上 下
38 / 235
第03章 告白

第038話 襲撃

しおりを挟む
 青白い厚い層が行く手を阻む。

「これ以上は無理だ。こう霧が濃くては見つけるどころか俺らも道を見失ってしまう」

 雇った男の一人が黒ずくめの男に声をかけた。男は立ち止まり、霧の奥を睨む。

 側近の一人は魔法が使えると聞いていたが、今回傍にいたのがそうだったのだろう。しかも、奇襲をかける前から湖沿いの道から逸れ、森へと逃げ込んでいた。あれさえなければ見失わずにすんだものを……。

「どうするつもりだ?」

 無言のまま立ち尽くしていると、雇った男がもう一度尋ねてきた。このままではあるじに報告できない。魔法を使えようが一人で守り切るには限界があるだろう。

「このまま向かう。霧がある場所は王女が通った証。目的は変更しない。騎士団を足止めをしている今がチャンスなのだ」



 ◇

 アランは隣の部屋にいたマーサの手を取り、滞在所の外へと連れ出した。火の回りが早い。黒煙と火の粉が渦を巻き、炎の熱が焼けるように痛い。燃える音に混じって、あちこちで金属がぶつかり合う音が聞こえてくる。布で口を抑えていても、きな臭さが鼻を突き刺した。

 美しかった場所が、今は地獄絵図のようなものに変わり果てている。

「アラン! エリー様のところに行くんだろ? あとは俺に任せて早く行け!」

 近づいてきた鋭い眼光の背の高い騎士は、急かすように言い放つ。副隊長のアルバートだ。
 アランはアルバートに頷き返すと、マーサの方に向き直る。

「アルバートと一緒にいれば安全です。エリー様のためにも無事でいてください」
「はい。エリー様を宜しくお願いします。アラン様もどうかご武運を」

 アランは頷いた後アルバートに目で合図を送り、素早くその場から立ち去った。

 表の方は爆発音や怒号、金属がぶつかり合う音が激しく聞こえてくる。騎士団に対して、傭兵の人数はその三倍。しかし騎士達は怯まず戦いに挑んでいた。

 アランもまた走りながら近づいてくる傭兵を流れるように次々と斬り倒し、道を切り開いていく。奥のほうに目を向けると、後方から大きな炎の玉が飛んで来ているのが見えた。

「珍しいな、魔法使いか」

 森の一部が霧に包まれていることを確認していたアランは、最短ルートを走る。恐らくそこにエリー王女とレイがいる。

 その進行方向の最奥に魔法使い。

 丁度良い。望むところだ。

「ビルボート、俺が魔法使いを倒す! 援護を頼む!」

 最前線で戦っていたビルボートを見つけると、アランは自分の剣に魔法薬をかけ横に振る。



 剣から炎が飛び出し、横に広がる。ビルボートが後ろから飛んできた炎を避けると、アランはそのまま数人の敵を薙ぎ倒した。

 二人は目で合図を送ると、敵の攻撃を避けながら一気に敵の後方へと突き進む。
 後方部隊は遠隔攻撃。
 ならば懐に入ってしまえばいい。

 アランが魔法薬の入ったビンを森に向かって投げた。
 奴らは避けるのは得意ではない。

 爆発が起き、森に隠れていた弓矢部隊が一掃される。

「周りの敵はビルボートに任せた」
「おぅ」

 横から矢が飛んでくるが寸前で避け、そのまま突き進む。
 後方に近づくと、次々と炎の玉が飛んでくる。
 アランが簡単に炎を避けていたからか、ひときわ大きな炎が跳んできた。

「おいっ!」

 避けようとしないアランに向かってビルボートが叫ぶ。

「大丈夫だ」

 アランが炎に向かってビンを投げると、炎の光が強くなり、水蒸気が舞うように炎ごと消滅した。
 その奥で魔法使いの男が驚き目を見開いている。

「悪いな、魔法は効かないみたいだ」

 表情も変えず、アランはそのまま魔法使いに斬りかかった。
 しかしぶつかったのは魔法使いの肉体ではなく、硬い金属。
 剣と剣が交差する。

 剣士が割って入ってきたのだ。

「お前の相手は俺だよ!」

 その横からビルボートが剣士に攻撃をしかけると、ターゲットがアランからビルボートへ移る。アランは少し距離をとり魔法使いに視線を戻した。

「殺しはしない」

 魔法使いは貴重だ。剣に薬を振りかけ、脅える魔法使いに斬りかかった。剣が魔法使いの頬を掠めると赤い血がつーっと頬を伝う。その瞬間、魔法使いは膝からがくっと崩れ落ちた。

 即効性のある麻痺薬を剣先にかけたのだ。魔法使いは体が痺れて動かない様子でアランを睨み付けている。

「後でゆっくりと話をきいてやる」

 アランは言い捨てた後、すぐ襲いかかってくる新たな敵と交わる。

「もういい、お前は行け!」

 ビルボートが剣士と戦いながら声を張り上げる。
 確かにいつまでも最前で戦っているわけにはいかない。

「わかった。後は任せた」

 攻防を繰り返しながら少しずつ戦線から離れ、エリー王女を助けるべく、霧が発生している森の方へとかけていった。


 徐々に霧が増えてくる。


 この方角であれば逃げる候補は二つ。この森を抜けるとすぐ町がある。そこで助けを求めるか、迂回をして敵の目を欺くか。

 距離の近さで言えば町だが、二人で想定してきたことを思い出す。レイが選択するのは……。

 アランはコンパスを取り出すと、決めた方角へと走った。



騎士団副隊長アルバート



※黒ずくめの男
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

処理中です...