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人外の章

逢瀬

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 十数年前、ゼノスは掘り出し物の古文書を探しに、ワールストームの街を訪れていた。
 それは主に喧嘩仲間をとっちめる新たなネタを探すためだ。

 当時の彼女もネコミミ熟女の姿である。
 そのいでたちははっきり言っていい女。

 しかし、彼女から発せられる独特の雰囲気からか、彼女に言い寄る男は皆無であり、逆に人々は彼女を避けた。
 そして彼女も、自らが避けられていることにはとっくに慣れていた。

 しかしその日は一人の田舎騎士が彼女に声を掛けてきた。

「おお、美しきご婦人よ。この男やもめと食事などいかがかな」
 それがドラゴだ。
 彼は白昼堂々とネコミミ熟女にナンパを仕掛けたのである。

 これまでずっと周囲から避けられていたゼノスは、さすがに面食らった。
 しかしそこは熟女。
 付き合ってみるのもおもしろそうだと、世間知らずのネコミミを演じてみることにする。

「騎士様、私はこの街を訪れるのは初めてなのです。よろしければご案内をお願いできますでしょうか」
 ダメ元のナンパが成功してしまったドラゴは、うろたえながらも、その乏しい知識で彼女の案内を始めた。

 まずはランチ。
 彼は普段の唐揚げ屋でなく、レストランにゼノスを誘い、子羊のコートレットを奮発する。
 それから繁華街へ。
 彼は彼女に街を案内しながら、彼には息子と娘がいることを正直に語った。
 一方のゼノスはドラゴに対しては、彼女はワールフレイムで一人暮らしをしているとだけ語った。

 他愛もない会話を繰り返す二人。
 だがそれは、ドラゴにとってもゼノスにとっても、久しぶりのものであった。

 街をひと通り回った頃には、空は青から橙色に変わっている。
「少し早いですが、ディナーでもいかがですかな」
 彼は彼女をディナーショーに誘う。
「構わないけれど次のお店は割り勘でね」
 ゼノスは普段の妖艶さを忘れてしまったような笑顔で頷いた。

 二人はある店で食事とショーを楽しみ、そこでのちょっとしたトラブルさえ、ハプニングとして楽しんだ。
 ゼノスは酔って豪快に笑っている隣の男を見つめる。
 馬鹿で豪気で実直で笑える男。
 彼女はドラゴに惹かれた。

 そうしているうちに太陽は落ち、世界は大人の闇に包まれる。
 彼らは当たり前のように、大人の世界で結ばれていった。
 
 ドラゴとゼノスは、数十日の間を空けて、ワールストームでデートを重ねた。
 彼は「息子や娘たちと一緒に住まないか」と彼女と会うたびに誘っている。
 しかしそのたびに彼女は笑顔で断る。
 但しそれは拒否ではない。
「赤ちゃんができたら、考えるわね」

 何度目かのデートの時に、ゼノスは自らを解呪師だとドラゴに明かした。
 それを聞き、真顔になったドラゴも、ゼノスに彼の息子と娘の真相を明かした。
 今はまだ幼いが、それなりの歳になったら、真実を教えてやりたいと。
 そうしていつもの様に別れ、気分よく飛翔フライで舞っていたゼノスは油断していた。

 彼女は突然竜王に勝負を挑まれ、敗北した。
 そして敗北の代償に受肉の指輪を奪われてしまう。
 
 ゼノスは自らのみずぼらしい姿を見つめ、ここが引き際だと想う。
 このまま竜王に再戦を挑んでも勝ち目はない。
 指輪の姿でドラゴを騙していたのではないかと、心もチクチク痛む。
 この姿ではもう逢えない。
 逢う気もしない。

 だから彼女はワールストームに行くのをやめた。
 
 それから数年の後、どこで調べたのか、インプネットワークを通じて、ドラゴからゼノスに一通の手紙が届いた。
 そこには、これまでの礼と、別れの言葉が書かれていた。
 彼は自分が嫌われたと勘違いしているらしい。

 日を改めて、再びドラゴから手紙が届いた。
 そこには息子と娘への思いと、解呪の願いが書き綴られていた。

「バカね」
 ゼノスはドラゴの思いを受け入れ、その時を待つことにする。

「どうじゃ、大人の物語じゃろう」
 ゼノスが自慢気に豊かな胸を張った。

「ドラゴおじさまって、そんなことをしてらっしゃったのね」
 あるときからお土産が減ったことをシルフェーヌは思い出す。

「竜王さんが諸悪の根源かあ。でも、勝負だからしかたがないよね」
 アリアウェットもよくわからないといった顔でゼノスを見つめ返す。

「まあ、その辺を肴に、二人でガールズトークを楽しみながら留守番をしておいで」
 ゼノスは二人の頭を優しく撫でてやる。
 そして部屋から出た。

 アリアウェットとシルフェーヌに見せた微笑みとは百八十度異なる、ヤル気満々の表情で。
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