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1章

39話

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瀬戸内海の問題を取り上げた日から数日が立ち、時は9月。

A目標の殲滅は僕と課長、局長が行い、C目標は敵でも味方でもあることが判明したので調査の結果放置の結論。

B目標D目標は現在、プロジェクターによって火の海になっているのが映し出されていた。

場所はミーティングルーム。海上及び陸上自衛隊によって、国内に潜伏した賊軍の征伐が行われていた。B目標は100人近く。D目標は60人前後。

前者を一般の自衛隊員1個大隊が。後者を6体にも満たないAI搭載式自立機械水陸両用銃撃戦術歩兵、通称“青狸”が担当した。

どちらの戦場も1時間と戦闘はしなかったが、目標Dの戦闘はおよそ20分も掛からなかった。それほどまでに圧倒的な速さで勝負は決した。

目標Dに向かった青狸は自爆することなくその任を果たした。

跳弾をも利用した圧倒的な殲滅力で制圧した。少なくとも僕たちが見ているプロジェクターにはそう映っている。

「上はとんでもない物を開発したようだな……」

美濃部局長が漏らしたのは仕方がない。これにガスやら自爆やらが含まれるのだから厄介なことこの上ないだろう。

僕でも気合を入れないと手こずる。言うて鈍重な金属の塊だし、呪いが届く範囲に来ればやりようはいくらでもある。

このミーティングルームには戦況を見ようと多くの者が詰めていた。

衛星からリアルタイムで送られているらしい。

なお、こちらを観測している他国の衛星には、局員が厳選した式神による心霊映像が届くこととなっている。

「さて、戦況は知っての通りだ。敵の出鼻を折ったと考えてよいだろう。そこで、伝達事項だ」

プロジェクターに1つの島が映し出される。

「ここはC目標に設定していた100数人規模が潜伏している。しかし、明確な敵ではない。“賢筆同盟”を名乗る結社の集まりだ」

「?」
「なんだ?」
「そんなのがいたのか?」

「まあ、首をかしげるのは分る。裏には世界3大戦儀というものがあって、まあ、平たく言えば定期的に行われる3つの世界規模になりかねない裏の戦らしい。『聖杯争奪戦争』『十筆争奪戦争』『三魔器戦争』この三つだ。詳細が必要なら真田係長にでも聞け。で、現在重要なのは2番目の『十筆争奪戦争』である。 強力な10本の杖を巡る戦いで、1本では文字が最適化されたり、勉強がはかどったりする程度だが、10本すべて集めると書いたことが一つだけ実現する筆になるそうだ。筆が全て集まること自体が数百年に1度らしいが、過去には第2次世界大戦で完膚ないまでに負けた世界線の日本がそれを集め、まあ、ましな形で負けることが出来るように時間の回帰を行ったのも昔の“賢筆同盟”らしい」

各々が時間の回帰についていろいろと言葉を重ねている。僕でもできなくはないが、数分や数時間が精々だ。年単位なんてやろうと思っても魔力が足りないし、パラドクス的な問題でやろうとも思えない。

「局長!内部戦力は如何様で?」
「道士に霊能力者に超能力者、魔術師に気術師に陰陽師、呪術師、魔法使いもいたか……。専門以外のものをこなせる者もそれなりにいると見た。持久力はともかく、練度は高いだろう。まあ、軍曹一人でどうとでもできるが……」
「僕と比べちゃいかんでしょう?」
「であるな!楽しい冗談もそのくらいにして、“賢筆同盟”は既に3本の筆を所有しているそうだ。彼らの目的は神々の再興。霊的な力が弱まって来た現代を憂いているらしい。まあ、その位なら許容範囲だ。そのような者たちもいる程度に留意せよ」
「「「はっ!」」」

僕たちはそれで解散した。

情勢的にアジア圏における戦争では中国が劣勢だ。戦線が長くなりすぎて泥沼化しているらしい。2世紀前の武器まで持ち出しかねない勢いで徴兵を行っているようだ。

我が国は台湾に多少の糧食の援助を行うくらいはしている。そのせいもあってか、数日に1発は北と中国からミサイルが飛んでくる。

「アリスさん、ちょっと用事で出て来るから」
「真田係長!」

アリスさんに声をかけて荷物を持った後、僕は局を後にした。

向かった場所は学園だ。校舎は建設途中だが、校舎の隅に石碑とお社を祀った神社が完成していた。

「おお、来おったか!」
「こんにちは、定本宮司に、校長先生……」
「こんにちは」

儀は少人数で迅速に行われた。荒木剣守護女神あれきつるぎのしゅごのめがみは確かにお社に宿った。

「凄まじき神だ……」

儀式が終わった後、定本宮司がそう呟く。

「分かりますよね」
「うむ。有岡の奴が云十人の供養をする羽目になったとぼやいておったが、私にもここまでのお役が回ってくるとはな思いもしなかった」
「まあ、定期的に祝詞を上げに来ていただけるとありがたいです。この一帯の為にも」
「そうだなぁ。工事中に心霊現象が重なったため、それを抑えるためにここに社を構えたというカバーストーリーで行こうと思う」

校長先生も後ろで頷いていた。

「此方も満足じゃ」
「「「!?」」」

「剣姫様!?」

隠形ではなく声だけであったが誰かと交流をするなぞ珍しい。

定本神主は姿勢を正して頭を垂れていた。

「真田は良いとして、有本と望月と申したか……」
「はっ!」
「はい」

「うむ。此方がこの地は治る故、案ずるな」
「はっ。望外の極みにございますれば。儀を取り仕切らせていただいた者といたしまして感謝のしようもございません」
「ほほっ、ほ。此方を楽しませればよい」

そんな別れ方をしたのだが、なぜか僕の係長室に剣姫様が陣取っていた。

「剣姫様?お社におわしめしていらしたのでは?」
「暇だと気が付いてな。分霊を置いて遊びに来たわ」
「仕事中なのですが……」
「よいではないか」
「ここの飯は旨い。それで十分じゃ」

現地妻ゲットとか思ったやつ手を挙げろ!

このお方、地味に僕の部屋の霊力を掠め取って行っているので困ったものである。

ともあれ、最近ではこの方も西洋風のゴスロリやワンピースをも着用するようになり、中々にルーズである。

僕の式神の小豆鬼を何体か自分の式神にして、自身の神域で増やし始めているらしい。特に霊力の精製が多い者を選んだようなので時期にとんでもないことになるだろう。

まあ、一定の個体はそのようになるよう呪いで改造した結果でもあるのだが、遺伝してそれが成長するとは思いもしなかった。

強くは成れないが高い霊力を秘めた式神。それが小豆鬼である。

その改造自体、高い霊力を持っていなければ成し得ないことなのは言うまでもないだろう。

現在は魔の水牛の乳で作ったアイスなどを美味しそうに頬張っている。その内、魔法すら使えるようになるかもしれない。

「あ、そろそろ1課のオフィスに移動しますが……」
「では、此方も行こう」

僕の守護霊の子猫様を撫でながらそう仰られる。

子猫様もまんざらではないらしい。

え?僕の守護霊が2体になった?似たようなモノであることは確かだ。

1課のオフィスに行くと、2係の3つの班は丸ごと残っていた。

「ヒトフタ係集合!」

歓談中だったが全員の注目が僕に集まる。

15:30ヒトゴオサンマルより係長室で対術師を想定した演習を行う。各員装備を整えて先頭から最後尾まで3某以内のロスで室内に集合せよ」
「「「「はっ!」」」」
「真田係長、わたしは……?」
「勿論アリスさんもだ。5人班である第二班に入ってください」
「は、はい……」

そんなわけで、僕は調理場の冷蔵庫に入れてあった食料を幾らか調達して部屋に戻るのであった。
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