って!」
幸い、跳ね橋を上げる作業をしていた黒竜騎士団の誰かが、初夏までは黒竜騎士団で手伝いをしていた顔見知りのサシャに気付いたようだ。上がりかけていた跳ね橋が、サシャの目の前で下りる。
「ありがとう!」
太陽が西に沈みきる直前で、サシャは最後の力を振り絞って頑丈な跳ね橋を渡りきった。
「ありがとう」
ゆっくりと閉まる南東の門をくぐり抜け、門の側の石畳に頽れたサシャの背中から、ブラスの身体が滑り落ちる。
「サシャ!」
そのサシャの前に現れた二つの影に、トールは目を瞬かせた。一人は、見慣れた、黒竜騎士団の見習いエルチェ。もう一人は。
「大丈夫か、サシャ?」
「……ピオ?」
呆然とする一人と一冊の前で、黒竜騎士団のルジェクと共に狂信者に追われて飛び込んだ砦にいた兵士見習いピオの敏捷な身体が揺れる。
「再会を喜ぶのは後にしなさい」
足早に現れたフェリクス副団長の窘めに、トールは再び地面に視線を落とした。
「ブラスを、助けてください、フェリクス様」
息が整わないサシャの、震える声に、フェリクスが頷く。しかしエルチェが抱き上げたブラスの上半身を確かめたフェリクスは、サシャに向かって首を横に振った。
「そん、な……」
揺れたサシャの身体を、ピオが支える。
言葉が、出ない。
無意識に、トールはフェリクスから目を逸らしていた。
「ま、待って!」
黒竜騎士団が管理する南東の小さな門の跳ね橋が上がりかけているのを見るや否や、サシャの口から必死の叫びが漏れた。
「お願い!」
自分と体格が違わないブラスを背負い、必死に走り続けたサシャの声は小さすぎて、跳ね橋を上げる黒竜騎士団員には届かない。トールが人の形をしていれば、サシャの代わりに叫んで上がる跳ね橋を止めてもらうことができるのに。いや、サシャの代わりにブラスを背負って走ることができるのに。呻きを堪え、トールは首を横に振った。今、トールができることは、サシャを見守り、励ますことだけ。
「待って!」
幸い、跳ね橋を上げる作業をしていた黒竜騎士団の誰かが、初夏までは黒竜騎士団で手伝いをしていた顔見知りのサシャに気付いたようだ。上がりかけていた跳ね橋が、サシャの目の前で下りる。
「ありがとう!」
太陽が西に沈みきる直前で、サシャは最後の力を振り絞って頑丈な跳ね橋を渡りきった。
「ありがとう」
ゆっくりと閉まる南東の門をくぐり抜け、門の側の石畳に頽れたサシャの背中から、ブラスの身体が滑り落ちる。
「サシャ!」
そのサシャの前に現れた二つの影に、トールは目を瞬かせた。一人は、見慣れた、黒竜騎士団の見習いエルチェ。もう一人は。
「大丈夫か、サシャ?」
「……ピオ?」
呆然とする一人と一冊の前で、黒竜騎士団のルジェクと共に狂信者に追われて飛び込んだ砦にいた兵士見習いピオの敏捷な身体が揺れる。
「再会を喜ぶのは後にしなさい」
足早に現れたフェリクス副団長の窘めに、トールは再び地面に視線を落とした。
「ブラスを、助けてください、フェリクス様」
息が整わないサシャの、震える声に、フェリクスが頷く。しかしエルチェが抱き上げたブラスの上半身を確かめたフェリクスは、サシャに向かって首を横に振った。
「そん、な……」
揺れたサシャの身体を、ピオが支える。
言葉が、出ない。
無意識に、トールはフェリクスから目を逸らしていた。
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