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炎の国の章
乾いた音
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戦線というのは、俯瞰してみれば、どこが本陣なのか容易に判断できる。
そこは最も統制が取れている場所だからだ。
ディアンは本陣らしき集団を見つけると、アリアウェットにその場所に向かうように指示を出した。
一方、ガルとシルフェには比較的安全だと思われる場所に向かうように指示を出し、自身は上空で待機とする。
これは三人に何かあった時に彼がフォローできるようにするための作戦。
アリアウェットは飛翔で本陣に突っ込むと、その膨大な魔力で形作られた九条鞭を亡者共に振るっていく。
彼女の九条鞭により、ワイトやレイスなどの中級レベルの亡者は次々とその姿をかき消されていってしまう。
すると彼女の前に一際大きな二つの影が現れた。
「ほうほう、元気のいいお嬢ちゃんじゃのう」
「久しぶりの新鮮な肉ですな」
死霊魔術師と亡霊騎士の登場だ。
一方のガルは、次々とアンデッド共を切り捨てている。
彼の剣に付与された逆刃刀は破魔の能力をもつ。
そしてそれはガルの物理攻撃力と相まり、亡者に対して必殺の剣となる。
「俺最強!」
絶叫しながらひたすら亡者を切り捨てていく彼の背中で、シルフェが甲斐甲斐しく体力補給を唱え、ガルの体力を補っている。
「俺は姫様のサポートかな」
ディアンは戦況を見極めると、アリアウェットの前に立つ二体の亡者のうち、一体を引き受けることにする。
「おや、もう一人のお客さんじゃの」
「奴は私が相手をしましょう」
相手も、ディアンの思惑と同様の反応を見せた。
「姫様、これで決めるぞ」
「うん、先生!」
二人は最上級の亡者と対峙することになった。
ディアンが巨大お玉で亡霊騎士のカブトを殴りつけることにより、お玉とは思えないほどのダメージを食らった亡霊騎士は、両手剣で反撃を始める。
しかし全能力解放状態のディアンはその攻撃を難なくかわした。
続けてもう一撃が亡霊騎士を襲うが、これは騎士が両手剣で巨大お玉を受け止めた。
「やるなお主」
「こりゃ、予想以上に時間がかかるかな」
各々から伝わる手応えに、ディアンも騎士も長期戦を覚悟した。
さて、死霊魔術師は余裕しゃくしゃくでアリアウェットに対峙している。
「これはこれはお嬢ちゃん、底知れない魔力をお持ちだのう」
「貴方の表情も底抜けに気持ち悪いわね」
アリアウェットは死霊魔術師に向かって鞭を振るうも、死霊魔術師の見えない魔力盾によって阻まれてしまう。
死霊魔術師はアリアウェットからの攻撃に対し漆黒の眼窩を光らると、干からびた唇で楽しそうに軽口を叩いた。
「年寄りは大事にするものじゃよお嬢ちゃん。ところで、ワシと魔力勝負をしてみんか?」
「望むところよ!」
「そうか、なら、儂に魔力を注いでみろ。儂がパンクしたら儂の負け。お嬢ちゃんが空になったらお嬢ちゃんの負け。これでどうじゃ!」
「いいわよ! 行くわよ!」
アリアウェットはこの勝負を受けると、死霊魔術師と一対一で向き合った。
ガルとシルフェの方も順調に亡者達を消し去り、今では彼らの周りには亡者はいない。
残るのはアリアウェットと対峙している死霊魔術師と、ディアンと戦っている亡霊騎士だけだ。
シルフェは「ほっ」と一息をついた。
今日もガルは死なないですんだ。
今日も私はガルと一緒にいれた。
シルフェはアリアウェットとディアンにそっと感謝の念を送る。
ところがその直後に突然もう一体の死霊騎士が二人の前に現れた。
「俺はあいつらのように酔狂ではないからな。すぐに決めさせてもらうぞ」
目の前の死霊騎士は、そう呟きながらガルに両手剣を上段から振り下ろす。
「うお!」
一発目はなんとか防いだガルだが、二撃目、三撃目と一方的に亡霊騎士に打ち込まれ、防戦一方となっていく。
シルフェはパニックになった。
ガルが死霊騎士に殺されちゃう!
アリア姉さまやディアン兄さまに助けてもらうこともできない!
やだ。
このままじゃガルが死んじゃう。
やだ!
やだやだやだ!
やめて、私のガルを攻撃するのをやめて!
私のガルを殺さないで!
だめだめだめ!
思わずシルフェはガルと死霊騎士の間に身体を差し入れた。
突然割り込んできた白髪の娘が見せる泣きはらした表情に死霊騎士は一瞬攻撃を躊躇する。
も、再び騎士は構えた。
「シルフェ逃げろ!」
ガルはシルフェの背後から肩を掴み、彼の後ろに引き戻そうとするも、そこに死霊騎士の剣が襲いかかる。
「シルフェ!」
キン!
ガルが叫んだ瞬間に、世界が割れるような乾いた音が響いた。
そこは最も統制が取れている場所だからだ。
ディアンは本陣らしき集団を見つけると、アリアウェットにその場所に向かうように指示を出した。
一方、ガルとシルフェには比較的安全だと思われる場所に向かうように指示を出し、自身は上空で待機とする。
これは三人に何かあった時に彼がフォローできるようにするための作戦。
アリアウェットは飛翔で本陣に突っ込むと、その膨大な魔力で形作られた九条鞭を亡者共に振るっていく。
彼女の九条鞭により、ワイトやレイスなどの中級レベルの亡者は次々とその姿をかき消されていってしまう。
すると彼女の前に一際大きな二つの影が現れた。
「ほうほう、元気のいいお嬢ちゃんじゃのう」
「久しぶりの新鮮な肉ですな」
死霊魔術師と亡霊騎士の登場だ。
一方のガルは、次々とアンデッド共を切り捨てている。
彼の剣に付与された逆刃刀は破魔の能力をもつ。
そしてそれはガルの物理攻撃力と相まり、亡者に対して必殺の剣となる。
「俺最強!」
絶叫しながらひたすら亡者を切り捨てていく彼の背中で、シルフェが甲斐甲斐しく体力補給を唱え、ガルの体力を補っている。
「俺は姫様のサポートかな」
ディアンは戦況を見極めると、アリアウェットの前に立つ二体の亡者のうち、一体を引き受けることにする。
「おや、もう一人のお客さんじゃの」
「奴は私が相手をしましょう」
相手も、ディアンの思惑と同様の反応を見せた。
「姫様、これで決めるぞ」
「うん、先生!」
二人は最上級の亡者と対峙することになった。
ディアンが巨大お玉で亡霊騎士のカブトを殴りつけることにより、お玉とは思えないほどのダメージを食らった亡霊騎士は、両手剣で反撃を始める。
しかし全能力解放状態のディアンはその攻撃を難なくかわした。
続けてもう一撃が亡霊騎士を襲うが、これは騎士が両手剣で巨大お玉を受け止めた。
「やるなお主」
「こりゃ、予想以上に時間がかかるかな」
各々から伝わる手応えに、ディアンも騎士も長期戦を覚悟した。
さて、死霊魔術師は余裕しゃくしゃくでアリアウェットに対峙している。
「これはこれはお嬢ちゃん、底知れない魔力をお持ちだのう」
「貴方の表情も底抜けに気持ち悪いわね」
アリアウェットは死霊魔術師に向かって鞭を振るうも、死霊魔術師の見えない魔力盾によって阻まれてしまう。
死霊魔術師はアリアウェットからの攻撃に対し漆黒の眼窩を光らると、干からびた唇で楽しそうに軽口を叩いた。
「年寄りは大事にするものじゃよお嬢ちゃん。ところで、ワシと魔力勝負をしてみんか?」
「望むところよ!」
「そうか、なら、儂に魔力を注いでみろ。儂がパンクしたら儂の負け。お嬢ちゃんが空になったらお嬢ちゃんの負け。これでどうじゃ!」
「いいわよ! 行くわよ!」
アリアウェットはこの勝負を受けると、死霊魔術師と一対一で向き合った。
ガルとシルフェの方も順調に亡者達を消し去り、今では彼らの周りには亡者はいない。
残るのはアリアウェットと対峙している死霊魔術師と、ディアンと戦っている亡霊騎士だけだ。
シルフェは「ほっ」と一息をついた。
今日もガルは死なないですんだ。
今日も私はガルと一緒にいれた。
シルフェはアリアウェットとディアンにそっと感謝の念を送る。
ところがその直後に突然もう一体の死霊騎士が二人の前に現れた。
「俺はあいつらのように酔狂ではないからな。すぐに決めさせてもらうぞ」
目の前の死霊騎士は、そう呟きながらガルに両手剣を上段から振り下ろす。
「うお!」
一発目はなんとか防いだガルだが、二撃目、三撃目と一方的に亡霊騎士に打ち込まれ、防戦一方となっていく。
シルフェはパニックになった。
ガルが死霊騎士に殺されちゃう!
アリア姉さまやディアン兄さまに助けてもらうこともできない!
やだ。
このままじゃガルが死んじゃう。
やだ!
やだやだやだ!
やめて、私のガルを攻撃するのをやめて!
私のガルを殺さないで!
だめだめだめ!
思わずシルフェはガルと死霊騎士の間に身体を差し入れた。
突然割り込んできた白髪の娘が見せる泣きはらした表情に死霊騎士は一瞬攻撃を躊躇する。
も、再び騎士は構えた。
「シルフェ逃げろ!」
ガルはシルフェの背後から肩を掴み、彼の後ろに引き戻そうとするも、そこに死霊騎士の剣が襲いかかる。
「シルフェ!」
キン!
ガルが叫んだ瞬間に、世界が割れるような乾いた音が響いた。
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