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嵐の国の章
牛にも衣装
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「おかえりなさい、先生、ぷーさん!」
待ちくたびれたのか、アリアウェットは少々不満気な表情を見せていたが、ディアンが抱えて布の包みからぷーさんが顔を出すと、途端にご機嫌な笑顔となった。
「ああ、待たせたな姫様。ところで……」
ぷーさんを手渡しながら、ディアンは今後についてアリアウェットに説明してやる。
ぷーさんはワールストームで狙われるかもしれない。
特に聖水牛の姿でいるのはまずい。
なので、今日からぷーさんは、「北の辺境」に住むといわれている「獣族」の子供だと押し切ることにする。
また、今後はぷーさんには馬車を引かせないようにする。
「そこで姫様にお願いです」
「なんでしょう先生」
「ぷーさんを獣族と押し切るのであれば、彼に衣服を着せなければなりません」
「はい」
「ということで、ぷーさんの衣装を買ってきてもらえますか?」
突然の楽しいお仕事を任せられ、アリアウェットは目を輝かせた。
「ぷーさんと一緒に?」
「阿呆ですか姫様、あなたは裸のぷーさんを連れ回すおつもりですか」
ディアンは子供用のシャツとズボンをとりあえず二セット選んでくるよう、彼女に念を押した。
「よろしいですか、決して無駄遣いをしてはいけませんよ。それとも姫様が留守番をしていますか?」
「わかった、私が行ってくる」
アリアウェットはディアンから金貨を一枚受け取ると、これまでの退屈を解放するような勢いで街に飛び出していった。
「やれやれ」
ディアンはため息をつく。
アリアウェットの買い物も怖いが、彼女とぷーさんを二人きりで宿に残すほうがもっと怖い。
ディアンは姫様がおかしなものを買ってこないことを、そっと祈った。
街並みに沿ってアリアウェットは衣料店を覗いている。
すると店先に、ちょうどよさそうな衣装が飾られていた。
なにこれ可愛い
なにこれ可愛いわ
なにこれ可愛いわね
アリアは即決した。
しばらくすると、威勢よく姫様が宿に帰ってきた。
「ただいまー! 見て見て先生!」
アリアは勢い良く包みを開いてみせる。
衣装を広げてみたディアンは思わず吹き出し、ぷーさんは呆然とした。
それは、赤とオレンジの子供用ワンピースだったのだ。
ご丁寧にも「ちょうちんパンツ」もついている。
アリアウェットはその場から逃げ出そうとするぷーさんを捕まえると、無理やりちょうちんパンツを履かせてから、赤のワンピースを頭から被らせた。
「やだこれ可愛い!」
赤いワンピースに身を包んだ真っ白なぷーさんは、とても可愛らしかった。
主にぬいぐるみ的に。
なにかきゅーきゅーと怒っているぷーさんを、アリアウェットは構わず胸に抱きしめた。
ぷーさんは初めて出会った時と同じように、しばらく痙攣した後、おとなしくなる。
その後アリアウェットはぷーさんを洗面所に連れて行き、ぷーさんの姿を本人に確認させてやる。
鏡に映る自分の姿を見つめたぷーさんは、文句をいうのをやめた。
ワンピースをかぶってまんざらでもなさそうな牛をからかいつつ、今晩の夕食を考えていた一行のところに、砦の城から使いがやってきた。
それはオルウェンの父である砦の領主からであり、内容は夕食の招待。
ディアンは使いの者に尋ねた。
「獣族の連れがいるが、それでも大丈夫か?」
「問題ございません」
使いの者は即答した。
そういうことかとディアンは顔をしかめながらも納得する。
恐らくは既に自分たちは周辺調査をされているのだろう。
最悪ぷーさんのこともばれているかもしれない。
その場合は罠ということもありうる。
しかし宿を知られている時点で彼らは袋のネズミなのだ。
ならば堂々と招待を受けるとしよう。
「了解した。すぐに支度をする」
ディアンは使いの者にそう答えると、アリアウェットにとっておきの薄紅のワンピースに着替えるように指示を出した。
砦の領主は興味津々であった。
息子を助けてくれた、ワールフラッドの魔王姫と、前親衛隊長の名前を持つ二人に。
領主はワールフラッドに放っていた密偵から「関所の分隊長惨殺事件」と「街のマフィア壊滅事件」について既に報告を受けていた。
更には湿地調査に向かっている兵からの「七首竜の異常死体」に関する報告も既に入っている。
そして白い二足歩行をする牛の存在も。
「ここはひとまず様子見とさせてもらおう」
領主は自分自身に言い聞かせるように頷いた。
待ちくたびれたのか、アリアウェットは少々不満気な表情を見せていたが、ディアンが抱えて布の包みからぷーさんが顔を出すと、途端にご機嫌な笑顔となった。
「ああ、待たせたな姫様。ところで……」
ぷーさんを手渡しながら、ディアンは今後についてアリアウェットに説明してやる。
ぷーさんはワールストームで狙われるかもしれない。
特に聖水牛の姿でいるのはまずい。
なので、今日からぷーさんは、「北の辺境」に住むといわれている「獣族」の子供だと押し切ることにする。
また、今後はぷーさんには馬車を引かせないようにする。
「そこで姫様にお願いです」
「なんでしょう先生」
「ぷーさんを獣族と押し切るのであれば、彼に衣服を着せなければなりません」
「はい」
「ということで、ぷーさんの衣装を買ってきてもらえますか?」
突然の楽しいお仕事を任せられ、アリアウェットは目を輝かせた。
「ぷーさんと一緒に?」
「阿呆ですか姫様、あなたは裸のぷーさんを連れ回すおつもりですか」
ディアンは子供用のシャツとズボンをとりあえず二セット選んでくるよう、彼女に念を押した。
「よろしいですか、決して無駄遣いをしてはいけませんよ。それとも姫様が留守番をしていますか?」
「わかった、私が行ってくる」
アリアウェットはディアンから金貨を一枚受け取ると、これまでの退屈を解放するような勢いで街に飛び出していった。
「やれやれ」
ディアンはため息をつく。
アリアウェットの買い物も怖いが、彼女とぷーさんを二人きりで宿に残すほうがもっと怖い。
ディアンは姫様がおかしなものを買ってこないことを、そっと祈った。
街並みに沿ってアリアウェットは衣料店を覗いている。
すると店先に、ちょうどよさそうな衣装が飾られていた。
なにこれ可愛い
なにこれ可愛いわ
なにこれ可愛いわね
アリアは即決した。
しばらくすると、威勢よく姫様が宿に帰ってきた。
「ただいまー! 見て見て先生!」
アリアは勢い良く包みを開いてみせる。
衣装を広げてみたディアンは思わず吹き出し、ぷーさんは呆然とした。
それは、赤とオレンジの子供用ワンピースだったのだ。
ご丁寧にも「ちょうちんパンツ」もついている。
アリアウェットはその場から逃げ出そうとするぷーさんを捕まえると、無理やりちょうちんパンツを履かせてから、赤のワンピースを頭から被らせた。
「やだこれ可愛い!」
赤いワンピースに身を包んだ真っ白なぷーさんは、とても可愛らしかった。
主にぬいぐるみ的に。
なにかきゅーきゅーと怒っているぷーさんを、アリアウェットは構わず胸に抱きしめた。
ぷーさんは初めて出会った時と同じように、しばらく痙攣した後、おとなしくなる。
その後アリアウェットはぷーさんを洗面所に連れて行き、ぷーさんの姿を本人に確認させてやる。
鏡に映る自分の姿を見つめたぷーさんは、文句をいうのをやめた。
ワンピースをかぶってまんざらでもなさそうな牛をからかいつつ、今晩の夕食を考えていた一行のところに、砦の城から使いがやってきた。
それはオルウェンの父である砦の領主からであり、内容は夕食の招待。
ディアンは使いの者に尋ねた。
「獣族の連れがいるが、それでも大丈夫か?」
「問題ございません」
使いの者は即答した。
そういうことかとディアンは顔をしかめながらも納得する。
恐らくは既に自分たちは周辺調査をされているのだろう。
最悪ぷーさんのこともばれているかもしれない。
その場合は罠ということもありうる。
しかし宿を知られている時点で彼らは袋のネズミなのだ。
ならば堂々と招待を受けるとしよう。
「了解した。すぐに支度をする」
ディアンは使いの者にそう答えると、アリアウェットにとっておきの薄紅のワンピースに着替えるように指示を出した。
砦の領主は興味津々であった。
息子を助けてくれた、ワールフラッドの魔王姫と、前親衛隊長の名前を持つ二人に。
領主はワールフラッドに放っていた密偵から「関所の分隊長惨殺事件」と「街のマフィア壊滅事件」について既に報告を受けていた。
更には湿地調査に向かっている兵からの「七首竜の異常死体」に関する報告も既に入っている。
そして白い二足歩行をする牛の存在も。
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