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第三章 森と砦と
3.21 冬至祭前日の変節②
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「なっ!」
ジョットがサシャの方に目を向けた次の瞬間、ジョットが放った拳がブルーノの顎に入る。食料が尽きて飢えきっているはずなのに、どこから、そんな力が。一瞬感心してしまったトールが自分を取り戻す前に、ジョットは一足でサシャの前に立ち、サシャの細い腕を強く掴んで砦の正門へと踵を返した。
「いっ……!」
サシャの叫び声が外に出る前に、意外なほど素早く閂を外したジョットがサシャを引き摺るようにして砦の外に出る。砦の正門を守っていた直角の壁は狂信者達が打ち壊していたので、オレンジ色が濃くなった荒野がすぐに、トールの視界に入ってきた。砦から出てきた人影を認め、こちらに向かってくる狂信者達の影も。
「かつてのお前達の手紙の要求通り、白い髪の少年を連れてきたぞ」
狂信者達に殴られそうになり、尻餅をついてしまったジョットが、まだしっかりと掴んでいたサシャの細い身体を前に押し出す。
「これで、俺の……」
サシャとトールの横を薙いだ鋭い風と、急に濃くなった血の匂いに、トールは言葉を失った。
「白い髪の子は、殺さないでくださいね」
どこかで聞いた冷たい言葉が、耳を打つ。
頽れたサシャの震えを確かめると同時に、トールは、一人と一冊の目の前に立った二つの影を確かめた。
「欲しがっていたのはこの子ですか、デルフィーノ?」
影のうちの一つ、北向の王子セルジュよりも刺繍が多いごちゃごちゃとした服を着た細い影が、横を向いて小さく笑う。
「そうだ、クラウディオ」
あの間者と一緒に馬で砦に飛び込んだ奴だ。そう言いながら、俯くサシャの白い髪を小さく掴んで下卑に笑う浅黒い顔を、睨む。こいつが、狂信者達の長デルフィーノ。そしてその隣にいるごちゃごちゃした服の奴が、暗殺騒動の黒幕、夏炉の貴族クラウディオ。
「冬至祭の前日に手に入るとは」
睨むトールには構わず、デルフィーノは今度は、憔悴しきって動かないサシャの顎を指で持ち上げる。
「神々も、この子を欲しがっている徴だ」
明日の冬至祭には、この者を贄として神々に捧げよう。トールと同じようにその紅い瞳でデルフィーノとクラウディオを睨んだサシャには構わず、デルフィーノは残酷な言葉を吐いた。
「明日の朝、燔柴を行うまで、この子は私が預かりましょう、デルフィーノ」
そのデルフィーノの横で、クラウディオが不気味なほど涼やかに微笑む。
「ああ、そうしてくれ」
サシャが手に入ったことで満足しているのだろう、鷹揚に、デルフィーノはクラウディオに向かって頷いた。
「明日の朝、日が昇る前には返してくれよ」
「分かりました」
おそらく砦の隊長ブルーノの行動だろう、こちらがごたついている間に砦の正門はしっかりと閉じられてしまっていることを、首を伸ばして確認する。良い徴候は、それくらい。小刻みな震えは、サシャのものかトールのものか。目を閉じて項垂れるサシャに、トールもそっと、目を閉じた。
ジョットがサシャの方に目を向けた次の瞬間、ジョットが放った拳がブルーノの顎に入る。食料が尽きて飢えきっているはずなのに、どこから、そんな力が。一瞬感心してしまったトールが自分を取り戻す前に、ジョットは一足でサシャの前に立ち、サシャの細い腕を強く掴んで砦の正門へと踵を返した。
「いっ……!」
サシャの叫び声が外に出る前に、意外なほど素早く閂を外したジョットがサシャを引き摺るようにして砦の外に出る。砦の正門を守っていた直角の壁は狂信者達が打ち壊していたので、オレンジ色が濃くなった荒野がすぐに、トールの視界に入ってきた。砦から出てきた人影を認め、こちらに向かってくる狂信者達の影も。
「かつてのお前達の手紙の要求通り、白い髪の少年を連れてきたぞ」
狂信者達に殴られそうになり、尻餅をついてしまったジョットが、まだしっかりと掴んでいたサシャの細い身体を前に押し出す。
「これで、俺の……」
サシャとトールの横を薙いだ鋭い風と、急に濃くなった血の匂いに、トールは言葉を失った。
「白い髪の子は、殺さないでくださいね」
どこかで聞いた冷たい言葉が、耳を打つ。
頽れたサシャの震えを確かめると同時に、トールは、一人と一冊の目の前に立った二つの影を確かめた。
「欲しがっていたのはこの子ですか、デルフィーノ?」
影のうちの一つ、北向の王子セルジュよりも刺繍が多いごちゃごちゃとした服を着た細い影が、横を向いて小さく笑う。
「そうだ、クラウディオ」
あの間者と一緒に馬で砦に飛び込んだ奴だ。そう言いながら、俯くサシャの白い髪を小さく掴んで下卑に笑う浅黒い顔を、睨む。こいつが、狂信者達の長デルフィーノ。そしてその隣にいるごちゃごちゃした服の奴が、暗殺騒動の黒幕、夏炉の貴族クラウディオ。
「冬至祭の前日に手に入るとは」
睨むトールには構わず、デルフィーノは今度は、憔悴しきって動かないサシャの顎を指で持ち上げる。
「神々も、この子を欲しがっている徴だ」
明日の冬至祭には、この者を贄として神々に捧げよう。トールと同じようにその紅い瞳でデルフィーノとクラウディオを睨んだサシャには構わず、デルフィーノは残酷な言葉を吐いた。
「明日の朝、燔柴を行うまで、この子は私が預かりましょう、デルフィーノ」
そのデルフィーノの横で、クラウディオが不気味なほど涼やかに微笑む。
「ああ、そうしてくれ」
サシャが手に入ったことで満足しているのだろう、鷹揚に、デルフィーノはクラウディオに向かって頷いた。
「明日の朝、日が昇る前には返してくれよ」
「分かりました」
おそらく砦の隊長ブルーノの行動だろう、こちらがごたついている間に砦の正門はしっかりと閉じられてしまっていることを、首を伸ばして確認する。良い徴候は、それくらい。小刻みな震えは、サシャのものかトールのものか。目を閉じて項垂れるサシャに、トールもそっと、目を閉じた。
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