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これが俗に言う非常識

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 背後であっけにとられながら座り込んでいるツァーグ、リスペルと、何が起きているのか理解できていないといった表情でぼうっとしているイーゼルをかばうようにしながら、彼らに向かって目の前の肉塊から次々と襲ってくる触手を、アージュは己の身長はあろうかという淡く黄金に輝く大剣を軽々と操りながら、次々と討ち払っていく。

 一方で若草色の少女は、青白く光る細身の剣を自在に操りながら、化物の周囲を舞うように切り刻んでいく。
 
 その信じられない光景を目の当たりにし、言葉を失っている三人をさらに驚くべき事態が襲った。

「ディストラクションニードル!」 
 黒髪の少年が唱えた、ツァーグも初めて耳にする呪文によって脊髄草スピナルグラスとやらの化物が一瞬びくりとすると、続けて彼もよく知る魔法が少年によって唱えられていく。
 
 慌ててツァーグは黒髪の少年に訴えた。
「魔族に状態異常魔法は無効です!」
 しかしその指摘と同時に少年の呪文は完成した。

麻痺霧パラライズフォッグ!」

 え?
 ツァーグとリスペルは目を疑った。
 
 先程リスペルの睡眠霧スリープフォッグをあっさりと無効化した目の前の化物が、ぴくぴくと痙攣しながら動きを止めてしまっているのだ。
 これは、パラライズフォッグが効いているということ。

 魔族、さらに植物属性を持つ相手にパラライズが効くなど、二人にとっては信じられない光景である。
 しかし黒髪の少年は当然のように続けた。
 
「アージュ、ナイおねーちゃん、拘束時間は一分くらいが限界だよ! さっさと片付けてね!」
「任せろ!」
「すっごく斬れるの!」

 黒髪の少年に返事をするかのように、金髪の少年と若草の少女は見る見るうちに目の前の化物を切り刻んでいく。

「ナイねーちゃん、土産にするからおっさんどもの頭はきれいに切り飛ばすようにな!」
「こうかしら?」

 アージュの指示に従って、ナイはアージュから渡された細身の刃を熟練者ベテランのごとく自在に操り、スピナルグラスの身体から生えているおっさんどもの頭を次々と切り落としていく。
 切り落とされた首から血が吹き出すことはない。
 ということは、既に生物としての活動は終わってしまっているということ。

 ツァーグたちの目の前で、それはたわわに実った果樹がその果実を収穫されるがごとく、元仲間の首が肉の塊から次々と落とされていく。

「これで最後よ!」

 ナイの刃がパドの頭を落とすと同時に、それまでは触手の相手をしていたアージュがニヤリと笑う。

「クラウス、頼むぞ!」
「わかってるよ!」

 アージュの指示にクラウスが返事をすると同時に、アージュは目の前の化物に向けて大剣を最上段から勢いよく振るった。

 哀れ肉の塊を成したスピナルグラスは、頂上から地面まで、真っ二つに切り分けられたのである。
 続けてクラウスが恥ずかしいコマンドワードを叫ぶ。
 
暴風竜の眼アイオブストームドラゴン探索者サーチャー!」

 するとクラウスの右目を覆う単眼鏡モノクル状のレンズが一瞬碧色に光る。

「見ーつけた」

 クラウスのモノクルからレーザー状の光が放たれ、それは真っ二つにされた肉塊の中央付近を照らし出した。
「それが本体だよ。もう一体はわかんないや。もしかしたらナイが切り刻んじゃったかも」
「ふーん」
 アージュはレーザー光が照らし出す位置に、どす紫色の発芽もやしのような植物を見つけた。

「ぶった切ると証拠がなくなっちまうか」
「なら精神的に殺しちゃいなよ」
「そだな。そういうときはこれだ」

 ということで、アージュもこっぱずかしいコマンドワードを唱えた。
 
混沌竜の爪ネイルオブピカレスクドラゴン魂魄破壊針ソウルスティンガー!」

 するとアージュが持つ巨大な黄金大剣が白い光とともにみるみるうちに縮んでいく。
 いつの間にかアージュの手には、漆黒の短針剣スティレットが握られていた。

「ほれ」
 ぷすり。
 
 アージュがスピネルグラスの本体らしきもやしを針で刺すと、一瞬びくりとしたそれは、そのまま動かなくなった。
 それと同時に、それまで一体となっていたおっさんどもの死体は、糸が切れたように、ばらばらと崩れていく。

「そんじゃ解放リリース
「ボクも解放リリースっと」
 同時にアージュのスティレットは元の小刀に、クラウスのモノクルは元の木の葉型に戻る。

 するとナイがアージュに尋ねた。
「この剣はどうすればいいの?」
 ナイもアージュに指示されたコマンドで、この剣の特殊能力「鴻鵠ルフ」を引き出していたのだ。

「あー、鴻鵠の能力は放っておけば消えるからそのままでいいよ」
 ちなみに、鴻鵠とは相手に与えるダメージを3倍とし、さらに25%の確率で相手に束縛効果を与えるというスグレモノの能力。
 ただし精神力を3も消費するのだが、魔族のナイには屁でもない。
 
 そこにクラウスも情報を追加する。
「レーヴェお姉ちゃんのデーモンシュレッダーには破魔エクソシズムもついているからお得だね」

「破魔」とはアンデッドおよび悪魔に2倍のダメージを与える上、相手の存在エネルギーを体力として吸収してしまう能力。
 こちらは自律型なので必要精神力はゼロと経済的なのだ。

 つまり、ナイが手足のように自由自在に振り回している細身の刀シャムシールは、そのままでも悪魔系にはダメージ2倍の上、体力吸収のおまけつき。
 さらに鴻鵠を発動させれば、その攻撃力はなんと6倍に達する。
 そりゃ悪魔デーモンが紙のように刻まれてシュレッドも仕方がありません。

「そんな高価なのを使わせてもらっていいの?」
 やけに切れ味がいいなとは思っていたが、さすがに手にする得物がそんな代物だとは思っていなかったナイは恐縮してしまう。

「いいさ、道具は使わにゃ損々だ。それに元の持ち主はもっととんでもないのを振り回しているからな」
 そこでアージュは自分自身の言葉に、クラウスもアージュの言葉によって思わず背筋を凍らせてしまう。
 二人の剣術の師である、頭が空っぽな碧いねーちゃんのシゴキを思い出したことによって。

 アージュは何かを忘れるようにぶるぶると頭を振ると、先ほどから無言で硬直している三人に振り返った。
 
「それじゃあおっさんども、顔貸せや」
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