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最初の晩餐
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一通り町中の表通りを見て回った後、アージュとクラウスはナイを迎えに最初の衣料店に戻った。
「おっ」
「へえ」
アージュとクラウスは思わず感心してしまう。
若草色の髪を肩で揃えた少女は、白のブラウスに革色のベスト、同色の革製パンツにショートブーツといったいでたちで、ちょうど腰にシャムシールのベルトアーマーを合わせているところだった。
アージュとクラウスの姿に気付いた女店員さんは、自慢の作品を紹介するかのように、二人へと笑顔を振りまいた。
「あら、おかえりなさいませ。いかがですか、日常衣装をいくつかご用意いたしましたが」
「これは高く売れ……ぎゃん!」
ばすっ!
クラウスが思わずつぶやこうとした女性に対しては禁句の言葉を、アージュは何とか太股蹴りで制止すると、わざとらしくナイに向かって
「とっても似合うよ! ステキだよナイ姉ちゃん!」
などと子供っぽく反応してみる。
その場で左太股の裏を押さえ、しゃがみこんでしまったクラウスもアージュに何とか同意する。
「シャツは同型のものを数枚、パンツは革製をもう一着に布製のものを二着、チュニックスカートを一揃いに夜着のロングシャツを二枚。足元はショートブーツの他にローパンプスとミュールをお選びいたしました。今回は下着はなるべく透けないように淡色を意識いたしましたが、いかがでしょうか?」
「なんでボクたちに聞くの?」
アージュの疑問に店員さんは困ったような表情をしてしまう。
「それが、お客様には何をお伺いしても、二人が帰って来てからとしかお答えをいただけませんでしたので」
そう、ナイは律儀にも二人の命令をかたくなに順守していたのだ。
アージュはナイの後ろに回ると、背伸びをして彼女の耳元で囁く。
「気にいった?」
すると、ナイは何かから解放されたように明るい表情となる。
「はい、アージュさま」
同時にナイの膝裏にアージュの膝が叩きこまれる。
「人前ではアージュとクラウスでいい」
何とかしゃがみこむのをこらえたナイは、後ろでアージュが発する台詞を追いかけるように棒読みしていく。
「アージュ、クラウス、似合いますか?」
「可愛いよ!」
「素敵だよ!」
と、店員のお姉さんが上機嫌となるような反応を見せることにより、アージュとクラウス二人の普段着は格安で購入できたのである。
しょせん「しま○ら」レベルの衣料ではあるが、町に溶け込もうとしている二人にとっては歓迎すべきものだ。
「それじゃ夕飯にすっか」
「ナイはお腹すいた?」
「お肉食べたいです」
いくつもの袋となった衣装を抱えて、かぼちゃの甘露煮亭に戻った三人は、ナイのショルダーバッグには一日分のナイの着替をしまい、残りはアージュのランドセルとクラウスのメッセンジャーバッグに手分けしてしまっておく。
そのまま一階のホールに降りてきた三人は、カウンターにほど近い四人がけの丸テーブルに三人で腰かけると、置かれているメニューに目を走らせ始めた。
「ナイはどれを食いたい?」
しかしナイは困ってしまう。
何故なら、当然のことながらナイは文字が読めないのだから。
「あの、迷惑だったら人間のお肉でも」
ガン!
アージュの「黙れ」という命令の前に、彼のつま先がナイの弁慶の泣き所を容赦なく襲い、彼女は声を詰まらせてしまう。
でも何を食べたいと聞かれても、ナイにはわからないから仕方がない。
「そんじゃこの、お肉盛り合わせにするか。それから名物の、かぼちゃの甘露煮も試さなきゃな」
一方でクラウスは何度もメニューを見返している。
「おっかしいなあ。メニューが違うのかなあ」
「どうしたクラウス?」
「デザートが載ってないんだよ」
そう言われてみると、メニューは料理と酒ばかりで、甘いものや冷たいものが記載されていない。
「聞いてみるか」
アージュはナイに右手をあげさせると、先程部屋の案内をしてくれた、今は給仕のおばちゃんを席に呼んだ。
「この、お肉の盛り合わせを焼きと煮込みの二種類で。それからかぼちゃの甘露煮を三人分ください」
おばちゃんはうんうんとうなずきながらメモをとってくれる。
「ところで、デザートはないの、おばちゃん?」
クラウスの質問におばちゃんは不思議そうな表情となる。
「デザートってどんな料理なのかい?」
あー。
アージュとクラウスはすぐに気付いた、
「いえ、何でもないです。それじゃあお願いします」
「はいよ。すぐに持ってくるからね」
多分この土地には、食後のデザートという概念がないのであろう。
やがてテーブルに料理が並べられる。
三人の目の前には、両の手のひらで持てるサイズのお皿にこんもりと盛られた黄金色に輝くかぼちゃの煮物。
テーブルの真ん中には、大皿に牛、羊、猪、鶏の肉を薄切りにして焼いた皿と、それぞれの塊を煮込んだ皿が並べられた。
実はお肉盛り合わせは、このお店で最も高価なメニューなのだ。
お値段は、焼き煮込みともに一皿五千リル。
一方でかぼちゃの甘露煮は三百リルと、とってもお得。
「それじゃいただきまーす」
アージュとクラウスは両手を合わせ、ナイも慌ててそれをまねしてから、三人はフォークを料理にぶち刺していく。
ナイは二人に勧められるがままに、肉を順番に一切れずつ口に運び、そのたびに目を白黒させている。
「ナイ、野菜も食え」
「かぼちゃも食べないと、うんこがべたべたになるからね」
何を言われているか分からないが、とにかくナイは二人の言うとおりに食べる。
食べながら涙が浮かんでくる。
あまりの美味しさに。
「ナイ、うまいか?」
「はい、アージュ」
鼻声で返事をするナイに目もくれずに、アージュは冷たく言い放った。
「そうか、そりゃよかった。ならしばらく黙って食え。おかわりのときは小声でオレに言え」
既にクラウスはホール中央から目線をそらしながら食事をしている。
なぜなら、先ほど暴れた連中がこの店にやってきたからだ。
アージュとクラウスは、夕食を楽しむことよりも、さらなる情報収集を選択した。
「おっ」
「へえ」
アージュとクラウスは思わず感心してしまう。
若草色の髪を肩で揃えた少女は、白のブラウスに革色のベスト、同色の革製パンツにショートブーツといったいでたちで、ちょうど腰にシャムシールのベルトアーマーを合わせているところだった。
アージュとクラウスの姿に気付いた女店員さんは、自慢の作品を紹介するかのように、二人へと笑顔を振りまいた。
「あら、おかえりなさいませ。いかがですか、日常衣装をいくつかご用意いたしましたが」
「これは高く売れ……ぎゃん!」
ばすっ!
クラウスが思わずつぶやこうとした女性に対しては禁句の言葉を、アージュは何とか太股蹴りで制止すると、わざとらしくナイに向かって
「とっても似合うよ! ステキだよナイ姉ちゃん!」
などと子供っぽく反応してみる。
その場で左太股の裏を押さえ、しゃがみこんでしまったクラウスもアージュに何とか同意する。
「シャツは同型のものを数枚、パンツは革製をもう一着に布製のものを二着、チュニックスカートを一揃いに夜着のロングシャツを二枚。足元はショートブーツの他にローパンプスとミュールをお選びいたしました。今回は下着はなるべく透けないように淡色を意識いたしましたが、いかがでしょうか?」
「なんでボクたちに聞くの?」
アージュの疑問に店員さんは困ったような表情をしてしまう。
「それが、お客様には何をお伺いしても、二人が帰って来てからとしかお答えをいただけませんでしたので」
そう、ナイは律儀にも二人の命令をかたくなに順守していたのだ。
アージュはナイの後ろに回ると、背伸びをして彼女の耳元で囁く。
「気にいった?」
すると、ナイは何かから解放されたように明るい表情となる。
「はい、アージュさま」
同時にナイの膝裏にアージュの膝が叩きこまれる。
「人前ではアージュとクラウスでいい」
何とかしゃがみこむのをこらえたナイは、後ろでアージュが発する台詞を追いかけるように棒読みしていく。
「アージュ、クラウス、似合いますか?」
「可愛いよ!」
「素敵だよ!」
と、店員のお姉さんが上機嫌となるような反応を見せることにより、アージュとクラウス二人の普段着は格安で購入できたのである。
しょせん「しま○ら」レベルの衣料ではあるが、町に溶け込もうとしている二人にとっては歓迎すべきものだ。
「それじゃ夕飯にすっか」
「ナイはお腹すいた?」
「お肉食べたいです」
いくつもの袋となった衣装を抱えて、かぼちゃの甘露煮亭に戻った三人は、ナイのショルダーバッグには一日分のナイの着替をしまい、残りはアージュのランドセルとクラウスのメッセンジャーバッグに手分けしてしまっておく。
そのまま一階のホールに降りてきた三人は、カウンターにほど近い四人がけの丸テーブルに三人で腰かけると、置かれているメニューに目を走らせ始めた。
「ナイはどれを食いたい?」
しかしナイは困ってしまう。
何故なら、当然のことながらナイは文字が読めないのだから。
「あの、迷惑だったら人間のお肉でも」
ガン!
アージュの「黙れ」という命令の前に、彼のつま先がナイの弁慶の泣き所を容赦なく襲い、彼女は声を詰まらせてしまう。
でも何を食べたいと聞かれても、ナイにはわからないから仕方がない。
「そんじゃこの、お肉盛り合わせにするか。それから名物の、かぼちゃの甘露煮も試さなきゃな」
一方でクラウスは何度もメニューを見返している。
「おっかしいなあ。メニューが違うのかなあ」
「どうしたクラウス?」
「デザートが載ってないんだよ」
そう言われてみると、メニューは料理と酒ばかりで、甘いものや冷たいものが記載されていない。
「聞いてみるか」
アージュはナイに右手をあげさせると、先程部屋の案内をしてくれた、今は給仕のおばちゃんを席に呼んだ。
「この、お肉の盛り合わせを焼きと煮込みの二種類で。それからかぼちゃの甘露煮を三人分ください」
おばちゃんはうんうんとうなずきながらメモをとってくれる。
「ところで、デザートはないの、おばちゃん?」
クラウスの質問におばちゃんは不思議そうな表情となる。
「デザートってどんな料理なのかい?」
あー。
アージュとクラウスはすぐに気付いた、
「いえ、何でもないです。それじゃあお願いします」
「はいよ。すぐに持ってくるからね」
多分この土地には、食後のデザートという概念がないのであろう。
やがてテーブルに料理が並べられる。
三人の目の前には、両の手のひらで持てるサイズのお皿にこんもりと盛られた黄金色に輝くかぼちゃの煮物。
テーブルの真ん中には、大皿に牛、羊、猪、鶏の肉を薄切りにして焼いた皿と、それぞれの塊を煮込んだ皿が並べられた。
実はお肉盛り合わせは、このお店で最も高価なメニューなのだ。
お値段は、焼き煮込みともに一皿五千リル。
一方でかぼちゃの甘露煮は三百リルと、とってもお得。
「それじゃいただきまーす」
アージュとクラウスは両手を合わせ、ナイも慌ててそれをまねしてから、三人はフォークを料理にぶち刺していく。
ナイは二人に勧められるがままに、肉を順番に一切れずつ口に運び、そのたびに目を白黒させている。
「ナイ、野菜も食え」
「かぼちゃも食べないと、うんこがべたべたになるからね」
何を言われているか分からないが、とにかくナイは二人の言うとおりに食べる。
食べながら涙が浮かんでくる。
あまりの美味しさに。
「ナイ、うまいか?」
「はい、アージュ」
鼻声で返事をするナイに目もくれずに、アージュは冷たく言い放った。
「そうか、そりゃよかった。ならしばらく黙って食え。おかわりのときは小声でオレに言え」
既にクラウスはホール中央から目線をそらしながら食事をしている。
なぜなら、先ほど暴れた連中がこの店にやってきたからだ。
アージュとクラウスは、夕食を楽しむことよりも、さらなる情報収集を選択した。
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