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奪還の章

数の暴力

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 ディアンは先程の解剖結果をメモにまとめると、サンプルとして残した魔物の脚とともに、団員の一人を王城へと帰還させた。

 残る八名で、東の街に巣食う魔物どもを撃破して行く。
「みんな準備はいいかなー」
 アリアウェットの呼びかけにザックをはじめとする団員たちは呼応する。
「おう!」
 彼らの士気は高い。
 
 団員達はアリアウェットとディアンによって|肉体強化【全能力解放】と|武器強化【雷撃剣】を纏うと、街になだれ込んだ。
 魔物が発する光は、筒の位置に注意していれば十分に避けることができる。
 また、最初の一撃を避ければ、その後に魔物へと攻め込むには十分なクールタイムが発生するのも検証済みだ。
 その隙に魔物たちの関節に雷撃剣を打ち込めば、雷撃が魔物の内部を走り一撃で破壊することができる。

 団員達は魔物を見つけ次第、その関節に雷撃を伴う剣を撃ち込み、各個撃破して行く。
 アリアウェットとディアンも電撃牢で次々と魔物を捕らえ破壊していく。
 その結果、彼らは数刻で数十体の魔物を狩ることに成功した。

 街から魔物の姿がうかがえなくなったところで、アリアウェットたちは一旦街の中央広場に集合した。
 それぞれが各々の成果に達成感を満たした表情を浮かべている。

 すると、ぽつりぽつりと、これまで魔物から隠れていたであろう人々が、アリアウェットたちの前に姿を現した。

 彼らは真紅の女性騎士を始めとする面々に初めて接した。
 当然彼らが何者なのかわからないのだから、怯えているのも当然だろう。
 そこでディアンが人々に事情を説明しようと一歩踏み出したところで、一人の老婆が意を決したように女性騎士の前へと進み出た。

「あのう、騎士様方は、どちらの軍の方々でしょうか?」
 するとアリアウェットはいつもの笑顔で答えた。
「私はアリアウェット・ワールフラッド。先王の娘です」
「アリアウェット様?」

 老婆を始めとする市民達に、彼女の名前は予想以上に効果があった。

「アリアウェットさまだって?」
「もしかして魔王のお怒りを鎮めた姫さま?」

 一旦静まった市民たちは、同時に歓声をあげた。
「姫さまたちが魔物を討伐なさってくださった!」

 ディアンは人々の歓声が落ち着くのを待ってから、先ほど前に進み出た老婆に尋ねた。
「あの魔物どもはどこから現れた?」
「ここからさらに東の砂漠からのようですじゃ」

 念のため他の数人に質問をしても、回答はほぼ同じだった。
「ディアン、砂漠に行きましょう」
 そうはやるアリアウェットを押さえながら、ディアンは市民達を安心させるのを優先させる。

「我らはアリアウェット姫およびの姫の親衛隊である。これより我々は先行して魔物の討伐に東の砂漠へと向かう。街の諸君よ、間もなくダグラス王の軍もこちらに到着するであろう。それまでは引き続き用心を続けよ!」

 思わぬところで聞かされたダグラス王の名に、市民達の歓声は一掃湧きあがった。
 そう、彼らにとってのダグラスは、魔王からの横暴をなんとかしのぎきり、この街を守ってくれた領主なのだ。

「それではみなさん、出発!」
 アリアウェットの号令で、一団は人々の歓声に背を押されながら東に馬を走らせていった。
 しかし一昼夜の後、彼らは絶望に囚われることになる。
 
「何よこれ!」
 アリアウェットはディアンと旅をするようになってから、多分初めて「劣勢」を意識することとなった。
 なぜならば、東の街のさらに東、間もなく砂漠というところで、魔物どもが大地を埋め尽くしていたからだ。
 その数はざっと数万といったところか。

 魔物どもはそれぞれがキュイキュイと音を鳴らしながら、すし詰め状態で何かを待っているような様子を見せている。

 アリアウェットとディアンは飛翔を唱え、上空から改めてその光景を目の当たりにすると唖然とした。
 その数は数万どころではなかった。
 魔物どもは、砂漠が見える地平線まで大地を彼らの色である黄土色に染めていたのだ。

 魔物どもは動かない。
 時々すし詰めの集団からはじかれたように手前から数体が押し出されると、それらがこぼれたかのように街の方に向かっていく。

 街に現れた魔物は、ほんの、ごくほんの一部だったのだ。
 
 魔物どもは密集し固まったままで、こちらを襲ってくる様子は今のところ見られない。
 しかし、一度でも向かって来られれば、東の街は一瞬の内に破壊され、そのままの勢いで王都も魔物で埋め尽くされてしまうだろう。
 つまり魔物どもにワールフラッドは文字通り「蹂躙」されてしまうのだ。

 すると魔物どもの一部が一斉に宙に浮くアリアウェットとディアンにそれぞれの筒を向けた。
 続けて一斉射撃が彼らを襲う。

 二人は光の雨に晒される。
 しかしそれはなんとか反射楯リフレクトシールドで凌いだ。
「気づかれたか。姫様、とにかく足止めをするぞ!」

 二人は大地に降り立つと、絶望的な数を前に「守備戦」を開始した。
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