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灼熱の荒野の章

尻尾狩り

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 ディアン、アリアウェット、ガル、シルフェの四名は、改めて各々が向かい合うと挨拶を交わした。

 まずはディアンが口火を切る。
「それではガルさん、シルフェさん、改めまして。私はディアンソンと申します。これからよろしくお願いいたしますね」
 次にアリアウェットが、偽名を間違えないように注意しながら自己紹介を行った。
「私はアリアロッドです。アリアと呼んでね」
 ガルはいかにも脳天気そうな調子で彼女に続いた。
「俺の名はガルだ。ディアンソン様、アリア、よろしくな!」
 最後にシルフェがガルの背後に隠れるようにしながら蚊の鳴くような声で弱々しく呟いた。
「シルフェ……です」

「すげえ」
 ガルはわくわくする。
 二十代中盤くらいの、色男の英雄ディアンソン様に、その連れのおっぱいはでかいが自分よりは年下らしいアリアが仲間になってくれた。
 これに自身の剣とシルフェの魔法が加われば最強ではないかと。
 俺たちの前途は明るい。

「よっしゃ! 待ってろよ解呪師! さあ行くぜワールフレイム!」
「うるさい」

 興奮するガルの後頭部をディアンが黙れとばかりにソードブレイカーの背中、つまりトゲトゲが並んでいる方で小突いた。
 するとガルの脳天から見事に複数の血の噴水が湧きあがった。

 それを見たアリアウェットとシルフェが慌てて治癒ヒーリングをガルの後頭部に唱えてやる。
「おうおう、ねーちゃん二人がかりで治癒とは、うらやましいな小僧」
 すかさずマウントを取りに来たディアンの前でガルは身を縮こませてしまう。
「兄さん、勘弁してください」
 続けてディアンはガルに指示を出した。
「ど阿呆が、浮かれていないでさっさと準備を始めろ」

 ガルの尻をけり飛ばしながら指示を出すディアンに、シルフェはすっかりびびってしまい、アリアウェットはそんな彼女をやさしく慰めてやるのであった。 

 四名は一旦ガルとシルフェの荷物をばらした。
 その後改めて荷物の整理をした後、ディアンは二人の私物用にと保管箱を用意してやる。
 そこに今回の旅の「キー」になるであろう、二本の短剣と手紙も収納させる。

 その他ガルとシルフェの私物も一通り片づけた後、ディアンはシルフェに手招きをした。
「これはお前が施錠ロックしろ」
「え、いいのですか?」
「気にするな。これはお前らの物だ」
 戸惑うシルフェの背中をディアンが押してやり、シルフェは戸惑いながらも自らの施錠をディアンに用意してもらった保管箱に唱えた。
 これでこの保管箱はシルフェと、恐らくはシルフェがキーワードを教えるであろうガルにしか開錠できなくなった。

 一通り荷物の片づけが終わった後、ディアンが突然先生口調になった。
「ところでガル、シルフェ、君たちは当初、二人きりでワールフレイムまでおもむくつもりでしたね」
 ガルは勢い良く頷き、シルフェは不安そうにあさっての方向に視線を泳がせた。

「よろしい、ならばまずは二人で、冒険者登録料を狩ってきなさい」
 ディアンがガルたちの登録料として冒険者ギルドに申請したのは、砂漠蜥蜴デザートリザードの尻尾百尾の納入である。

「それでは、群生地の灼熱の荒野入口に参りましょう」
 ディアンの号令に従い、ガルとアリアウェットは御者席に座るディアンの両隣に彼を挟み込むように乗り込み、シルフェは馬車内に隠れてしまった。

 一行はすぐに目的地近くに到着した。
「よし、行くぜシルフェ! 蜥蜴の尻尾を百尾なんぞ、はっきり言って楽勝! そして俺最強!」
 そう叫びながら、ガルは馬車の中で嫌々いやいやをするシルフェを無理やり引きずり出すと、そのまま彼女の手を引いて駆け出して行ってしまった。
 そんな二人をディアンはあきれ顔で、アリアウェットは心配そうに見送る。

「ねえディアン、ガル達は勢いよく飛び出していったけれど、二人とも蜥蜴の尻尾百尾をどう運ぶつもりなのかしら?」
 アリアウェットは御者台で仰向けになり日向ぼっこを決め込むディアンに、ある意味当然の疑問を投げかけた。

 それはちょっと考えればすぐに思いつくこと。
 ディアンはどうでもよさそうな表情で笑った。
「まあそのうち気付くだろ。心配だったら奴らに見つからないように追いかけてやれ」
 ディアンの返事にアリアウェットは微笑みながら、日向ぼっこを始めた彼の額をぺちぺちと叩いた。
「ディアンは意地悪ね。ガルはともかく、シルフェが心配だから行ってくるね」

 そのままアリアウェットはスキップをしながら彼らを追いかけて行ってしまう。
 ディアンは姫様の成長を嬉しく想いながら、ここは昼寝を決め込むことにする。
 夕食の準備はその後でもいいだろう。
 
 十匹までは順調だった。
 体長五十センチほどの蜥蜴どもは、ガルとシルフェにちょっかいを出されると同時に、尻尾を三十センチほど切り残して逃げて行く。
「俺最強!」
 ガルは次々と蜥蜴を追っかけながらちょっかいを出し、シルフェはあからさまに嫌そうな表情で、ガルから逃げようとする蜥蜴におずおずとちょっかいを出している。

 そして十一匹目。
 二人は困った。

 なぜならば、これ以上蜥蜴の尻尾を持つことができないからだ。
 ガルが八匹分の尻尾を両腕に抱え、シルフェは気味が悪そうな表情で両手に一本ずつ、今だにくにゃくにゃと動いている尻尾を掴んでいる。

 生きのいい尻尾が、ガルの頬をぴちぴちと叩く。
「かばん……」
「それだシルフェ! 急いでかばんを作ってくれ!」
 ところがシルフェは残念そうに顔を左右に振った。
「材料がないの」

 そう、灼熱の荒野では、藤籠作成クリエイトラタンバスケットは使えない。
 何故なら材料となる植物がほとんどないから。

「そーなんか」
 ガルは考え込んでしまう。
 一旦兄さん達のところに戻るか?
 でも、せっかく発見した砂漠蜥蜴の群れだ。
 これをこのまま見逃してしまうのはもったいない。

「どーすっかな」
 彼はぴちぴちしている尻尾を抱えながらその場にしゃがみこんだ。
「ガル!」

 突然シルフェが真っ青な表情になり、蜥蜴の尻尾を取り落としながら彼の後ろを慌てて指差した。
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