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人外の章

街に到着

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 ディアンは気にしないことにした。
 馬車に乗員が一名増えていることを。

 灼熱の荒野での旅の後半は、楽なものだった。
 魔物どもは荒野の主がそこにいることを敏感に察知し、一行の前に姿を現すことはなかった。
 竜王の気配がわからない人間どもも、御者席に陣取るガルバーンの気迫だけで散り散りに逃げて行った。
 
「今日はディアンから分けていただいた果実酒で、ソルベを作ってみました」
「俺はクレープに豆乳のアイスクリームを挟んでみたぞ」
 相変わらずディアンとシルフェーヌはデザート探求にいそしみ、一名増えた乗員たちも、彼らのデザートを楽しみながら西に向かっていく。
 そんなこんなで、一行は無事、ワールストーム東の街に到着した。

 街では化物三匹以外の四人で、ここまでの戦利品をどう処分するか話し合いを行うことにする。
 今回の戦利品は黄金天竺鼠ゴールデンカピバラの毛皮と肉。
 それらにアリアウェットが作成した最高級バッグセットが五セットある。

「どうした姫様」
 アリアウェットが何か言いたそうなのに気づいたディアンが、背を押してやる。
 するとアリアウェットは上目遣いでディアンにお願いをした。
「バッグだけど、シルフェと私で一セットづつもらってもいい?」
「そりゃ問題ないだろ。こしらえたの姫様だし」

 何を当たり前のことをというディアンの反応にガルバーンも横から口を出した。
「どうせなら、ゼノスの婆さんにどれが似合うか見てもらったらどうだ」

 ということで、ゼノスとアリアウェットはバッグを積んである夫妻の馬車に移動し、色目を合わせてみる。
 さすが年寄りとはいえ女性、ゼノスは二人にアドバイスをしていく。

「アリアの銀の髪には純白が映えるの。竜革としても珍しい色だし、それにしておけ」
「シルフェはまさしく髪の色と同じ青白がいいじゃろ。補色のドレスをまとえば良う映えることだろうよ」

 ゼノスに合わせてもらい、満足げにバッグを抱える二人の姿を眺めながら、ディアンはあることを思いついた。
「なあ婆さん、赤髪の娘に似合うとしたら、どのバッグになる?」
「そうじゃな。まだ若い娘なら、この一番明るい赤銅色がいいじゃろう。残りの茶色と深紅は、どちらかというとマダム連中向けじゃな」

 ゼノスが指差したのは、ベーシックな赤銅色に、ところどころ赤色が宝石のように輝く革のバッグだ。
「ジルの分だね」 
 アリアウェットの無邪気な指摘に、ディアンは年甲斐もなく思わず赤面してしまう。
 そんな雰囲気を振り払うように、彼はゼノスに尋ねた。

「ところで婆さんは必要ないのか?」
「自分で荷物を持つ女は二流じゃよ」
「さいですか」
 さすがだババアと、ディアンは一人感心した。
 
 ちなみに、ゴールデンカピバラの毛皮で金ぴかのコートをこしらえることについては、女性三人が全員着用を拒否した。
 なので毛皮はおとなしく売却することにする。
 肉は贈答用に取っておけばいいというのはディアンの判断で、今回は売りに出さないことにした。
 
 ということで、一行は冒険者の店に到着すると、ディアンとガルバーンでゴールデンカピバラの毛皮を売るために受付に向かった。

「ご無沙汰っす。ディアンソンさん!」
「おかえりなさい。ディアンソンさん!」

 相変わらずディアンはこの街では人気者。
 しかし前回と異なるのは受付嬢の反応だ。
 以前はひたすらディアンから露骨に目をそらしていた受付嬢だが、今回はディアンの顔を見つめては頬を赤らめている。
 そんな彼女に構わず、ガルバーンは毛皮の山をカウンターに積み上げた。
「これを売却したいんだが」
「ちょっと確認してきますね」
 その後、ワールフレイムの時と同様に一枚当たり銀貨五十枚での買い取りとなった。

「ところで、俺って気持ち悪いか?」
 突然のディアンからの問いかけに、受付嬢はブルンブルンと顔を左右に振った。
「いえ、そんなことはございません!」

 すると同時にディアンの意識に、受付嬢の声が響いてくる。
『何で私、前はディアンソン様のことを気持ち悪いと思ってたのだろう。こんなに素敵な方なのに。これからは嫌われないようにしなくちゃ!』

 受付嬢からの心の声に、小さくガッツポーズをとるディアン。 
 しかしその姿を遠目で見つめている化物三匹は、今にも吹き出しそうな表情となっていた。
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