117 / 147
人外の章
街に到着
しおりを挟む
ディアンは気にしないことにした。
馬車に乗員が一名増えていることを。
灼熱の荒野での旅の後半は、楽なものだった。
魔物どもは荒野の主がそこにいることを敏感に察知し、一行の前に姿を現すことはなかった。
竜王の気配がわからない人間どもも、御者席に陣取るガルバーンの気迫だけで散り散りに逃げて行った。
「今日はディアンから分けていただいた果実酒で、ソルベを作ってみました」
「俺はクレープに豆乳のアイスクリームを挟んでみたぞ」
相変わらずディアンとシルフェーヌはデザート探求にいそしみ、一名増えた乗員たちも、彼らのデザートを楽しみながら西に向かっていく。
そんなこんなで、一行は無事、ワールストーム東の街に到着した。
街では化物三匹以外の四人で、ここまでの戦利品をどう処分するか話し合いを行うことにする。
今回の戦利品は黄金天竺鼠の毛皮と肉。
それらにアリアウェットが作成した最高級バッグセットが五セットある。
「どうした姫様」
アリアウェットが何か言いたそうなのに気づいたディアンが、背を押してやる。
するとアリアウェットは上目遣いでディアンにお願いをした。
「バッグだけど、シルフェと私で一セットづつもらってもいい?」
「そりゃ問題ないだろ。こしらえたの姫様だし」
何を当たり前のことをというディアンの反応にガルバーンも横から口を出した。
「どうせなら、ゼノスの婆さんにどれが似合うか見てもらったらどうだ」
ということで、ゼノスとアリアウェットはバッグを積んである夫妻の馬車に移動し、色目を合わせてみる。
さすが年寄りとはいえ女性、ゼノスは二人にアドバイスをしていく。
「アリアの銀の髪には純白が映えるの。竜革としても珍しい色だし、それにしておけ」
「シルフェはまさしく髪の色と同じ青白がいいじゃろ。補色のドレスをまとえば良う映えることだろうよ」
ゼノスに合わせてもらい、満足げにバッグを抱える二人の姿を眺めながら、ディアンはあることを思いついた。
「なあ婆さん、赤髪の娘に似合うとしたら、どのバッグになる?」
「そうじゃな。まだ若い娘なら、この一番明るい赤銅色がいいじゃろう。残りの茶色と深紅は、どちらかというとマダム連中向けじゃな」
ゼノスが指差したのは、ベーシックな赤銅色に、ところどころ赤色が宝石のように輝く革のバッグだ。
「ジルの分だね」
アリアウェットの無邪気な指摘に、ディアンは年甲斐もなく思わず赤面してしまう。
そんな雰囲気を振り払うように、彼はゼノスに尋ねた。
「ところで婆さんは必要ないのか?」
「自分で荷物を持つ女は二流じゃよ」
「さいですか」
さすがだババアと、ディアンは一人感心した。
ちなみに、ゴールデンカピバラの毛皮で金ぴかのコートをこしらえることについては、女性三人が全員着用を拒否した。
なので毛皮はおとなしく売却することにする。
肉は贈答用に取っておけばいいというのはディアンの判断で、今回は売りに出さないことにした。
ということで、一行は冒険者の店に到着すると、ディアンとガルバーンでゴールデンカピバラの毛皮を売るために受付に向かった。
「ご無沙汰っす。ディアンソンさん!」
「おかえりなさい。ディアンソンさん!」
相変わらずディアンはこの街では人気者。
しかし前回と異なるのは受付嬢の反応だ。
以前はひたすらディアンから露骨に目をそらしていた受付嬢だが、今回はディアンの顔を見つめては頬を赤らめている。
そんな彼女に構わず、ガルバーンは毛皮の山をカウンターに積み上げた。
「これを売却したいんだが」
「ちょっと確認してきますね」
その後、ワールフレイムの時と同様に一枚当たり銀貨五十枚での買い取りとなった。
「ところで、俺って気持ち悪いか?」
突然のディアンからの問いかけに、受付嬢はブルンブルンと顔を左右に振った。
「いえ、そんなことはございません!」
すると同時にディアンの意識に、受付嬢の声が響いてくる。
『何で私、前はディアンソン様のことを気持ち悪いと思ってたのだろう。こんなに素敵な方なのに。これからは嫌われないようにしなくちゃ!』
受付嬢からの心の声に、小さくガッツポーズをとるディアン。
しかしその姿を遠目で見つめている化物三匹は、今にも吹き出しそうな表情となっていた。
馬車に乗員が一名増えていることを。
灼熱の荒野での旅の後半は、楽なものだった。
魔物どもは荒野の主がそこにいることを敏感に察知し、一行の前に姿を現すことはなかった。
竜王の気配がわからない人間どもも、御者席に陣取るガルバーンの気迫だけで散り散りに逃げて行った。
「今日はディアンから分けていただいた果実酒で、ソルベを作ってみました」
「俺はクレープに豆乳のアイスクリームを挟んでみたぞ」
相変わらずディアンとシルフェーヌはデザート探求にいそしみ、一名増えた乗員たちも、彼らのデザートを楽しみながら西に向かっていく。
そんなこんなで、一行は無事、ワールストーム東の街に到着した。
街では化物三匹以外の四人で、ここまでの戦利品をどう処分するか話し合いを行うことにする。
今回の戦利品は黄金天竺鼠の毛皮と肉。
それらにアリアウェットが作成した最高級バッグセットが五セットある。
「どうした姫様」
アリアウェットが何か言いたそうなのに気づいたディアンが、背を押してやる。
するとアリアウェットは上目遣いでディアンにお願いをした。
「バッグだけど、シルフェと私で一セットづつもらってもいい?」
「そりゃ問題ないだろ。こしらえたの姫様だし」
何を当たり前のことをというディアンの反応にガルバーンも横から口を出した。
「どうせなら、ゼノスの婆さんにどれが似合うか見てもらったらどうだ」
ということで、ゼノスとアリアウェットはバッグを積んである夫妻の馬車に移動し、色目を合わせてみる。
さすが年寄りとはいえ女性、ゼノスは二人にアドバイスをしていく。
「アリアの銀の髪には純白が映えるの。竜革としても珍しい色だし、それにしておけ」
「シルフェはまさしく髪の色と同じ青白がいいじゃろ。補色のドレスをまとえば良う映えることだろうよ」
ゼノスに合わせてもらい、満足げにバッグを抱える二人の姿を眺めながら、ディアンはあることを思いついた。
「なあ婆さん、赤髪の娘に似合うとしたら、どのバッグになる?」
「そうじゃな。まだ若い娘なら、この一番明るい赤銅色がいいじゃろう。残りの茶色と深紅は、どちらかというとマダム連中向けじゃな」
ゼノスが指差したのは、ベーシックな赤銅色に、ところどころ赤色が宝石のように輝く革のバッグだ。
「ジルの分だね」
アリアウェットの無邪気な指摘に、ディアンは年甲斐もなく思わず赤面してしまう。
そんな雰囲気を振り払うように、彼はゼノスに尋ねた。
「ところで婆さんは必要ないのか?」
「自分で荷物を持つ女は二流じゃよ」
「さいですか」
さすがだババアと、ディアンは一人感心した。
ちなみに、ゴールデンカピバラの毛皮で金ぴかのコートをこしらえることについては、女性三人が全員着用を拒否した。
なので毛皮はおとなしく売却することにする。
肉は贈答用に取っておけばいいというのはディアンの判断で、今回は売りに出さないことにした。
ということで、一行は冒険者の店に到着すると、ディアンとガルバーンでゴールデンカピバラの毛皮を売るために受付に向かった。
「ご無沙汰っす。ディアンソンさん!」
「おかえりなさい。ディアンソンさん!」
相変わらずディアンはこの街では人気者。
しかし前回と異なるのは受付嬢の反応だ。
以前はひたすらディアンから露骨に目をそらしていた受付嬢だが、今回はディアンの顔を見つめては頬を赤らめている。
そんな彼女に構わず、ガルバーンは毛皮の山をカウンターに積み上げた。
「これを売却したいんだが」
「ちょっと確認してきますね」
その後、ワールフレイムの時と同様に一枚当たり銀貨五十枚での買い取りとなった。
「ところで、俺って気持ち悪いか?」
突然のディアンからの問いかけに、受付嬢はブルンブルンと顔を左右に振った。
「いえ、そんなことはございません!」
すると同時にディアンの意識に、受付嬢の声が響いてくる。
『何で私、前はディアンソン様のことを気持ち悪いと思ってたのだろう。こんなに素敵な方なのに。これからは嫌われないようにしなくちゃ!』
受付嬢からの心の声に、小さくガッツポーズをとるディアン。
しかしその姿を遠目で見つめている化物三匹は、今にも吹き出しそうな表情となっていた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる