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第17章 決戦前
第207話 闇と光
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不信感を露にするバーミアに対しても、ウィルは表情を何一つ変えない。
「拒絶反応だ。体がその力に慣れるまで横になっているといい。ボーンズ、案内してやれ」
「はい。では、こちらへ。大丈夫ですよ、神を信じてください。必ず報われます」
バーミアの警戒心を解くようにボーンズが優しく語り掛けるものの、睨みを解こうとはしなかった。
「ウィル様、私の魔法でセイン様の容体を軽くしてあげることは出来ないのでしょうか?」
ギルがウィルの前で跪き、質問を投げる。
「出来ないな。ゆっくり時間をかけて自分のものにしなければならない」
「そんな……まただ……」
誰が見ても分かるほど落胆するギルに、ウィルが肩を叩く。
「オマエは思っている以上にアイツの力になっている」
「え?」
ギルが顔を上げると、すべてを悟っているように口角を上げたウィルがいた。
「オマエはもっと自信を持つといい。自信がオマエの力となる」
「あっ……は、はい。ありがとうございます」
苦痛な表情のセイン王子に視線を移動し、ギルは立ち上がった。
「バーミアさん、セイン様を連れて行ってくれますか? セイン様の中に確かに別の力が加わっているのが感じられます。それは光。光の神であるウィル様の力です。きっとセイン様は力を手に入れて下さいます」
「……わかりました。すみません、ボーンズさん。よろしくお願いします」
◇
ボーンズの案内で、医務室のような部屋に通された。バーミアがセイン王子をベッドに置くと、カーラがパンッと手を叩く。
「では、セイン様がお目覚めになるまでお昼ご飯を頂きましょう! ね? うふふ」
「そうだな。人間は食べることも大事だ」
カーラがにこにこと笑顔を振り撒くと、ウィルが同意した。
セイン王子が苦しんでいる中で呑気に食事をする気になれなかったギルだったが、ウィルや大司教であるカーラに言われては断ることも出来ない。しかし、自分が見ていないところでまた何かあったらと思うと気が気ではなかった。
「ならばギルは側にいるといい」
心を読むことが出来るのか、ウィルがギルの背中を押す。
「ありがとうございます! バーミアさんは食事に行ってください。ウィル様やカーラ様から色々と聞いておいてくれると嬉しいです」
「……はい。セイン様のことはお任せします」
「はい」
バーミアはセイン王子とギルを残し、ウィルとカーラ、ボーンズと共に部屋を出た。真っ白な天井の高い廊下をゆっくりと歩く。前を行くカーラが少し速度を落とし、バーミアの隣に来た。
「うふふ。ギルさんはとても強い忠誠心をお持ちのようですね。いえ、バーミアさんがそうではないと言っているわけではないのですよ。ギルさんはどちらかというと、セイン様を守ることに固執されているように見えましたので」
カーラが笑顔で伝えると、バーミアは後ろを振り返った。
「そうですか……。彼はとても優秀ですよ」
「ええ。よく分かります。とても心地よい魔力を感じますので」
◇
セイン王子はベッドの上で全身を這う痛みに耐えていた。その痛みの中でエリー王女のことを思い浮かべる。
早く力を得てエリーのもとに行かなければ!!!
早く……早く……!!!
ディーン王子やバフォールが近くにいるエリー王女の身は大変危険だった。ディーン王子はエリー王女の首に唇を這わすほど接近している。それだけでも許せなかった。あの時は余裕な振りをしていたが、本当は強い嫉妬が駆け巡っていた。それは簡単に憎しみへと変わるものだった。
直ぐにでもディーン王子の魔の手から救い出したい。
あんな場所には置いておきたくない。
今すぐエリーをこの手の中へ!!!
それが出来ないことへの憤りとエリー王女に対する想いが膨らんでいく。
出会ってからずっとそうだった。どんなに欲していても手に入ることはない存在。それなのにディーン王子は簡単に、それも最悪の方法で手に入れようとしている。
それが、本当に許せなかった。
セイン王子がディーン王子のことを考えれば考えるほど全身の痛みは強くなっているのだが、セイン王子はそれに気付かない。ただひたすら痛みに耐えていると、右手が優しく包まれた。
「……ギル……どうしたの……?」
「大丈夫ですか? すみません、魔法で和らげてあげることができなくて……」
ベッド脇の椅子に座るギルは、怒られてしょんぼりした犬のようで、思わず笑ってしまう。
「あはは……大丈夫だよ……こんなの、どうってことない……。それに、ギルが側にいて、こうやってくれるだけで……少し楽になったみたいだ」
気休めで言っているのではなく、本当に楽になっていた。それでもギルは辛そうな表情を崩さない。
「セイン様。私の前では無理をなさらないでください。辛かったら辛いと言って欲しいです」
今にも泣き出しそうな悲痛の表情をしたギル。いつでも自分のことを考えている彼に対し、心配をかけさせたくはなかった。だけど、この状況では嘘だということはあからさまだろう。
「うん……分かった……ありがとう。本当は凄く痛いし、辛い……だけど……あいつを倒せるなら我慢できる……」
最後は怒気を含んでいることが分かるような声だった。それは、体だけではなく心までもが苦しんでいるようにギルは感じた。
「セイン様……。では、その先のことを考えましょう! 彼らを倒し、平和になった楽しいことを」
ギルは少しでもセイン王子の心が晴れるように、側で楽しくなるような話をずっと喋り続けた。そのギルが話す未来はとてもキラキラと輝いていて、セイン王子は聞いているだけで楽しくなっていく。
そして暫くすると、痛みもどんどん和らいでいくのを感じた。光の力が浸透し始めたのだろうか……。
「光の力……」
「え?」
突然セイン王子が呟いたので、ギルは話すのをやめた。
「……闇を打ち消す力……拒絶反応……。光の力を……光を受け入れる……」
ディーン王子のことを考えていた時と、ギルの話を聞きながら平和な未来を望んでいた時の痛みの違い。とりあえず思ったことを口にしてみるとある考えが浮かび上がった。
心の闇は光を受け入れない――――。
『そうだ……。オマエは何のために戦う……』
突如、頭に響くその声と共に部屋が光に包まれ、思わず目を閉じた――――。
「拒絶反応だ。体がその力に慣れるまで横になっているといい。ボーンズ、案内してやれ」
「はい。では、こちらへ。大丈夫ですよ、神を信じてください。必ず報われます」
バーミアの警戒心を解くようにボーンズが優しく語り掛けるものの、睨みを解こうとはしなかった。
「ウィル様、私の魔法でセイン様の容体を軽くしてあげることは出来ないのでしょうか?」
ギルがウィルの前で跪き、質問を投げる。
「出来ないな。ゆっくり時間をかけて自分のものにしなければならない」
「そんな……まただ……」
誰が見ても分かるほど落胆するギルに、ウィルが肩を叩く。
「オマエは思っている以上にアイツの力になっている」
「え?」
ギルが顔を上げると、すべてを悟っているように口角を上げたウィルがいた。
「オマエはもっと自信を持つといい。自信がオマエの力となる」
「あっ……は、はい。ありがとうございます」
苦痛な表情のセイン王子に視線を移動し、ギルは立ち上がった。
「バーミアさん、セイン様を連れて行ってくれますか? セイン様の中に確かに別の力が加わっているのが感じられます。それは光。光の神であるウィル様の力です。きっとセイン様は力を手に入れて下さいます」
「……わかりました。すみません、ボーンズさん。よろしくお願いします」
◇
ボーンズの案内で、医務室のような部屋に通された。バーミアがセイン王子をベッドに置くと、カーラがパンッと手を叩く。
「では、セイン様がお目覚めになるまでお昼ご飯を頂きましょう! ね? うふふ」
「そうだな。人間は食べることも大事だ」
カーラがにこにこと笑顔を振り撒くと、ウィルが同意した。
セイン王子が苦しんでいる中で呑気に食事をする気になれなかったギルだったが、ウィルや大司教であるカーラに言われては断ることも出来ない。しかし、自分が見ていないところでまた何かあったらと思うと気が気ではなかった。
「ならばギルは側にいるといい」
心を読むことが出来るのか、ウィルがギルの背中を押す。
「ありがとうございます! バーミアさんは食事に行ってください。ウィル様やカーラ様から色々と聞いておいてくれると嬉しいです」
「……はい。セイン様のことはお任せします」
「はい」
バーミアはセイン王子とギルを残し、ウィルとカーラ、ボーンズと共に部屋を出た。真っ白な天井の高い廊下をゆっくりと歩く。前を行くカーラが少し速度を落とし、バーミアの隣に来た。
「うふふ。ギルさんはとても強い忠誠心をお持ちのようですね。いえ、バーミアさんがそうではないと言っているわけではないのですよ。ギルさんはどちらかというと、セイン様を守ることに固執されているように見えましたので」
カーラが笑顔で伝えると、バーミアは後ろを振り返った。
「そうですか……。彼はとても優秀ですよ」
「ええ。よく分かります。とても心地よい魔力を感じますので」
◇
セイン王子はベッドの上で全身を這う痛みに耐えていた。その痛みの中でエリー王女のことを思い浮かべる。
早く力を得てエリーのもとに行かなければ!!!
早く……早く……!!!
ディーン王子やバフォールが近くにいるエリー王女の身は大変危険だった。ディーン王子はエリー王女の首に唇を這わすほど接近している。それだけでも許せなかった。あの時は余裕な振りをしていたが、本当は強い嫉妬が駆け巡っていた。それは簡単に憎しみへと変わるものだった。
直ぐにでもディーン王子の魔の手から救い出したい。
あんな場所には置いておきたくない。
今すぐエリーをこの手の中へ!!!
それが出来ないことへの憤りとエリー王女に対する想いが膨らんでいく。
出会ってからずっとそうだった。どんなに欲していても手に入ることはない存在。それなのにディーン王子は簡単に、それも最悪の方法で手に入れようとしている。
それが、本当に許せなかった。
セイン王子がディーン王子のことを考えれば考えるほど全身の痛みは強くなっているのだが、セイン王子はそれに気付かない。ただひたすら痛みに耐えていると、右手が優しく包まれた。
「……ギル……どうしたの……?」
「大丈夫ですか? すみません、魔法で和らげてあげることができなくて……」
ベッド脇の椅子に座るギルは、怒られてしょんぼりした犬のようで、思わず笑ってしまう。
「あはは……大丈夫だよ……こんなの、どうってことない……。それに、ギルが側にいて、こうやってくれるだけで……少し楽になったみたいだ」
気休めで言っているのではなく、本当に楽になっていた。それでもギルは辛そうな表情を崩さない。
「セイン様。私の前では無理をなさらないでください。辛かったら辛いと言って欲しいです」
今にも泣き出しそうな悲痛の表情をしたギル。いつでも自分のことを考えている彼に対し、心配をかけさせたくはなかった。だけど、この状況では嘘だということはあからさまだろう。
「うん……分かった……ありがとう。本当は凄く痛いし、辛い……だけど……あいつを倒せるなら我慢できる……」
最後は怒気を含んでいることが分かるような声だった。それは、体だけではなく心までもが苦しんでいるようにギルは感じた。
「セイン様……。では、その先のことを考えましょう! 彼らを倒し、平和になった楽しいことを」
ギルは少しでもセイン王子の心が晴れるように、側で楽しくなるような話をずっと喋り続けた。そのギルが話す未来はとてもキラキラと輝いていて、セイン王子は聞いているだけで楽しくなっていく。
そして暫くすると、痛みもどんどん和らいでいくのを感じた。光の力が浸透し始めたのだろうか……。
「光の力……」
「え?」
突然セイン王子が呟いたので、ギルは話すのをやめた。
「……闇を打ち消す力……拒絶反応……。光の力を……光を受け入れる……」
ディーン王子のことを考えていた時と、ギルの話を聞きながら平和な未来を望んでいた時の痛みの違い。とりあえず思ったことを口にしてみるとある考えが浮かび上がった。
心の闇は光を受け入れない――――。
『そうだ……。オマエは何のために戦う……』
突如、頭に響くその声と共に部屋が光に包まれ、思わず目を閉じた――――。
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