145 / 235
第12章 二度目の恋
第145話 隠された真実
しおりを挟む
エリー王女はここ数日、いつも以上に明るく元気に振る舞っている。何も言わないが、毎日ギルからの手紙を待っているに違いなかった。しかしあれから数日経った今も、ギルからの手紙はエリー王女のもとに届いていない。
それは協力してくれたハルも上手くことを運べていないということだとアランは思った。
「なぁ、言おうぜ」
エリー王女は教員として子供たちに授業をしており、廊下は今、アランとアルバートしかいない。
「何度も言っただろ? (陛下が)決められたことを破るわけにはいかない」
「そうかもしんねーけど……。今この国にいる時しかチャンスはねえんだよ。大体、当事者が何にも知らないのがおかしいんだろ」
「(エリーに)真実を伝えたところで何も変わらないし苦しめるだけだ。(セイン様に)国のためだと言われてしまっては、これ以上打つ手はない」
アランはアルバートの考えには反対だった。
あのままセイン王子と恋に落ち、上手くいけば問題なかったのに……。
「苦しむかもしんねーけど、得られるものは大きいかもしれない。(エリーちゃんは)真実を知るべきだろ。それに俺たちが知ってることは(陛下は)知らないわけだし、そこは色々と誤魔化してなんとかなるだろ?」
「そこまで踏み込んではだめだ。これ以上は俺たちのエゴでしかない。前を向いて歩いているのに後ろを振り返らせるつもりか? ……どうした?」
急に黙ったアルバートの視線を辿り、アランが振り返るとすぐ後ろにエリー王女が立っていた。すっと血の気が引くのを感じる。
「授業中です。私語はやめていただけますか」
「ああ、悪かった。静かにする」
話を聞かれたわけじゃないと、アランは小さく息を吐いた。
「それと、後ほど私に隠している真実というものを教えていただきますので」
エリー王女は威圧的に言葉を残し、また教室に戻っていった。
「ばれちまったな」
振り返るとニヤニヤと笑っているアルバートがいる。
「……お前、わざと仕向けたな」
◇
夕方、授業を終えたエリー王女はサラを見つけ、声をかけた。
「あの……ごめんなさい、サラ。実は友人と会うので、今日は他の人と過ごしてもらっても良いでしょうか?」
授業中に聞いたアランとアルバートの話を詳しく聞くためだった。
「こっちに知り合いいたんだ。もちろん大丈夫よ。皆と遊ぶから気にしないで」
サラが笑顔で承諾してくれて、ほっとする。
明るく物怖じしない性格からか、サラはローンズ王国でも直ぐに周囲と打ち解けていた。エリー王女が心配しなくても、楽しく過ごすだろう。
サラと別れるとエリー王女から笑顔が消えた。
アルバートからあの時間に聞き耳を立てられそうであれば立てて欲しいと言われ、エリー王女は子供たちに課題を用意して全て聞いていた。
何を隠しているのかは全く見当も付かないが、自分のために動いてくれていたことはよく分かった。
しかしそれは信用されていないということ。
悲しくもあり、腹立たしさもあった。
お父様が隠したいと思っている真実とは?
アランは知るべきではないと考え、アルバートは知るべきだと言う。
セイン様に会う前であれば知ることを選ばなかったかもしれない。
だけど今は違う。
レイを好きだと言ってからセイン様の態度が変わったこと。
セイン様と仲良くすることが国のためにならないという意味。
それらのことが隠された真実の中にある気がした。
私は真実を知りたい……。
◇
宿に戻ったエリー王女はアランたちの部屋に向かった。
アランの表情が硬い。
エリー王女がベッドに腰掛けると、向かい側のベッドにアランが座り、周囲を警戒するようにアルバートが壁際に立った。
「では、お話頂けますか?」
「わかった。落ち着いてよく聞いて欲しい……」
アランが覚悟を決めるように、一呼吸おいた。
「アトラスとローンズの同盟が結ばれた際、ローンズより宝を献上したという話は覚えているか?」
「勿論、覚えております」
「その宝というのはリアム陛下の弟であるセイン様だ」
唐突な話にエリー王女は首をかしげた。
「セイン様が? セイン様がアトラスにいたということでしょうか?」
「ああ。私事を挟まずアトラスに貢献できるようセイン様としての記憶を消し、信頼の証として差し出された人質。それがレイだったんだ」
「……え?」
思ってもみなかった名前が出てきて心臓がどくんと大きく鳴った。両手で口を覆い、アランが言った内容を整理する。
「……先日お会いしたのは……どなたですか?」
「セイン様ご本人だ」
「あの……今、セイン様とレイが同一人物であると仰ってるのですよね?」
「ああ、そう言った」
「セイン様は生きていて……あれ? レイは……亡くなって……?」
話してるうちにばくばくと胸が鳴り響いていた。
「レイは生きている」
アランの言葉がゆっくりと体に染み渡る。
生きている……。
生きている……。
何度も心の中で呟くと視界がじんわりと滲みだす。
「生きている……本当に? それは本当のことですか? だってあの時……」
「本当だ。レイはセイン様として生きてる」
「レイが……レイが生きている…………ああ……」
ついにエリー王女は両手で顔を覆い、涙を流した。
それが本当ならばレイに会いたい……。
もう一度会って確かめたい……。
レイがいることを実感したい……。
――――エリー様、ごめん。俺とはもう会わない方がいい。俺がいると彼を忘れられないだろうし、俺は彼の代わりになれないから……。
――――これはエリー様のためでもあるし、両国にとって大事なことでもあるんだ。だから俺とは会わなかったことにしてほしい。
セイン王子の言葉が過ぎる。
会わないほうがいいという理由とは?
それに……。
「あ、あの……何故、レイはセイン様に戻られたのでしょうか……?」
それは協力してくれたハルも上手くことを運べていないということだとアランは思った。
「なぁ、言おうぜ」
エリー王女は教員として子供たちに授業をしており、廊下は今、アランとアルバートしかいない。
「何度も言っただろ? (陛下が)決められたことを破るわけにはいかない」
「そうかもしんねーけど……。今この国にいる時しかチャンスはねえんだよ。大体、当事者が何にも知らないのがおかしいんだろ」
「(エリーに)真実を伝えたところで何も変わらないし苦しめるだけだ。(セイン様に)国のためだと言われてしまっては、これ以上打つ手はない」
アランはアルバートの考えには反対だった。
あのままセイン王子と恋に落ち、上手くいけば問題なかったのに……。
「苦しむかもしんねーけど、得られるものは大きいかもしれない。(エリーちゃんは)真実を知るべきだろ。それに俺たちが知ってることは(陛下は)知らないわけだし、そこは色々と誤魔化してなんとかなるだろ?」
「そこまで踏み込んではだめだ。これ以上は俺たちのエゴでしかない。前を向いて歩いているのに後ろを振り返らせるつもりか? ……どうした?」
急に黙ったアルバートの視線を辿り、アランが振り返るとすぐ後ろにエリー王女が立っていた。すっと血の気が引くのを感じる。
「授業中です。私語はやめていただけますか」
「ああ、悪かった。静かにする」
話を聞かれたわけじゃないと、アランは小さく息を吐いた。
「それと、後ほど私に隠している真実というものを教えていただきますので」
エリー王女は威圧的に言葉を残し、また教室に戻っていった。
「ばれちまったな」
振り返るとニヤニヤと笑っているアルバートがいる。
「……お前、わざと仕向けたな」
◇
夕方、授業を終えたエリー王女はサラを見つけ、声をかけた。
「あの……ごめんなさい、サラ。実は友人と会うので、今日は他の人と過ごしてもらっても良いでしょうか?」
授業中に聞いたアランとアルバートの話を詳しく聞くためだった。
「こっちに知り合いいたんだ。もちろん大丈夫よ。皆と遊ぶから気にしないで」
サラが笑顔で承諾してくれて、ほっとする。
明るく物怖じしない性格からか、サラはローンズ王国でも直ぐに周囲と打ち解けていた。エリー王女が心配しなくても、楽しく過ごすだろう。
サラと別れるとエリー王女から笑顔が消えた。
アルバートからあの時間に聞き耳を立てられそうであれば立てて欲しいと言われ、エリー王女は子供たちに課題を用意して全て聞いていた。
何を隠しているのかは全く見当も付かないが、自分のために動いてくれていたことはよく分かった。
しかしそれは信用されていないということ。
悲しくもあり、腹立たしさもあった。
お父様が隠したいと思っている真実とは?
アランは知るべきではないと考え、アルバートは知るべきだと言う。
セイン様に会う前であれば知ることを選ばなかったかもしれない。
だけど今は違う。
レイを好きだと言ってからセイン様の態度が変わったこと。
セイン様と仲良くすることが国のためにならないという意味。
それらのことが隠された真実の中にある気がした。
私は真実を知りたい……。
◇
宿に戻ったエリー王女はアランたちの部屋に向かった。
アランの表情が硬い。
エリー王女がベッドに腰掛けると、向かい側のベッドにアランが座り、周囲を警戒するようにアルバートが壁際に立った。
「では、お話頂けますか?」
「わかった。落ち着いてよく聞いて欲しい……」
アランが覚悟を決めるように、一呼吸おいた。
「アトラスとローンズの同盟が結ばれた際、ローンズより宝を献上したという話は覚えているか?」
「勿論、覚えております」
「その宝というのはリアム陛下の弟であるセイン様だ」
唐突な話にエリー王女は首をかしげた。
「セイン様が? セイン様がアトラスにいたということでしょうか?」
「ああ。私事を挟まずアトラスに貢献できるようセイン様としての記憶を消し、信頼の証として差し出された人質。それがレイだったんだ」
「……え?」
思ってもみなかった名前が出てきて心臓がどくんと大きく鳴った。両手で口を覆い、アランが言った内容を整理する。
「……先日お会いしたのは……どなたですか?」
「セイン様ご本人だ」
「あの……今、セイン様とレイが同一人物であると仰ってるのですよね?」
「ああ、そう言った」
「セイン様は生きていて……あれ? レイは……亡くなって……?」
話してるうちにばくばくと胸が鳴り響いていた。
「レイは生きている」
アランの言葉がゆっくりと体に染み渡る。
生きている……。
生きている……。
何度も心の中で呟くと視界がじんわりと滲みだす。
「生きている……本当に? それは本当のことですか? だってあの時……」
「本当だ。レイはセイン様として生きてる」
「レイが……レイが生きている…………ああ……」
ついにエリー王女は両手で顔を覆い、涙を流した。
それが本当ならばレイに会いたい……。
もう一度会って確かめたい……。
レイがいることを実感したい……。
――――エリー様、ごめん。俺とはもう会わない方がいい。俺がいると彼を忘れられないだろうし、俺は彼の代わりになれないから……。
――――これはエリー様のためでもあるし、両国にとって大事なことでもあるんだ。だから俺とは会わなかったことにしてほしい。
セイン王子の言葉が過ぎる。
会わないほうがいいという理由とは?
それに……。
「あ、あの……何故、レイはセイン様に戻られたのでしょうか……?」
0
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる