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炎の国の章
真相
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赤子となったガルバーン卿とシルフェーヌを抱え筆頭騎士ドラゴが出奔したのちに、廃墟となった北の城に「石魔妃」メデュエットは居を構えたこと。
メデュエットの討伐に軍を向けた王子返り討ちにあったこと。
王が自室で石像となったこと。
フローレンス姫が何度か異世界から勇者を召喚したが、彼らも同様の結果だったこと。
しかしついには、ジローという勇者がメデュエットを滅ぼしたこと。
その勇者が新たな王となり、その所作から魔王と恐れられるようになったこと。
その一年後、魔王とフローレンス妃の間に、一人の姫が産まれたこと。
さらに数年後、ディアンは魔王の親衛隊長と、姫の教育係に任ぜられたこと。
姫の「六歳の儀」に、姫だけを残し、魔王以下、王城の全員が黒い嵐とともに消えてしまったこと。
それ以降の旅で起きた様々な出会いと事件についてもディアンは補足した。
ディアンは続けて、ガルバーンとシルフェーヌに、アリアウェットが身につけている首飾を指さし示ししてみせる。
「いかがですか」
卿と伴侶は改めて目の前の美しい少女がアリアウェット姫であることを確信した。
「残留思念を開放するには、その思念が求める場所に行ってやればよい」
ゼノスのアドバイスでディアンは気がつく。
多分その場所は北の城であろう。
ガルバーン卿とシルフェーヌ奥様の元居城であろう。
すると突然アドルフが口を開いた。
「しかしお主ら、よくよく魔族に縁があるんじゃの」
不思議そうな表情を浮かべるアリアウェットに代わり、ディアンが訪ねた。
「なぜそんなことがわかるんだ?」
「儂は魔族探知を使えるからの。この大陸でどんな魔族が召喚されたか位は把握しておる。その後は知らんがな」
続けてアドルフは語り始めた。
雪精族 シルフェーヌ。
石魔妃 メデュエット。
月夜魔 ルナル。
この三魔族は、ここ数年に召喚された魔族の中でも、もっとも強力な個体だという。
ちなみにこの中で一番「やばい」のは月夜魔だそうだ。
「フラウスピリットやメデューサは放っておけば無害じゃが、ルナティックナイトメアだけは面倒じゃからな」
雪精族や石魔妃は比較的温厚な性格の上、彼女達の特殊能力は、彼女達の意思でコントロールされる。
ところが月夜魔は、そこに存在するだけで人や魔族を狂わせてしまう。
「それでか……」
ディアンはワールストーム城で、アリアウェットが引き起こした大惨事を思い出した。
「さらにもう一匹いるぞ。アリア、それはお前の親父殿じゃ」
アドルフの言葉に誰も言葉を挟めない。
あまりに唐突なことばかりで。
呆然としているディアンたちの前でアドルフの話は続く。
シルフェーヌ達「高位魔族」を召喚し続けている召喚術師は、ワールフラッドで勇者を召喚しては、そのたびに石魔妃に返り討ちにあっている姫の召喚魔法陣に目を付けた。
フローレンス姫が描く召喚魔法陣の術式は、その召喚術師が操るそれとは根本から異なる仕組みであり、その魔法陣を彼が使用することはできない。
しかし彼女の魔法陣に、自身が持つ「魔族召喚」の魔法陣を重ねてみることはできる。
そこで召喚術師は、フローレンスが異界から勇者を召喚するのに合わせ「魔族召喚」も同時に起動してみた。
その結果、フローレンス姫と召喚術師にとって期待以上の存在、後に魔王と称される、ジローが召喚された。
あまりのことに誰も声も出ない。
「あの馬鹿、そんなことまでやりおったか」
ゼノスの呟きに、ディアンが反応した。
「あんたら、その召喚術師を知っておるのか?」
「ああ」
「誰なんだそれは!」
「ヤハヴじゃよ」
ディアンの疑問に資料魔術師はあっさりと答えた。
あまりのあっさりっぷりに、逆にディアンは一瞬どうしていいかわからず固まってしまう。
そんな彼に代わってガルバーンが尋ねた。
「その、ヤハヴってのは何者なんだ?」
この質問にゼノスとアドルフは困ってしまう。
「ヤハヴはヤハヴじゃ」
「回答になっていないぞゼノス」
「そう言われてもそれ以上でもそれ以下でもないからの」
どのように回答していいか首を傾げ始めてしまったゼノスに代わってアドルフが答えた。
「あえて言えば、数年ごとにとんでもない魔族を呼び出す『間抜け』じゃな」
さすがにこの無責任な回答にはディアンが半ギレした。
「シルフェーヌ奥様やメデュエットを召喚するようなとんでもない奴が、ただの間抜けなのか! なぜワールフレイムは、そんなやばい奴を放置しているんだ!」
しかし、ゼノスとアドルフはディアンの剣幕が意味わからんといった風情で顔を見合わせたあと、二人で呑気そうに声を合わせた。
「なんでヤハヴがやばいんじゃ?」
ディアンは唐突に理解した。
そういうことか。
要するに、この二人にとっては、ヤハヴとやらも小物にすぎないということ。
ここまで普通に接してきたから失念してきたが、この二人は、一人はとんでもない解呪師であり、もう一人は死霊魔術師であることをディアンは改めて認識する。
「しかし、そこまで強力な魔族を呼び出せるのならば、魔族の軍団を仕立てて世界の覇権を狙うことも可能なのではないか?」
ガルバーンの貴族らしい疑問にはアドルフがおかしそうに答えた。
「あ奴の召喚術は基本的にはしょーもないものだからの」
ヤハヴが強力な魔族を召喚できるのは偶然にすぎない。
たいていは使い魔程度、あるいは人間に毛の生えた能力した魔族が不幸にも召喚されるだけ。
シルフェーヌ達のような特殊能力持ちなど、めったに召喚されることはない。
「それに、ヤハヴは間抜けじゃからな。まあ、奴のことは放っておけ」
ゼノスはそう付け加えた。
ディアンは考える。
とりあえずヤハヴとやらは、自分達には関係なさそうだ。
ならば次はアリアウェットの呪いを解くことが目的となる。
ちなみに彼の外見は元に戻らなかった。
彼は若いままだ。
「肉体の変化」は「元に戻す」という概念がないらしい。
それはどの年代が「元」なのかわからないからだという。
アリアウェットがもし残留思念を開放しても、今の姿のままじゃろうとゼノスが彼らに教えてくれた。
「小僧、もうひとつ教えてやる」
ゼノスはディアンの耳を引っ張ると、アリアウェットには聞かれないようにもう一つの呪いについても教えてやった。
その呪いを聞いたディアンは妙に納得した。
つまりフローレンス妃様も、人の親だったということだ。
「それでは、我々はワールフラッドに帰還後、北の城に向かいます。ガルバーン卿はどういたしますか?」
「俺達も共に戻ろう。残してきた騎士達や領民達にも会いたいしな」
こうして彼ら四人はワールフラッドへの帰還を決めた。
メデュエットの討伐に軍を向けた王子返り討ちにあったこと。
王が自室で石像となったこと。
フローレンス姫が何度か異世界から勇者を召喚したが、彼らも同様の結果だったこと。
しかしついには、ジローという勇者がメデュエットを滅ぼしたこと。
その勇者が新たな王となり、その所作から魔王と恐れられるようになったこと。
その一年後、魔王とフローレンス妃の間に、一人の姫が産まれたこと。
さらに数年後、ディアンは魔王の親衛隊長と、姫の教育係に任ぜられたこと。
姫の「六歳の儀」に、姫だけを残し、魔王以下、王城の全員が黒い嵐とともに消えてしまったこと。
それ以降の旅で起きた様々な出会いと事件についてもディアンは補足した。
ディアンは続けて、ガルバーンとシルフェーヌに、アリアウェットが身につけている首飾を指さし示ししてみせる。
「いかがですか」
卿と伴侶は改めて目の前の美しい少女がアリアウェット姫であることを確信した。
「残留思念を開放するには、その思念が求める場所に行ってやればよい」
ゼノスのアドバイスでディアンは気がつく。
多分その場所は北の城であろう。
ガルバーン卿とシルフェーヌ奥様の元居城であろう。
すると突然アドルフが口を開いた。
「しかしお主ら、よくよく魔族に縁があるんじゃの」
不思議そうな表情を浮かべるアリアウェットに代わり、ディアンが訪ねた。
「なぜそんなことがわかるんだ?」
「儂は魔族探知を使えるからの。この大陸でどんな魔族が召喚されたか位は把握しておる。その後は知らんがな」
続けてアドルフは語り始めた。
雪精族 シルフェーヌ。
石魔妃 メデュエット。
月夜魔 ルナル。
この三魔族は、ここ数年に召喚された魔族の中でも、もっとも強力な個体だという。
ちなみにこの中で一番「やばい」のは月夜魔だそうだ。
「フラウスピリットやメデューサは放っておけば無害じゃが、ルナティックナイトメアだけは面倒じゃからな」
雪精族や石魔妃は比較的温厚な性格の上、彼女達の特殊能力は、彼女達の意思でコントロールされる。
ところが月夜魔は、そこに存在するだけで人や魔族を狂わせてしまう。
「それでか……」
ディアンはワールストーム城で、アリアウェットが引き起こした大惨事を思い出した。
「さらにもう一匹いるぞ。アリア、それはお前の親父殿じゃ」
アドルフの言葉に誰も言葉を挟めない。
あまりに唐突なことばかりで。
呆然としているディアンたちの前でアドルフの話は続く。
シルフェーヌ達「高位魔族」を召喚し続けている召喚術師は、ワールフラッドで勇者を召喚しては、そのたびに石魔妃に返り討ちにあっている姫の召喚魔法陣に目を付けた。
フローレンス姫が描く召喚魔法陣の術式は、その召喚術師が操るそれとは根本から異なる仕組みであり、その魔法陣を彼が使用することはできない。
しかし彼女の魔法陣に、自身が持つ「魔族召喚」の魔法陣を重ねてみることはできる。
そこで召喚術師は、フローレンスが異界から勇者を召喚するのに合わせ「魔族召喚」も同時に起動してみた。
その結果、フローレンス姫と召喚術師にとって期待以上の存在、後に魔王と称される、ジローが召喚された。
あまりのことに誰も声も出ない。
「あの馬鹿、そんなことまでやりおったか」
ゼノスの呟きに、ディアンが反応した。
「あんたら、その召喚術師を知っておるのか?」
「ああ」
「誰なんだそれは!」
「ヤハヴじゃよ」
ディアンの疑問に資料魔術師はあっさりと答えた。
あまりのあっさりっぷりに、逆にディアンは一瞬どうしていいかわからず固まってしまう。
そんな彼に代わってガルバーンが尋ねた。
「その、ヤハヴってのは何者なんだ?」
この質問にゼノスとアドルフは困ってしまう。
「ヤハヴはヤハヴじゃ」
「回答になっていないぞゼノス」
「そう言われてもそれ以上でもそれ以下でもないからの」
どのように回答していいか首を傾げ始めてしまったゼノスに代わってアドルフが答えた。
「あえて言えば、数年ごとにとんでもない魔族を呼び出す『間抜け』じゃな」
さすがにこの無責任な回答にはディアンが半ギレした。
「シルフェーヌ奥様やメデュエットを召喚するようなとんでもない奴が、ただの間抜けなのか! なぜワールフレイムは、そんなやばい奴を放置しているんだ!」
しかし、ゼノスとアドルフはディアンの剣幕が意味わからんといった風情で顔を見合わせたあと、二人で呑気そうに声を合わせた。
「なんでヤハヴがやばいんじゃ?」
ディアンは唐突に理解した。
そういうことか。
要するに、この二人にとっては、ヤハヴとやらも小物にすぎないということ。
ここまで普通に接してきたから失念してきたが、この二人は、一人はとんでもない解呪師であり、もう一人は死霊魔術師であることをディアンは改めて認識する。
「しかし、そこまで強力な魔族を呼び出せるのならば、魔族の軍団を仕立てて世界の覇権を狙うことも可能なのではないか?」
ガルバーンの貴族らしい疑問にはアドルフがおかしそうに答えた。
「あ奴の召喚術は基本的にはしょーもないものだからの」
ヤハヴが強力な魔族を召喚できるのは偶然にすぎない。
たいていは使い魔程度、あるいは人間に毛の生えた能力した魔族が不幸にも召喚されるだけ。
シルフェーヌ達のような特殊能力持ちなど、めったに召喚されることはない。
「それに、ヤハヴは間抜けじゃからな。まあ、奴のことは放っておけ」
ゼノスはそう付け加えた。
ディアンは考える。
とりあえずヤハヴとやらは、自分達には関係なさそうだ。
ならば次はアリアウェットの呪いを解くことが目的となる。
ちなみに彼の外見は元に戻らなかった。
彼は若いままだ。
「肉体の変化」は「元に戻す」という概念がないらしい。
それはどの年代が「元」なのかわからないからだという。
アリアウェットがもし残留思念を開放しても、今の姿のままじゃろうとゼノスが彼らに教えてくれた。
「小僧、もうひとつ教えてやる」
ゼノスはディアンの耳を引っ張ると、アリアウェットには聞かれないようにもう一つの呪いについても教えてやった。
その呪いを聞いたディアンは妙に納得した。
つまりフローレンス妃様も、人の親だったということだ。
「それでは、我々はワールフラッドに帰還後、北の城に向かいます。ガルバーン卿はどういたしますか?」
「俺達も共に戻ろう。残してきた騎士達や領民達にも会いたいしな」
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