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人外の章
新たな道連れ
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ディアンたちは三日ほどで旅の準備を整えた。
シルフェーヌはガルバーンから金貨を一枚ねだり、アリアウェットを荷物持ち代わりにして、何やら色々と買いこんでいるようだ。
まあ大勢には影響ないだろうと、ディアンは二人を放っておく。
帰りの食糧も無事買い込んだ。
それは行きと同じ豆類が中心の華麗なイソフラボンライフである。
ところが間もなく出発を指示しようかというところで、ディアンの元に彼らが現れた。
「おい小僧、ちょっとこっちに来い」
二人は物陰からディアンに手招きをして呼ぶ。
「何か用か? クソババアにクソジジイ」
ディアンが遠慮なく彼らに罵声を浴びせた。
そう、彼らとは解呪師ゼノスと死霊魔術師アドルフだ。
「年長者に対しての口の聞き方がなっとらんな」
「年寄りは敬わなければいかんのう」
ゼノスとアドルフはニヤニヤ笑いながらディアンに向けて勝手なことを言っている。
ところが次の瞬間、ゼノスは真顔になった。
「貴様、先日のガルとの会話の中に出てきた『象の怒り』に反応したじゃろ」
ゼノスからの思わぬ指摘に、ついディアンは身体を硬直させてしまった。
その反応に気づいた二人は、再び嫌らしい笑みを浮かべる。
「貴様が知っているのは、技か? 店か?」
二人から向けられる圧倒的な圧力に、ディアンは購えない。
「両方だ……」
彼が振り絞った回答に、ゼノスとアドルフは満足したような表情となった。
「小僧、貴様に選択肢はないぞ」
死霊魔術師から突き付けられた台詞に、ディアンは魔王以来の恐怖を味わった。
ディアンを馬車裏にくぎ付けにすると、アドルフは宿で旅の支度をしているアリアウェットの元に向かった。
「お嬢ちゃん、元気だったかの」
「あ、アドルフさん。こんにちは!」
死霊魔術師の姿はひたすらキモイ化け物だが、受肉しているときはやさしそうに見える爺さんを、アリアウェットは手を振って迎え入れた。
「お嬢ちゃん達は、これから国に帰るのかい?」
「そうよ! その前に、ガルとシルフェが住んでいた家に寄るけどね」
「そうかいそうかい。ところでお嬢ちゃんは、儂のことは嫌いかの?」
「そんなこと無いわ! 死霊魔術師はキモいけど、今のアドルフさんはやさしそうで素敵よ」
ニコニコと答えるアリアウェットに、資料魔術師もつい破顔する。
「嬉しいことを言ってくれるのう。それではひとつ、このジジイのお願いを聞いてくれるかの?」
「どうしたの?」
「ひとつ儂とゼノスも、ワールストームに連れて行ってくれんかの?」
「わかったわ。ディアンに相談してみるね」
アドルフがアリアウェットに小芝居を仕掛けている間に、ゼノスはディアンの耳元で冷たく囁いた。
「アリアに決めさせるように仕向けるのが、貴様に対するせめてもの私らの慈悲じゃ」
その後彼女はアリアウェットに見つからないように一旦姿を消した。
「ディアン、ゼノスさんとアドルフさんも、ワールストームに連れて行ってあげてもいいかな!」
ディアンのところに駆けてきたアリアウェットを、ディアンは少々ひきつった表情でやさしく出迎える。
「姫様が良ければ構いませんよ」
ディアンから許可をもらったアリアウェットは、再びアドルフの元に走って行った。
帰りの馬車は二台。
行きに乗ってきた一台目にはアリアウェット、ディアン、ゼノス、アドルフが乗る。
新規で購入した二代目はノース夫妻専用とした。
「ところであんたら、留守は大丈夫なのか?」
ディアンの疑問に二人はくだらないことを聞くなとばかりにつっけんどんに答えた。
「儂のところはティーゲルが留守番をしておる」
「あたしのところはパンテルを借りたし、インプらもおるから問題ないじゃろ」
「ところでお二方、もしかしたら仲良しなんですか?」
ディアンからの当然の疑問には、二人はうすら笑いを浮かべることで答えた。
間もなく日が暮れ、野営と夕食の時間となる。
行きの行程ですら彼らを避けていた魔物どもが、さらにこのクソババアとクソジジイが加わった一行に喧嘩を吹っ掛けてくることはあり得ない。
しかし馬鹿な人間どもが年寄りの姿に騙されてちょっかいを出してくる恐れがあるので、夕食は日が落ちないうちに六人でおとなしく豆の粥で済ませてしまう。
食事が終われば、後は体を拭いて就寝するだけ。
ガルバーンとシルフェーヌは、行き旅程で身についた癖で食事の後片付けを率先して行ってから、ディアンたちに迷惑がかからないように少し離れたところに止めた馬車に帰っていった。
ゼノスとアリアウェットは馬車の中、アドルフとディアンは馬車外で寝袋に包まる。
「爺さん、外ですまんな」
「ほう、そんな気遣いがまだ残っていたか」
「うるせえ」
「ところでそろそろじゃろ?」
アドルフの質問の意味がディアンにはわからない。
するとアドルフは寝袋から抜け出すと、ディアンに親指を立ててみせた。
「ギシアンタイムじゃよ」
シルフェーヌはガルバーンから金貨を一枚ねだり、アリアウェットを荷物持ち代わりにして、何やら色々と買いこんでいるようだ。
まあ大勢には影響ないだろうと、ディアンは二人を放っておく。
帰りの食糧も無事買い込んだ。
それは行きと同じ豆類が中心の華麗なイソフラボンライフである。
ところが間もなく出発を指示しようかというところで、ディアンの元に彼らが現れた。
「おい小僧、ちょっとこっちに来い」
二人は物陰からディアンに手招きをして呼ぶ。
「何か用か? クソババアにクソジジイ」
ディアンが遠慮なく彼らに罵声を浴びせた。
そう、彼らとは解呪師ゼノスと死霊魔術師アドルフだ。
「年長者に対しての口の聞き方がなっとらんな」
「年寄りは敬わなければいかんのう」
ゼノスとアドルフはニヤニヤ笑いながらディアンに向けて勝手なことを言っている。
ところが次の瞬間、ゼノスは真顔になった。
「貴様、先日のガルとの会話の中に出てきた『象の怒り』に反応したじゃろ」
ゼノスからの思わぬ指摘に、ついディアンは身体を硬直させてしまった。
その反応に気づいた二人は、再び嫌らしい笑みを浮かべる。
「貴様が知っているのは、技か? 店か?」
二人から向けられる圧倒的な圧力に、ディアンは購えない。
「両方だ……」
彼が振り絞った回答に、ゼノスとアドルフは満足したような表情となった。
「小僧、貴様に選択肢はないぞ」
死霊魔術師から突き付けられた台詞に、ディアンは魔王以来の恐怖を味わった。
ディアンを馬車裏にくぎ付けにすると、アドルフは宿で旅の支度をしているアリアウェットの元に向かった。
「お嬢ちゃん、元気だったかの」
「あ、アドルフさん。こんにちは!」
死霊魔術師の姿はひたすらキモイ化け物だが、受肉しているときはやさしそうに見える爺さんを、アリアウェットは手を振って迎え入れた。
「お嬢ちゃん達は、これから国に帰るのかい?」
「そうよ! その前に、ガルとシルフェが住んでいた家に寄るけどね」
「そうかいそうかい。ところでお嬢ちゃんは、儂のことは嫌いかの?」
「そんなこと無いわ! 死霊魔術師はキモいけど、今のアドルフさんはやさしそうで素敵よ」
ニコニコと答えるアリアウェットに、資料魔術師もつい破顔する。
「嬉しいことを言ってくれるのう。それではひとつ、このジジイのお願いを聞いてくれるかの?」
「どうしたの?」
「ひとつ儂とゼノスも、ワールストームに連れて行ってくれんかの?」
「わかったわ。ディアンに相談してみるね」
アドルフがアリアウェットに小芝居を仕掛けている間に、ゼノスはディアンの耳元で冷たく囁いた。
「アリアに決めさせるように仕向けるのが、貴様に対するせめてもの私らの慈悲じゃ」
その後彼女はアリアウェットに見つからないように一旦姿を消した。
「ディアン、ゼノスさんとアドルフさんも、ワールストームに連れて行ってあげてもいいかな!」
ディアンのところに駆けてきたアリアウェットを、ディアンは少々ひきつった表情でやさしく出迎える。
「姫様が良ければ構いませんよ」
ディアンから許可をもらったアリアウェットは、再びアドルフの元に走って行った。
帰りの馬車は二台。
行きに乗ってきた一台目にはアリアウェット、ディアン、ゼノス、アドルフが乗る。
新規で購入した二代目はノース夫妻専用とした。
「ところであんたら、留守は大丈夫なのか?」
ディアンの疑問に二人はくだらないことを聞くなとばかりにつっけんどんに答えた。
「儂のところはティーゲルが留守番をしておる」
「あたしのところはパンテルを借りたし、インプらもおるから問題ないじゃろ」
「ところでお二方、もしかしたら仲良しなんですか?」
ディアンからの当然の疑問には、二人はうすら笑いを浮かべることで答えた。
間もなく日が暮れ、野営と夕食の時間となる。
行きの行程ですら彼らを避けていた魔物どもが、さらにこのクソババアとクソジジイが加わった一行に喧嘩を吹っ掛けてくることはあり得ない。
しかし馬鹿な人間どもが年寄りの姿に騙されてちょっかいを出してくる恐れがあるので、夕食は日が落ちないうちに六人でおとなしく豆の粥で済ませてしまう。
食事が終われば、後は体を拭いて就寝するだけ。
ガルバーンとシルフェーヌは、行き旅程で身についた癖で食事の後片付けを率先して行ってから、ディアンたちに迷惑がかからないように少し離れたところに止めた馬車に帰っていった。
ゼノスとアリアウェットは馬車の中、アドルフとディアンは馬車外で寝袋に包まる。
「爺さん、外ですまんな」
「ほう、そんな気遣いがまだ残っていたか」
「うるせえ」
「ところでそろそろじゃろ?」
アドルフの質問の意味がディアンにはわからない。
するとアドルフは寝袋から抜け出すと、ディアンに親指を立ててみせた。
「ギシアンタイムじゃよ」
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