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第二章 湖を臨む都

2.39 春の朗報

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 緋星祭あかぼしのまつりの前になってやっと、再び学校に通えるほどに身体が回復したサシャの耳にその知らせが届いたのは、緋星祭の三日後のこと。

「良い知らせだ、サシャ!」

 授業が終わり、いつも通り掃除と勉強のために図書館へと向かうサシャを図書館の玄関で待ち構えていたのは、事務長のヘラルドと助手のエルネスト、そしてアラン師匠とカジミール。

「老王が『謁を許す』そうだ!」

 口火を切ったのは、四人の中では一番年上のヘラルド。

「えっ?」

[……?]

 ヘラルドに言われた言葉の意味が分からず、トールもサシャと同じように混乱を口にした。

「『謁を、許す』……?」

北都ほくとの老王がサシャに会いたいってさ」

 エルネストの軽口で、事態を把握する。

「前の夏の疫病の件と、曾孫のセルジュを助けた件で、お礼が言いたいそうだ」

「えっ? ……でも」

 疫病の終息に力を尽くしたのは、アラン師匠。おずおずとアランの方を見上げるサシャに、アランが笑う。疫病の原因となっていた井戸を突きとめることができたのは、下町に詳しい漁師見習いクリスが街の人々への聞き取りを手伝ってくれたから。そして。俯いてトールを見たサシャに、トールもアランと同じように大きく頷いた。

[俺のことは、秘密にしておいてくれ]

 確かに、本で聞き知った、トールの世界のかつての実践例をトールがサシャに教えたから、サシャはあの行動を取ることができ、結果として疫病は終息した。でも、知識を伝えることと、その知識を用いて行動を起こすことは、別。サシャの行動力があったからこそ、疫病の原因である井戸を突きとめることができた。トールはそう思っている。セルジュの件もそうだ。サシャが無謀な行動に出たからこそ、セルジュも、カジミールも助けることができた。だから。……サシャは、自分を誇って良い。

「あ、俺も呼ばれてるから大丈夫」

「クリストフは、まだ小さいから無理だろう」

 サシャの懸念が分かったのか、にやりと笑うカジミールに続いてエルネストが的確な助言を出す。

「俺が付き添うから、安心しろ」

 続くアランの言葉に小さく頷いたサシャに、トールはほっと胸を撫で下ろした。

「久しぶりに、セルジュに逢えるかもしれないし」

 カジミールの言葉に、サシャの頬が赤みを帯びる。

「うん」

 小さいが、それでも何とか微笑みを見せたサシャに、エルネスト達も笑った。

「奨学金、出してくれるかもしれないな」

 軽いエルネストの言葉に、他の三人が大きく頷く。

「ま、王様の命だし、拒否はできないよな」

 総意をまとめるヘラルドの言葉に、サシャも観念したように頷いた。

「ユーグには、俺から言っておく」

 そのサシャの背を、アランが撫でるように叩く。

「身体の方は、……大丈夫そうだな」

「じゃ、決まりだな」

 王宮には、自分から伝えておく。事務長ヘラルドの言葉に、ほっと息を吐く。

[良かったな、サシャ]

「う、うん」

 サシャの周りには、優しい人々が居る。心を満たす幸福な感情に、トールはサシャと共に頷いた。
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