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召喚勇者の章
魔女の真実
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「わかりました」
ジローの回答に満足気な表情のバルロムは試すように彼を誘った。
「それでは試しに何かお聞かせ願えますか?」
「構いませんよ」
バルロムはジローを酒場に誘った。
ジローは雑貨店の主に銀貨を握らせ礼を言った後、バルロムの後をついていった。
酒場に到着した二人はテーブルに陣取る。
「私はエールにしますが、ジローさんはどうされますか?」
「同じものをお願いします」
すぐに陶器のジョッキが二杯テーブルに届く。
「それではジローさん、お聞かせください」
バルロムが期待するような眼差しをジローに向け、上品に促した。
ジローは物語を語った。
記憶を頼りに、数あるファンタジーと呼ばれる小説の一部を。
話しながらバルロムの表情をつらつらと確認してみる。
思いの外、バルロムの食いつきは良い。
彼はジローの語りにいちいち反応しているのだ。
「なんですと、そんなことが」
「うむむ、主人公の切ない想いが伝わりまする」
「ウホ!」
ウホときたかこのおっさんと、過剰反応に驚きながらもジローは物語を続けていった。
ひと通り物語を紡いだところで、バルロムが上機嫌でジローを賞賛した。
「いやはや、面白かったですよ。物語の盛り上げ方も素晴らしいものでした」
彼は続けた。
「よろしければ、それらの物語をお売りいただくわけにはいきませぬか?」
バルロムの申し出にジローはぽかんとする。
するとその表情に気づいたバルロムは微笑みながら言葉を続けた。
「私共のお嬢様は、そうした物語が大好きなのですよ」
その後、バルロムはジローに彼らのお嬢様であるメデュエットについて語りはじめた。
メデュエットは、とある国の召喚魔術師により、魔界からこの世界に召喚されたそうだ。
その召喚は「強制命令」を伴うものだということ。
「強制命令」の内容は、ある国の王の暗殺だった。
メデュエットは己の魔力、何よりも己の「邪眼」が、どれほどの不幸を世界に撒き散らすのかということを理解していた。
それはメデュエットの本意ではない。
しかし「強制命令」は彼女を縛る。
さらに彼女は辛い現実に晒された。
召喚は一方通行であり、メデュエットが魔界に帰ることは叶わないという現実に。
彼女は強制命令の対象である王を石化し、像を砕いた。
こうして自由になった彼女は飛行の魔法を駆使し、逃れるかのように召喚された国から世界の反対側にあるワールフラッド領に降り立った。
そこで彼女は北端に廃城を見つけ、そこに身を潜めることにしたのだ。
「実は私、メデュエット様の使い魔なのですよ」
使い魔と言っても、魔界から呼び出された魔物ということではないらしい。
年老い、群から離れ死に場所を探していたはぐれ狼にメデュエットが呪文を掛けたそうだ。
「そんなことまで俺に話してもいいのですか?」
ジローは素直にそう思う。
するとバルロムは先ほどの笑顔のまま答えた。
「そんなことを聞いて、あなたにどうにかできることがあるのですか?」
「ないですね」
ジローは笑顔を返した後、一転真顔となり、王子の事件について教えてほしいとバルロムに願い出る。
「王子は魔族討伐を宣言しながらも、実際はメデュエット様を我がものにしようとしたのですよ」
バルロムがいまいましそうな表情となって説明を続けた。
要は王子も街でメデュエットの美しさを聞きつけ、力で蹂躙しようとしたらしい。
それでもメデュエットは、最初は丁寧に王子を迎え入れた。
廃城に住んでいることを王子に詫びながら。
しかし王子はそんな彼女の真摯な姿勢に応じることもなく、メデュエットに身体を開けと命じた。
それを拒否した彼女に王子は剣を抜いた。
続けて見せしめのように、そばに立つバルロムに切りつけた。
しかしバルロムに王子の刃が届く前に、メデュエットの邪眼が王子に対して発動したのだ。
石化する王子と親衛隊たち。
その直後、怒りに我を忘れたバルロムはメデュエットの制止にも従わず、王子の石像を砕いてしまう。
「ジローさん、そのときの私の気持ちをご理解いただけますか?」
同意を求めるような視線のバルロムにジローは真摯な表情を作って頷く。
バルロムは説明を続けていく。
衝動的に王子の石像を破壊してしまったバルロムに、メデュエットはため息をつきながらも彼に指示を出した。
王子の亡骸を王城にお返しするようにと。
同時に彼に伝言も持たせた。
「親衛隊の方々は無事です。私たちをこれ以上攻撃しないよう説得してくださる方が来てくだされば、皆さまはお返しします」
しかし王国は聞く耳を持たなかった。
王子を失った怒りに任せ、王は北の砦に大軍を差し向けたのだ。
その結果が、北の街道に連なる石像群である。
もう、王家を脅すしかないと覚悟を決めたメデュエットは、その晩に王の寝室を訪れた。
そして王を石化した。
以前他国の王を暗殺したように。
しかし像は破壊しなかった。
いつか王国と和解の日が来たときに元に戻せるようにと。
ジローはため息をついた。
「それも結構重い物語ですね」
「でしょう」
バルロムが相槌を打つ。
ジローは考える。
この問題を解決する最も簡単な方法は、王家とメデュエットが和解することだと。
だが、あの側近たちの様子を見る限り、選択肢としてそれはありえないだろうとも思う。
するとバルロムが言葉を続けた。
「お嬢様のことは信用していただけましたか?」
ジローは無言で首を縦に振った。
「それでは、先程も申し上げましたが、街を訪れることも控えられたお嬢様にとって、唯一の楽しみは旅の者から物語を聞かせていただくことなのです。もしあなたがお嬢様を恐れないのであれば、ぜひともお嬢様に物語をお聞かせ願えませぬか。当然相応のお礼はご用意いたします」
バルロムからの申し出に今度は
「もちろんですとも、ぜひともメデュエット様にお目通り叶いますよう、お願い致します」
続けてジローは心の中でつぶやいた。
潜入成功と。
ジローの回答に満足気な表情のバルロムは試すように彼を誘った。
「それでは試しに何かお聞かせ願えますか?」
「構いませんよ」
バルロムはジローを酒場に誘った。
ジローは雑貨店の主に銀貨を握らせ礼を言った後、バルロムの後をついていった。
酒場に到着した二人はテーブルに陣取る。
「私はエールにしますが、ジローさんはどうされますか?」
「同じものをお願いします」
すぐに陶器のジョッキが二杯テーブルに届く。
「それではジローさん、お聞かせください」
バルロムが期待するような眼差しをジローに向け、上品に促した。
ジローは物語を語った。
記憶を頼りに、数あるファンタジーと呼ばれる小説の一部を。
話しながらバルロムの表情をつらつらと確認してみる。
思いの外、バルロムの食いつきは良い。
彼はジローの語りにいちいち反応しているのだ。
「なんですと、そんなことが」
「うむむ、主人公の切ない想いが伝わりまする」
「ウホ!」
ウホときたかこのおっさんと、過剰反応に驚きながらもジローは物語を続けていった。
ひと通り物語を紡いだところで、バルロムが上機嫌でジローを賞賛した。
「いやはや、面白かったですよ。物語の盛り上げ方も素晴らしいものでした」
彼は続けた。
「よろしければ、それらの物語をお売りいただくわけにはいきませぬか?」
バルロムの申し出にジローはぽかんとする。
するとその表情に気づいたバルロムは微笑みながら言葉を続けた。
「私共のお嬢様は、そうした物語が大好きなのですよ」
その後、バルロムはジローに彼らのお嬢様であるメデュエットについて語りはじめた。
メデュエットは、とある国の召喚魔術師により、魔界からこの世界に召喚されたそうだ。
その召喚は「強制命令」を伴うものだということ。
「強制命令」の内容は、ある国の王の暗殺だった。
メデュエットは己の魔力、何よりも己の「邪眼」が、どれほどの不幸を世界に撒き散らすのかということを理解していた。
それはメデュエットの本意ではない。
しかし「強制命令」は彼女を縛る。
さらに彼女は辛い現実に晒された。
召喚は一方通行であり、メデュエットが魔界に帰ることは叶わないという現実に。
彼女は強制命令の対象である王を石化し、像を砕いた。
こうして自由になった彼女は飛行の魔法を駆使し、逃れるかのように召喚された国から世界の反対側にあるワールフラッド領に降り立った。
そこで彼女は北端に廃城を見つけ、そこに身を潜めることにしたのだ。
「実は私、メデュエット様の使い魔なのですよ」
使い魔と言っても、魔界から呼び出された魔物ということではないらしい。
年老い、群から離れ死に場所を探していたはぐれ狼にメデュエットが呪文を掛けたそうだ。
「そんなことまで俺に話してもいいのですか?」
ジローは素直にそう思う。
するとバルロムは先ほどの笑顔のまま答えた。
「そんなことを聞いて、あなたにどうにかできることがあるのですか?」
「ないですね」
ジローは笑顔を返した後、一転真顔となり、王子の事件について教えてほしいとバルロムに願い出る。
「王子は魔族討伐を宣言しながらも、実際はメデュエット様を我がものにしようとしたのですよ」
バルロムがいまいましそうな表情となって説明を続けた。
要は王子も街でメデュエットの美しさを聞きつけ、力で蹂躙しようとしたらしい。
それでもメデュエットは、最初は丁寧に王子を迎え入れた。
廃城に住んでいることを王子に詫びながら。
しかし王子はそんな彼女の真摯な姿勢に応じることもなく、メデュエットに身体を開けと命じた。
それを拒否した彼女に王子は剣を抜いた。
続けて見せしめのように、そばに立つバルロムに切りつけた。
しかしバルロムに王子の刃が届く前に、メデュエットの邪眼が王子に対して発動したのだ。
石化する王子と親衛隊たち。
その直後、怒りに我を忘れたバルロムはメデュエットの制止にも従わず、王子の石像を砕いてしまう。
「ジローさん、そのときの私の気持ちをご理解いただけますか?」
同意を求めるような視線のバルロムにジローは真摯な表情を作って頷く。
バルロムは説明を続けていく。
衝動的に王子の石像を破壊してしまったバルロムに、メデュエットはため息をつきながらも彼に指示を出した。
王子の亡骸を王城にお返しするようにと。
同時に彼に伝言も持たせた。
「親衛隊の方々は無事です。私たちをこれ以上攻撃しないよう説得してくださる方が来てくだされば、皆さまはお返しします」
しかし王国は聞く耳を持たなかった。
王子を失った怒りに任せ、王は北の砦に大軍を差し向けたのだ。
その結果が、北の街道に連なる石像群である。
もう、王家を脅すしかないと覚悟を決めたメデュエットは、その晩に王の寝室を訪れた。
そして王を石化した。
以前他国の王を暗殺したように。
しかし像は破壊しなかった。
いつか王国と和解の日が来たときに元に戻せるようにと。
ジローはため息をついた。
「それも結構重い物語ですね」
「でしょう」
バルロムが相槌を打つ。
ジローは考える。
この問題を解決する最も簡単な方法は、王家とメデュエットが和解することだと。
だが、あの側近たちの様子を見る限り、選択肢としてそれはありえないだろうとも思う。
するとバルロムが言葉を続けた。
「お嬢様のことは信用していただけましたか?」
ジローは無言で首を縦に振った。
「それでは、先程も申し上げましたが、街を訪れることも控えられたお嬢様にとって、唯一の楽しみは旅の者から物語を聞かせていただくことなのです。もしあなたがお嬢様を恐れないのであれば、ぜひともお嬢様に物語をお聞かせ願えませぬか。当然相応のお礼はご用意いたします」
バルロムからの申し出に今度は
「もちろんですとも、ぜひともメデュエット様にお目通り叶いますよう、お願い致します」
続けてジローは心の中でつぶやいた。
潜入成功と。
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