6 / 22
『誘い』
しおりを挟む「なんかオシャレな店じゃん」
日野がせわしなく店内を見回している。
「やめろよみっともない。田舎者だと思われるぞ」
私が止めたが、日野は制止を振り切ってなお店内を観察している。
「はっはっは!日野は相変わらずだなぁ。神谷くんも大変だね」
中野はビールを飲みながら笑った。
「そうなんですよ。まぁ一応仕事はきちんとしてくれるので職場では世話焼かなくて済みますけど」
私もビールを口に含んだ。
「やるときゃーやる男なんだよ俺は!」
日野はビールと思いきや大量の枝豆を口に放り込んだ。
やっぱりこいつは少しズレている。まぁそのズレが面白いのだけれど…
「そんで話は変わるけどよ、なんで神谷くんは風俗にデビューしたわけ?奥さんに飽きちゃったとか?」
唐突に中野が尋ねてきた。
「うーん、特にこれといって理由はないんですけど。俺もいい歳だしそろそろって感じたんですよ」
俺はサラジャの話は伏せた。どうせ信じてもらえない。
するとそこへ
「そうなんすよ!こいつほんと真面目で」
日野が割って入ってきた。
「そうなんだ。それにしても今時珍しいね。風俗に行ったことがなかったなんて」
「ですよね。友達がハマってた時期とかもあったんですけどね。でも何か乗り気になれなくて。だから風俗だけじゃなく、競馬も今日初めてやりました」
私がそう言い終わるとしばらく沈黙が続いた。
(え?なんかダメなこと言った?)
私が自分の発言を気にしていたら中野が沈黙を破った。
「初対面でこんなこと言うのもなんだけど…よく今まで生きてこれたな」
「ププッ」
日野が吹き出した。
「いや!どういうこと!?生きてる価値がないって?やかましいわ!」
私は酒も入っていたので普段よりも陽気なツッコミを入れた。
「いやー、ごめんごめん。神谷くんみたいな感じの人久しぶりだったから」
中野も大笑いしていた。
「それしても可哀想だよな。初めてのソープで挿入無しで終わっちまうなんて。その激熱フェラをしてくれた女の子は何て名前の子?」
「たしか、まどかって子だったよな?」
日野に聞くと日野も頷いた。
「え?まどか?」
中野が聞き返してきた。
「はい。20代半ばぐらいの」
「それもしかして俺の紹介で入った子かも?いやね、今はキャッチしてるけど前はスカウトしてたんだよ。場所にもよるけど、そん時のスカウトは紹介手数料が良い店にわりと自由に女の子を紹介するって感じだったんだ。それでそん時はトライブさんが手数料高かったから紹介したんだよね」
すると中野はスマホを取り出した。
「あ、やっぱあったわ。まどかの番号。呼んでみる?」
「えっ!?ちょ、呼ぶんですか?そりゃあたしかに可愛いかったけど…ちょっと気まずいですよ」
「まぁ一応声掛けるだけ掛けてみるよ」
中野は発信ボタンをタップし、まどかに電話を掛けた。
「あ、もしもし?まどちゃん?中野だけど」
どうやらまどかは中野からの電話に出たようだ。
「ところで1つ聞きたいことがあんだけどさ、今日フェラだけで帰らせたお客さんいた?そうそう(笑)いやね、今そいつらと飯食ってんだけど来ない?」
まどかは何て言っているのだろう
馬鹿にされて笑われているのかな?
会話が気になってしかたなかった。
「うんうん、おっけー!今はねー、駅前の天ぷら屋にいるよ。分かる?あー、そうそう!じゃあ待ってるね〰️」
「来るって!?」
俺よりも先に日野が問いかけた。
「うん、来るって。神谷くんに会いたがってたよ。つかお前は関係ねぇだろっ」
中野は日野の額にデコピンをした。
「いま店上がったとこだからすぐ来るって」
だんだん緊張してきて、中野の話が耳に入ってこない。
そして15分ぐらいしてから店員の
「お連れ様でぇす!いらっしゃいませーっ!」
と声が聞こえ、ハッとした。
声がする方を恐る恐る見ていたら、そこにまどかが現れた。
店で見た格好とは違ったが、ショートパンツにニーハイブーツと相変わらずセクシーだった。しかもかなりの美脚だ。
「こんばんわっ。中野さん久しぶりだね〰️」
「おー!まどちゃん久しぶり!」
そう言うと中野とまどかはハイタッチをした。
「旬くんも数時間ぶりだねっ」
「どーも」
「ちょー冷たいじゃん」
するとまどかは私の横に割って入った。日野は眼中にないという感じだった。
日野は中野に口パクで(ひどくない?)と言っていた。
その後もまどかは終始私にベタベタとボディータッチを繰り返し、最初は慣れないボディータッチを不快に感じていたが、店を出る頃には勃起していた。
まどかは時々さりげなく私の股関に触れたので勃起していたことに気付いていただろう。
「ねぇ、連絡先教えて?」
店を出てからまどかに言われた。
「別にいいけど」
そう言ってスマホを取り出すと画面に橋本杏菜からのメッセージの通知が広がっていた。
てっきり返信するのを忘れていたが、今はまどかと連絡先を交換することが優先なので、通知を消してQRコードで連絡先を交換した。
「じゃあまた連絡するねっ」
そう言い残すとまどかは御馳走してくれた中野にお礼を言って、帰っていった。
まどかを見送り、姿が見えなくなってから中野が
「どう?まどかと和解できた?」
と聞いてきた。
「和解というか…まぁ、そうですね。話してみると普通に良い子だと思いました」
中野が良かったと言わんばかりに微笑んだ。
この後どうする?と中野が持ち掛けたが、俺も日野も明日は仕事だと伝えその場で中野と別れた。
中野は子供のように手を大きく振って見送ってくれた。
日野と駅のホームへ行くと、ホームはガラガラで何となく時計を見ると既に23時を回っていた。
「あの天ぷら屋に結構長居してたなー」
私が日野に言うと
返事がなかった。
日野の方に目をやると、日野はベンチでウトウトしていた。
いつの間に座ってたんだ。私は呆れながらも日野の隣へ座り、電車を待った。
時刻表を確認すると次の電車の到着まで20分ほどあった。
日野も寝ているし今は一人の時間だ。私はスマホを取り出し橋本杏菜にメッセージの返信を送ることにした。
(映画いいですね!何か観たい映画あります?私は割と何でも映画好きだから杏菜さんにチョイスは任せるよ!それとせっかくだから映画の後食事でもどうですか?)
少し酔っていたせいもあって、普段なら送らないような内容を送った。
酔っていなければ絶対に『杏菜さん』ではなく、『橋本さん』と送っていた。
それと今日まどかに出会ったこともあり、気が舞い上がって横着になっていたのかもしれない。
たが送った後に後悔してもしかたない。私は橋本杏菜からの返信をただ待つことにした。
電車が来るまでまだ時間はある。日野はもはやウトウトではなく爆睡だ。
私はスマホを取り出しネットニュースに目を通した 。
今日も特に重大なニュースは起こっていないようだ。平和で良かった。
「ポポンッ♪」
メッセージアプリの通知音が鳴った。
てっきり橋本杏菜からだと俺は画面を見たら、そこにはまどかからのメッセージが来ていた。
(今日はありがとうね!さっそくだけど次はいつ会えそう?)
仕事柄なのか男慣れしている。積極的な女だと少し感心した。
まだ先の予定がよく分からなかったので
(こちらこそありがとう!予定が分かり次第連絡する)とにごして返信しておいた。
すると、ようやく電車が来たので日野を小突いて起こし、私達は帰路についた。
0時頃。
家に帰るとすでに明かりは消えていた。別に私が帰る前に寝た美加を責めるつもりはない。むしろホッとしたぐらいだ。
ギャンブル、風俗、酒。しかも結婚した後に出会った女性2人と連絡も取っている。
女性と連絡を取っているだけと思うかもしれないが、もちろん私は2人共と肉体関係を持つつもりだ。でなければ連絡を取る必要がない。
酔っている今は美加の顔を見るとボロが出るかもしれない。だから先に美加が寝てくれていてホッとした。
美加を起こさぬようゆっくりと鍵を開け、家に入った 。
忍者のように風呂場に向かうとシャワーを浴び、さっさと寝ようと寝室へと向かった。
すると「ポポンッ♪」とスマホが鳴ったので画面に目をやった。
橋本杏菜とまどかの2人からメッセージの通知が来ていた。
さすがに眠かった私は返信をする気力もなく、スマホを伏せて眠りについた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
密室島の輪舞曲
葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。
洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。
月影館の呪い
葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽(しんどう はね)は、名門の一軒家に住み、学業成績は常にトップ。推理小説を愛し、暇さえあれば本を読みふける彼の日常は、ある日、幼馴染の望月彩由美(もちづき あゆみ)からの一通の招待状によって一変する。彩由美の親戚が管理する「月影館」で、家族にまつわる不気味な事件が起きたというのだ。
彼女の無邪気な笑顔に背中を押され、葉羽は月影館へと足を運ぶ。しかし、館に到着すると、彼を待ち受けていたのは、過去の悲劇と不気味な現象、そして不可解な暗号の数々だった。兄弟が失踪した事件、村に伝わる「月影の呪い」、さらには日記に隠された暗号が、葉羽と彩由美を恐怖の渦へと引きずり込む。
果たして、葉羽はこの謎を解き明かし、彩由美を守ることができるのか? 二人の絆と、月影館の真実が交錯する中、彼らは恐ろしい結末に直面する。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】縁因-えんいんー 第7回ホラー・ミステリー大賞奨励賞受賞
衿乃 光希
ミステリー
高校で、女子高生二人による殺人未遂事件が発生。
子供を亡くし、自宅療養中だった週刊誌の記者芙季子は、真相と動機に惹かれ仕事復帰する。
二人が抱える問題。親が抱える問題。芙季子と夫との問題。
たくさんの問題を抱えながら、それでも生きていく。
実際にある地名・職業・業界をモデルにさせて頂いておりますが、フィクションです。
R-15は念のためです。
第7回ホラー・ミステリー大賞にて9位で終了、奨励賞を頂きました。
皆さま、ありがとうございました。
双極の鏡
葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。
事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる