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第15章 再来

第186話 拘束

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 エリー王女とアランの体が宙に浮かび上がった。地を踏んでいる感覚はあるのに空を飛んでいる。エリー王女の足はすくみ上がり、アランの腕にしがみついた。

「エリー様! アランくん!」

 下にいるセルダ室長が手をさし伸ばすがもう手は届かない。アランは状況を把握するために足元を踏み鳴らしてみる。固い床があるようだ。手を伸ばしてみると壁のようなものに触れた。まるで透明の箱の中に入れられ、それごと宙に浮いているようだった。

「びくともしないっ!」

 叩いてみたがとても破れそうにない。
 少しずつ上昇し、大人三人分の高さまで上ると二人はスーッとバフォールの方へと飛んで行く。

「ア……アランっ……」

 どんどん近付くバフォールにエリー王女は怯え震えていた。アランはエリー王女を後ろに隠し、バフォールを睨む。剣の柄を握り締めるが、この狭い空間では剣も取り出すことは不可能だった。



 圧倒的な力の差に、アランは唾をごくりと飲み込む。

 数十メートル進むと直ぐ目の前に翼を広げ、宙に浮かぶバフォールがいた。

「逃げられなくて残念だったな」

 目を細め不気味に笑うバフォールをエリー王女がアランの背後から覗き見る。すると目と目がぶつかった。バフォールの瞳は真っ黒に塗り潰され、闇へといざなっているかのように恐ろしいものだった。エリー王女は背筋が凍り、声も出ない。


――――これが悪魔……。


「ううっ……」

 遠くから小さくセイン王子の呻き声が聞こえ、エリー王女は我に返る。下を見下ろすとセイン王子が倒れているのが見えた。

「セイン様っ……!」

 仰向けに倒れているセイン王子は、顔を歪ませ意識がない様子だった。至るところから流血している。エリー王女の血の気が一気に引いた。

「嫌あああっ!!! 降ろして下さい!!! セイン様っ!!!」
「セインっ!!」

 アランもまたセイン王子を見下ろし声を張り上げた。

「ああ、悲痛の感情か。とても心地良い……。そうか、お前たち二人はあいつが傷付くと辛いのだな」

 バフォールが声が弾ませ、片手をセイン王子に向けた。

「お待ち下さい!! お願いします!! 私たちをお城へ連れて行くのが目的なのではないのですか?」

 バフォールが何をするつもりなのか気が付いたエリー王女は必死に訴えかける。
 それを聞いたバフォールは眉間にしわが寄った。

 エリー王女とアランを連れて来ること。
 城や街を破壊しないこと。
 誰も殺さないこと。

 ディーン王子からの命令を思い出した。

「チッ……」

 手を下ろし、セイン王子を残念そうに見つめた後、二人を連れて城へと飛び立つ。
 エリー王女とアランは成す術もなく、バフォールの作り上げた透明な箱の中でどんどん小さくなっていくセイン王子を見つめた。

「セイン様……」
「あいつなら大丈夫だ。下にセルダさんがいるから……。それにギルも……。それよりこれからだ……」

 バフォールの背中とその先にあるアトラス城を見つめ、アランは険しい顔をした。このままエリー王女を守りぬくことが出来るのだろうか。自分たちも操られるのだろうか……。

「いや、あいつが必ず助けに来る」
「はい……」

 アランは自分に言い聞かせるように声を漏らとエリー王女が頷いた。
 エリー王女はそう答えたものの、セイン王子が傷ついていく姿をもう見たくはなかった。

 どうすれば……。



 ◇

 アトラス城では、玉座に片肘を付いて座るディーン王子がニヤニヤと笑いながら階下を見下ろしている。

「ディーン王子! 謀ったな!」

 シトラル国王だけは正気に戻っていた。それは、この現実をシトラル国王に見せたかったため、魔法を解いたのだった。

「くっくっくっ。自分の側近に取り押さえられている気分はどうですか? そして、城を奪われた気持ちは? あなたのせいで随分と多くの犠牲者が出ましたねぇ?」

 セロードが力づくでシトラル国王を跪かせている。憎しみに顔を歪ませたシトラル国王はディーン王子を睨むことしか出来なかった。

「でも大丈夫です。今日からあなたの代わりにこの国を治めて差し上げますので」
「そのようなことを許すわけにはいかない!」

 シトラル国王が言葉を放つとディーン王子は吹き出すように笑った。

「どのようにするおつもりですか? あなたの忠実な配下はここにいる。それは今私の手の内にあるのですよ? そして、もうすぐあなたの大切な娘もここに来る。くっくっくっ、彼女は私の妻として迎えてさし上げますので安心してください」

 ディーン王子の歪んだ笑顔にシトラル国王は背筋が凍った。

 エリーは今どこに?
 一緒に逃げたはずのセロードがここにいるということは……。

「前シトラル国王よ。我忠実なるしもべバフォールの手によって変わっていく国を見ていくが良い。間もなく全て我支配下となるのだ!」

 ディーン王子の高らかな笑い声が謁見の間に響き渡った。


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