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呪われた娘の章
黒い嵐の裏側
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アリアウェットはディアンの住まいを訪ねることにした。
あらかじめ聞いていた場所は貴族街ではなく市民街にある。
かつては四十八名の親衛隊と一人の秘書を率いていた彼は、今は一人きりで生活しているそうだ。
アリアウェットは素直にディアンに尋ねた。
屋敷はどうしたのか、秘書はどこに行ったのか、親衛隊はどこに消えたのかと。
それにディアンはこの世から消し去りたくなるような悪寒を伴う笑みを浮かべながら答えた。
「あの『黒い嵐』で、生き残ったのは、姫様と私の二人だけです」
ディアンはアリアウェットに説明を続けていく。
いつの間にか彼の言葉はやさしい「丁寧語」になっていた。
それはかつてアリアウェットが無邪気にディアンを「先生」と慕っていたときに、彼が彼女と接したときの言葉使い。
「アリアウェット姫様 六歳の儀」にて、ディアンが魔力の暴走を察知した際、その膨大な魔力から、彼はそれが魔王の仕業だととっさに判断した。
続けて魔力は魔王の左腕付近から放たれていることを検知する。
理由はわからない。しかし魔王のやることには、いちいち理由を突き止めるより、まずは生き残ることが大事なのだ。
ディアンは親衛隊の悪魔どもを、自らの防護壁として使用した。
四十八体の悪魔が黒い嵐に飲まれ次々と砕けていく中、彼は「転移」を唱えていく。
とにかく安全な場所に逃げなければならない。
砕け散る悪魔の破片を身に浴びながら、ディアンは秘書の手を取り、必死で呪文を紡いだ。
そこで、はからずも彼は魔王と姫の会話を耳にしてしまう。
姫の姿が徐々に変化し、髪の色も変わっていく。
続けて魔女の悲しい笑い声が響き渡る。
そこでディアンは今回の真相を知った。
同時に転移も完成する。
しかしすんでのタイミングで秘書の身体も砕けてしまい、彼に降り注いだ。
「畜生!」
ディアンが自身の屋敷に予め設置しておいた魔法陣に戻ったときは、すでに彼はひとりきりになっていた。
屋敷に転移したディアンの姿は、二十歳ほども若返っていたという。
アリアウェットは、若返ったことのどこが呪いかと、素朴に想う。
すると、彼女の疑問を察知したのだろう。
ディアンは彼女に微笑みかけた。
「姫様、呪いについては後ほどご説明いたします」
その醜い微笑みに、アリアウェットの全身は総毛立つ。
彼は続けていく。
王城の魔力が消えた後、すぐさま調査に戻ったディアンは、まずは生存者の確認を行った。
しかし、彼は王城内でアリアウェットらしい娘以外の生存者を確認できなかった。
しかも彼には確証がない。
あの娘が本当は誰なのかという確証が。
もしかしたら石の魔女かもしれない。
そうなると下手に近づけない。
魔王の娘なら、幼い時から有していた「空間把握能力」により、彼の存在をキャッチしてしまうだろう。
また、石の魔女とて魔法の使い手。
魔女が空間把握能力を持っていないとも限らない。
なのでディアンは娘との接触をいったん諦めた。
彼は娘と空間把握能力範囲外の距離を保ちながら、魔王の部屋に赴き、まずは魔王の証明となるものを探した。
タイムリミットは、東の領主ダグラス卿、南の領主マルムス卿のどちらかが王宮に到着するまで。
しかし、魔王の証明となるものは見つからなかった。
魔王が召喚された際に身に着けていた薄衣と、持っていた不思議なグラスは、魔王の証明にはならない。
なぜなら、それを見知る者は全て消えてしまったのだから。
次にディアンが選択したのは財産の持ち出し。
眠りについた娘を起こさないように気配を消しつつ、引き続き魔王の部屋を探っていく。
次に彼は親衛隊長として与えられていた部屋に戻り、持てるだけの財産を確保した。
ディアンは賢い。
若返った彼をディアンだと信じる者はいないだろうと確信していた。
次に彼は動いた先は冒険者ギルド。
混乱に乗じて、彼は袖の下を使って冒険者の通行証をディアンとアリアウェットのファーストネームで作成した。
これが今後、必要最小限の身分証明証になる。
あの娘が、アリアウェット姫ならば。
続けてディアンは市民街に屋敷を用意し、姫の観察を密かにし続けた。
しかし、観察だけでは、彼には姫がアリアウェットなのか石の魔女なのかわからない。
門番の誘いに乗った姫も、ディアンは観察していた。
彼女の前で門番が砕け散り、涙を流す姫を。
ここでディアンは勝負に出ることにした。
あらかじめ聞いていた場所は貴族街ではなく市民街にある。
かつては四十八名の親衛隊と一人の秘書を率いていた彼は、今は一人きりで生活しているそうだ。
アリアウェットは素直にディアンに尋ねた。
屋敷はどうしたのか、秘書はどこに行ったのか、親衛隊はどこに消えたのかと。
それにディアンはこの世から消し去りたくなるような悪寒を伴う笑みを浮かべながら答えた。
「あの『黒い嵐』で、生き残ったのは、姫様と私の二人だけです」
ディアンはアリアウェットに説明を続けていく。
いつの間にか彼の言葉はやさしい「丁寧語」になっていた。
それはかつてアリアウェットが無邪気にディアンを「先生」と慕っていたときに、彼が彼女と接したときの言葉使い。
「アリアウェット姫様 六歳の儀」にて、ディアンが魔力の暴走を察知した際、その膨大な魔力から、彼はそれが魔王の仕業だととっさに判断した。
続けて魔力は魔王の左腕付近から放たれていることを検知する。
理由はわからない。しかし魔王のやることには、いちいち理由を突き止めるより、まずは生き残ることが大事なのだ。
ディアンは親衛隊の悪魔どもを、自らの防護壁として使用した。
四十八体の悪魔が黒い嵐に飲まれ次々と砕けていく中、彼は「転移」を唱えていく。
とにかく安全な場所に逃げなければならない。
砕け散る悪魔の破片を身に浴びながら、ディアンは秘書の手を取り、必死で呪文を紡いだ。
そこで、はからずも彼は魔王と姫の会話を耳にしてしまう。
姫の姿が徐々に変化し、髪の色も変わっていく。
続けて魔女の悲しい笑い声が響き渡る。
そこでディアンは今回の真相を知った。
同時に転移も完成する。
しかしすんでのタイミングで秘書の身体も砕けてしまい、彼に降り注いだ。
「畜生!」
ディアンが自身の屋敷に予め設置しておいた魔法陣に戻ったときは、すでに彼はひとりきりになっていた。
屋敷に転移したディアンの姿は、二十歳ほども若返っていたという。
アリアウェットは、若返ったことのどこが呪いかと、素朴に想う。
すると、彼女の疑問を察知したのだろう。
ディアンは彼女に微笑みかけた。
「姫様、呪いについては後ほどご説明いたします」
その醜い微笑みに、アリアウェットの全身は総毛立つ。
彼は続けていく。
王城の魔力が消えた後、すぐさま調査に戻ったディアンは、まずは生存者の確認を行った。
しかし、彼は王城内でアリアウェットらしい娘以外の生存者を確認できなかった。
しかも彼には確証がない。
あの娘が本当は誰なのかという確証が。
もしかしたら石の魔女かもしれない。
そうなると下手に近づけない。
魔王の娘なら、幼い時から有していた「空間把握能力」により、彼の存在をキャッチしてしまうだろう。
また、石の魔女とて魔法の使い手。
魔女が空間把握能力を持っていないとも限らない。
なのでディアンは娘との接触をいったん諦めた。
彼は娘と空間把握能力範囲外の距離を保ちながら、魔王の部屋に赴き、まずは魔王の証明となるものを探した。
タイムリミットは、東の領主ダグラス卿、南の領主マルムス卿のどちらかが王宮に到着するまで。
しかし、魔王の証明となるものは見つからなかった。
魔王が召喚された際に身に着けていた薄衣と、持っていた不思議なグラスは、魔王の証明にはならない。
なぜなら、それを見知る者は全て消えてしまったのだから。
次にディアンが選択したのは財産の持ち出し。
眠りについた娘を起こさないように気配を消しつつ、引き続き魔王の部屋を探っていく。
次に彼は親衛隊長として与えられていた部屋に戻り、持てるだけの財産を確保した。
ディアンは賢い。
若返った彼をディアンだと信じる者はいないだろうと確信していた。
次に彼は動いた先は冒険者ギルド。
混乱に乗じて、彼は袖の下を使って冒険者の通行証をディアンとアリアウェットのファーストネームで作成した。
これが今後、必要最小限の身分証明証になる。
あの娘が、アリアウェット姫ならば。
続けてディアンは市民街に屋敷を用意し、姫の観察を密かにし続けた。
しかし、観察だけでは、彼には姫がアリアウェットなのか石の魔女なのかわからない。
門番の誘いに乗った姫も、ディアンは観察していた。
彼女の前で門番が砕け散り、涙を流す姫を。
ここでディアンは勝負に出ることにした。
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