107 / 351
第三章 森と砦と
3.19 砦の地下の不思議④
しおりを挟む
井戸のある地下室から中庭へと戻ったところで、ブルーノ隊長に出会す。
「……ブルーノ隊長、実は」
ブルーノ隊長には、ピオと抜け道のことを話しておいた方が良い。抜け道を引き返す間で出した結論通り、時々言葉を探しながら、サシャはこれまでのことをブルーノに話した。
「それは、本当か?」
半信半疑に灰色の髪を振ったブルーノは、それでもすぐに、サシャとトールが出てきた、地下の井戸へと続く階段に足を運ぶ。だが。井戸がある部屋にブルーノが足を踏み入れた次の瞬間、部屋全体が不意に鈍く揺れた。
「なっ!」
地震か? ブルーノの後について階段を下りていたサシャが残り数段の階段をすっ飛ばしたのを確かめる間もなく、辺りを見回す。
「あ……!」
井戸の横の壁に穿たれた、古代の神殿を模した隙間が跡形も無く崩れている、そのことに、サシャとトールは同時に声を上げた。
「まさか、あの狂信者の野郎」
一方、ブルーノの方は、砦の隊長らしい行動に出ていた。
「地下から砦を崩す気か?」
確か、昔の攻城戦では、地下にトンネルを掘って城壁を崩すという戦法がしばしば使われていたと、高校時代の資料集には絵入りで説明があった。トンネルの中で火薬を使い、城壁を一気に崩すこともあったらしい。この世界には、火薬はあるのだろうか? 危機感に、トールの全身が総毛立つ。一番製造が難しいらしい『硝石』は、蓬に小水を掛けて発酵させれば製造できるらしいが。
「うむ」
思案するトールの耳に、ブルーノ隊長の冷静な声が響く。
「崩れたのは、壁の表面だけだな」
古代の神殿を模した隙間があった場所を撫でるように確かめて頷くブルーノに、トールは小さく胸を撫で下ろした。
「井戸も、今のところは濁っていない」
井戸から引き上げた桶の中を確かめ、サシャに向かって灰色の髭を揺らしたブルーノに、サシャが小さく頷く。
「どう、しよう」
小さな声が、トールの耳に響いた。
「あの隙間が無いと、みんなが脱出できない」
サシャとピオが通り抜けた通路は、どこにも見えない。
油断は禁物。そう呟きながらもう一度井戸の周りの壁を見て回るブルーノの背中を確かめてから、俯くサシャに向かって首を横に振る。ピオに手紙を託しておいて、良かった。その点にだけ、トールは胸を撫で下ろしていた。だから、今は。ピオが無事、ヴィリバルトのところに辿り着いてくれることを、祈るしかない。震えるサシャの胸に、トールはなんとか頷いてみせた。
「……ブルーノ隊長、実は」
ブルーノ隊長には、ピオと抜け道のことを話しておいた方が良い。抜け道を引き返す間で出した結論通り、時々言葉を探しながら、サシャはこれまでのことをブルーノに話した。
「それは、本当か?」
半信半疑に灰色の髪を振ったブルーノは、それでもすぐに、サシャとトールが出てきた、地下の井戸へと続く階段に足を運ぶ。だが。井戸がある部屋にブルーノが足を踏み入れた次の瞬間、部屋全体が不意に鈍く揺れた。
「なっ!」
地震か? ブルーノの後について階段を下りていたサシャが残り数段の階段をすっ飛ばしたのを確かめる間もなく、辺りを見回す。
「あ……!」
井戸の横の壁に穿たれた、古代の神殿を模した隙間が跡形も無く崩れている、そのことに、サシャとトールは同時に声を上げた。
「まさか、あの狂信者の野郎」
一方、ブルーノの方は、砦の隊長らしい行動に出ていた。
「地下から砦を崩す気か?」
確か、昔の攻城戦では、地下にトンネルを掘って城壁を崩すという戦法がしばしば使われていたと、高校時代の資料集には絵入りで説明があった。トンネルの中で火薬を使い、城壁を一気に崩すこともあったらしい。この世界には、火薬はあるのだろうか? 危機感に、トールの全身が総毛立つ。一番製造が難しいらしい『硝石』は、蓬に小水を掛けて発酵させれば製造できるらしいが。
「うむ」
思案するトールの耳に、ブルーノ隊長の冷静な声が響く。
「崩れたのは、壁の表面だけだな」
古代の神殿を模した隙間があった場所を撫でるように確かめて頷くブルーノに、トールは小さく胸を撫で下ろした。
「井戸も、今のところは濁っていない」
井戸から引き上げた桶の中を確かめ、サシャに向かって灰色の髭を揺らしたブルーノに、サシャが小さく頷く。
「どう、しよう」
小さな声が、トールの耳に響いた。
「あの隙間が無いと、みんなが脱出できない」
サシャとピオが通り抜けた通路は、どこにも見えない。
油断は禁物。そう呟きながらもう一度井戸の周りの壁を見て回るブルーノの背中を確かめてから、俯くサシャに向かって首を横に振る。ピオに手紙を託しておいて、良かった。その点にだけ、トールは胸を撫で下ろしていた。だから、今は。ピオが無事、ヴィリバルトのところに辿り着いてくれることを、祈るしかない。震えるサシャの胸に、トールはなんとか頷いてみせた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる