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第三章 森と砦と

3.19 砦の地下の不思議④

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 井戸のある地下室から中庭へと戻ったところで、ブルーノ隊長に出会す。

「……ブルーノ隊長、実は」

 ブルーノ隊長には、ピオと抜け道のことを話しておいた方が良い。抜け道を引き返す間で出した結論通り、時々言葉を探しながら、サシャはこれまでのことをブルーノに話した。

「それは、本当か?」

 半信半疑に灰色の髪を振ったブルーノは、それでもすぐに、サシャとトールが出てきた、地下の井戸へと続く階段に足を運ぶ。だが。井戸がある部屋にブルーノが足を踏み入れた次の瞬間、部屋全体が不意に鈍く揺れた。

「なっ!」

 地震か? ブルーノの後について階段を下りていたサシャが残り数段の階段をすっ飛ばしたのを確かめる間もなく、辺りを見回す。

「あ……!」

 井戸の横の壁に穿たれた、古代の神殿を模した隙間が跡形も無く崩れている、そのことに、サシャとトールは同時に声を上げた。

「まさか、あの狂信者の野郎」

 一方、ブルーノの方は、砦の隊長らしい行動に出ていた。

「地下から砦を崩す気か?」

 確か、昔の攻城戦では、地下にトンネルを掘って城壁を崩すという戦法がしばしば使われていたと、高校時代の資料集には絵入りで説明があった。トンネルの中で火薬を使い、城壁を一気に崩すこともあったらしい。この世界には、火薬はあるのだろうか? 危機感に、トールの全身が総毛立つ。一番製造が難しいらしい『硝石』は、蓬に小水を掛けて発酵させれば製造できるらしいが。

「うむ」

 思案するトールの耳に、ブルーノ隊長の冷静な声が響く。

「崩れたのは、壁の表面だけだな」

 古代の神殿を模した隙間があった場所を撫でるように確かめて頷くブルーノに、トールは小さく胸を撫で下ろした。

「井戸も、今のところは濁っていない」

 井戸から引き上げた桶の中を確かめ、サシャに向かって灰色の髭を揺らしたブルーノに、サシャが小さく頷く。

「どう、しよう」

 小さな声が、トールの耳に響いた。

「あの隙間が無いと、みんなが脱出できない」

 サシャとピオが通り抜けた通路は、どこにも見えない。

 油断は禁物。そう呟きながらもう一度井戸の周りの壁を見て回るブルーノの背中を確かめてから、俯くサシャに向かって首を横に振る。ピオに手紙を託しておいて、良かった。その点にだけ、トールは胸を撫で下ろしていた。だから、今は。ピオが無事、ヴィリバルトのところに辿り着いてくれることを、祈るしかない。震えるサシャの胸に、トールはなんとか頷いてみせた。
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