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人外の章

それぞれの指輪

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「ねえ、何で竜王さんはこんなに気前がいいの?」
 アリアウェットの問いにはゼノスが答えた。

「まあ、取った取られたで百数十年。今はゲームみたいなもんじゃの」
 アドルフもうなずいている。
「そうそう、人生には刺激が必要じゃ」
 竜王もそれに同意している。
「新しい技を試す絶好の機会であるからな」

 要は三人とも、遊びの一環として指輪争奪戦をやっているのであった。

「それじゃ、指輪をはめてみるかの」

 まずはゼノスが理想体の指輪をはめる。
 すると彼女の身体がクソババアからネコミミ熟女に変化した。

 その妖艶さにディアンとガルバーンは思わず同時にため息をついた。
「こんな世界もあったのか」
 そんなディアンの横でアリアウェットも素直に頷いている。

「俺、この世界を知ってよかった」
 そう漏らしたガルバーンの尻をシルフェーヌがつねった。
 
 次にアドルフが亡者収穫の指輪をはめる。
 しかし彼に特に変化はない。

「それってどんな効果なんだ?」
 ディアンの疑問にアドルフが好々爺然としながら、恐ろしいことを解説した。

「儂が殺した連中が、儂のところに、忠実な亡者アンデッドとなって生えてくるのじゃよ」
 ちなみにティーゲルとパンテルは、元ワールフレイムの王族に連なるものだったらしい。
  
「それでは次は俺たちだな」
「はい、旦那様」
 ノース夫妻が同時に一心同体の指輪をはめる。
 すると互いの意識に、互いの居場所が緑の点となって認識されるようになった。
 さらに二人の身体能力全てが倍加されていくのも同時に感じた。

 するとそこに竜王が指輪の効果を補足した。
「互いの点が示す色で、相手の感情もある程度読み取れるぞ。まあ、色々と試してみろ。ちなみに一心同体の指輪は呪物なので、相方が死ぬまで外れんぞ」

 後半の何やら物騒な説明ににガルバーンとシルフェーヌは聞く耳を持たなかった。
「問題なし!」
「私も問題ありませんわ」

 熱々の二人を眺めながら、竜王はつぶやいた。
「俺知らねー」

 今度はアリアウェットの番。
 彼女は並列思考の指輪をはめてみる。
 すると彼女の意識に加え、もう一つの思考が追加された。

 私はアリアウェットよ。
 私はアリアウェットです。
 私はアリアウェットですわ。
 ……。

「あ、一つ増えた」
 どうやら四つ目は意識ではなく思考なので、アリアの意識に追随するようだ。

 四つ目の思考を認識したアリアウェットは、その場ですぐに贖罪を唱えてみる。

「東におわす春を司る青竜よ。我に害なす罪人を捕らえ懲らしめて」
「南におわす夏を司る朱雀よ。我に害なす罪人を捕らえ懲らしめて下さいますよう」
「西におわす秋を司る白虎よ。我に害なす罪人を捕らえ懲らしめていただけますこと」
「北におわす冬を司る玄武よ。我に害なす罪人を捕らえ懲らしめよ」

 するとディアンの四方に四聖獣が召喚された。
 それぞれが悪鬼を抱えて。

「やめんかバカモン!」
アトー……痛い!」
 慌ててゼノスがアリアウェットを後頭部を張り倒して、呪文を中断させる。
 呪文が中断されたため、四聖獣は完全に実体化することなく、残念そうな表情を見せながら送還されていった。
 この日ゼノスはディアンにとって命の恩人となった。

「次はお前の番だぞ」
 アリアウェットの呪文によって死を覚悟し走馬灯を巡らせていたディアンに、竜王はなぜか笑いをこらえるかのような表情で指輪の装着を促した。

「人が死にかけたのがそんなに面白いか?」
 竜王の吹き出しそうな表情を見て怒りにより市の覚悟を上書きしたディアンは、努めて冷静に指輪をはめた。

「はめおったぞ」
 竜王の言葉を合図とするかのように、ゼノス、アドルフ、竜王の三人はそろって大爆笑を始めた。

「え? 何? 何?」
 突然響き渡るバケモノどもの爆笑に動揺しているディアンに、竜王が笑いを一旦こらえながらディアンを促した。

「貴様、我に何か質問してみろ」
 竜王が何を言っているのかわからないが、ディアンはとにかく竜王に質問してみることにする。
 まずはこの質問から。
「竜王は何がおかしいんだ?」

 すると竜王はおかしさにゆがむ表情を無理やり平静に戻そうとしながら答えた。
「ん、特に何もおかしくはないぞ」

 しかし竜王の返事とともに、同じ竜王の声でディアンの頭に直接言葉が響き渡る。
『貴様の愚かさが楽しくて仕方ないのだ! 馬鹿め!』

 そう、「告白の指輪」とは、意識を向けた相手の本心を察知してしまう指輪なのだ。
 
「ちなみにそれも呪物じゃ。並の方法では解除できんぞ。あたしは解除してやらんからな」
 ゼノスの嫌らしくゆがむ表情にも、ディアンは指輪の恐ろしさがいまいちピンとこない。

 相手の本心がわかるのがなぜ呪いなんだ?
 
「まあいい。いただくモノもいただいたし、ワールストームに向かうぞ」
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