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1章

24話

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6月の上旬。3日前に梅雨入りが発表された。

五芒星による結界封印の役割を担っている神社の力が弱まっているのを感知し、小豆鬼で回復させるために行脚した翌日。

学校の課題を鼻歌交じりにやっつけて高校の勉強にシフトしていると、非通知の番号からスマートフォンに着信が入った。

『私、内閣退魔局退魔課退魔室の蘆屋と申し……』

僕は通話を切った。

ヴーーーン ヴーーーン ヴーーーン

スマートフォンのバイブレーションが鳴る。非通知。

『私、内閣退魔局退魔課退魔室の……』

僕は通話を切った。

ヴーーーン ヴーーーン ヴーーーン

スマートフォンのバイブレーションが鳴る。非通知。

『私、内閣……』

僕は通話を切った。

ヴーーーン ヴーーーン ヴーーーン

スマートフォンのバイブレーションが鳴る。非通知。

『話を聞いてください!……』

僕は通話を切るべきかまよった。新手の詐欺だと思った。詐欺が寄ってくる理由にも心当たりはついているからだ。

「おかけになった電話番号は現在使われておりません」
『繋がっているのわかってますよ!』
「詐欺なら間に合ってます結構です」

僕は通話を切った。

ヴーーーン ヴーーーン ヴーーーン

スマートフォンのバイブレーションが鳴る。非通知。仕方なく出ることにした。

『切るなんてひどいじゃないですか!』
「何の話ですか?私、望月と申します」
『え?ちょ、間違えました。失礼しました』

今度は向こうが通話を切った。

ヴーーーン ヴーーーン ヴーーーン

スマートフォンのバイブレーションが鳴る。非通知。今度はどうしようか。御面白くなってきた。

電話口は若い女性だった。

『真田様でしょうか?』
「礼儀知らずと会話する気話ありません、失礼します」

僕は通話を切った。

結局切ることになった。それから3時間電話がかかってくることは無かった。

その間、魔法に関する研究を進めていた。

ヴーーーン ヴーーーン ヴーーーン

スマートフォンのバイブレーションが鳴る。3時間ぶりだ。当然のように非通知。

『真田さぁーーーん!!!助けてくださ』

僕は通話を切った。煩かったからだ。

およそ何があったのか分かる。僕は家から半径100メートル周辺に【真田健太の血縁者に悪意や害意などが僅かでもあるとこの家に辿り着けない】呪いをそれなりの強さで掛けてある。

辿り着けないのならばそう言うことだろう。

ヴーーーン ヴーーーン ヴーーーン

スマートフォンのバイブレーションが鳴る。今度は渚から。

「どうした渚?」
『家に来たいっていう、スーツのおねえさんが……』
「ほっといていいと思うよ。本当に来たいなら来れると思うから」
『あ、ちょっと、泣きつかないでください!ちょ、え?』
「渚、その人、僕に敵意があるみたいだし、正直要らない。拾ってこないでね」
「う、うん」

通話はそれで切れた。

時間も時間なので夕飯の下ごしらえ(焼き鮭、肉じゃが、サラダ、鶏肉入り味噌汁等)をしていると、先に渚が帰って来て、梨花さんが高校から帰って来た。

梨花さんは最低限卒業できるように高校に通うことにしたらしい。

まだ、妊娠は秘匿している。

それから数分後、インターホンが鳴った。

『先程お電話したぁ~、蘆屋と申します!』

大分息を切らした様子だ。インターホン越しに見るその女性の容姿が優れているのは分る。しかし、大分乱れ気味だ。

「こんな時間に来るとは、常識をご存じないので?お帰り願います」
『し、失礼しました。でも、それでも、話だけでも今日中に!』
「家の中にはさらに強力な呪いが掛けてあります。覚悟があるなら入ってくるといいでしょう」

数秒後、家の玄関のドアが開く音がした。「きゃぁぁぁぁ!!!」という悲鳴と共に。

どうやら本当に発動したようだ。そのテトテトとした足音は一気にリビングに駆け込んでくる。

「な、何なんですか!?」

入って来たのはギリギリ小学生に見えるような体格の女性用ブラウス1枚羽織った幼女であった。

「【僕の自宅の全域に、僕に悪意や敵意や害意を懐いた瞬間、その者とその者の血縁3親等の肉体を幼女に改変し、その状態を維持する】呪いをかけてあります」
「な、な、解いてくださいぃ!!!!」
「呪いを解いても肉体が歳をとれるようになるだけで幼女のままですよ?」
「へ?」

幼女を風呂場の鏡の前に案内し、現実を見せつける。

「これが私?ボッキュンボンボデェーは?バインバインの胸は?」
「見事なスレンダー体型。これは幼女です。以上!」

ショックを受ける幼女を放置して僕は料理に戻る。

今頃、彼女の血縁者も驚いていることだろう。

「ま、また来ます!」

そう言って彼女は去って行った。

その晩の夕食は盛況だった。

翌日、アポイントを取って来た蘆屋を名乗る幼女は、お子様用の服を着てやって来た。

「それで、何の用かな?」

僕は、机に幼児向けアニメのキャラクターのジュース(リンゴ味)を置いて聞く。

「なんでア○パ〇マ〇ジュース何ですか!?」
「何でそれがア○パ〇マ〇ジュース何ですかという質問に来たのかな?見た目幼女に出すドリンクは〇ーかア○パ〇マ〇ジュースって決まっているからだよ?」
「いや、そうではなくて!本題に入らせてください!」

幼女はそう言いながら自然な流れでジュースにストローを刺して、吸い始めた。「おいちい」って……。

「それで、本題とはなにかなお嬢ちゃん!」
「そろそろ、まじめになってください!」
「はぁ、面倒ですね。僕は正直、どこにも繋がれる気はありませんよ?」

先読みで道をふさぐ。

「……改めまして内閣退魔局退魔課退魔室の蘆屋 アリスあしや ありすと申します」
「そうですか。御帰りはあちらです」

僕は玄関の方に手を向ける。

「帰りません!」
「新手の詐欺なら間に合っています。御帰りを」
「詐欺じゃ、ありませんて!」
「詐欺じゃない、詐欺じゃないっていう人ほど詐欺なんですよね」
「でしたら、こちらに連絡していただければ」

そう言った幼女が名刺を出してくる。そこには所属と名前の下に、いくつか連絡先が書かれていた。

「この名刺の連絡先もグルだった場合は?ほら、証明になりません。詐欺師がよく使う手ですよ」
「うぅ~。どうしたら信じてくれるんですか?」
「お茶漬け食べますか?蛍の光を流しましょうか?」
「帰らせようとしないでください!」

ボーロをさらに出しながら、目の前の幼女を観察する。ちゃんと見ればどういった来歴の人かくらいは僕の目には映る。

「呪術師の名門、蘆屋家に外国人の母との間の子として産れるが、見鬼の才がなく、冷遇された劣悪な環境で育ち、見返そうと勉学に励んで、経済産業省に就職。能力と家柄を見込まれて内閣府退魔室の設立に巻き込まれると……」
「え!?何!?怖!?分かっているじゃないですか!?」
「今頃、お婆さん辺りまで幼女化しててんやわんやだろうね」

幼女がかかったのは血縁3親等までかかる呪い。

「な、おばあさまやおじい様まで!?」
「気にすることはないですって。日本が大変な時に手を貸さなかった連中だから」
「日本が大変な時です?」
「え?何も聞いてない感じですか?」
「はあ……」
「何で僕の所に来たんです?」
「上から資料を渡されて、そこに乗っている人を何としても勧誘しろって」

駄目や。駄目なやつだ。

幼女も首をかしげているし。そこで説明することにした。

「ぶっちゃけ言うと、日本が鎖国まがいの状態になった原因の悪霊。それの封印に寺社庁やら全国のお寺やら自衛隊に野良の霊能力者なんかまで協力したわけだけど、名のある家計の陰陽師やら呪術師はほぼ来てないんですよね。軽く日本崩壊の危機だったのに」
「そんなことが起きてたんですか!?」
「詳しくは自衛隊の人辺りにでも聞けばいいと思いますよ。この辺りの自衛官は最後らへん総動員して警備していましたから」
「……今度、帰省した時に聞いてみます」
「それではお帰りはあちらです……」
「帰りませんよ!」

幼女は帰らないようだ。

「で、何の御用ですか?」
「勧誘です」
「おかしな宗教の勧誘ならお帰りを~」
「宗教じゃありません。真田健太様。貴方を内閣退魔局第1退魔課退魔室の第2係係長としてお迎えしたいと。」
「係長ですか?」
「上から局長、課長、係長、班長と続きます。予定では真田様は第係係長として下に11人の実働可能な部下が付きます。それを半分に分けて2つの班として運用したり教育したりするのが真田様のお仕事です」
「で、幼女は?」
「真田様の事務員兼秘書として付くことになっています」
「へぇ~」
「も、勿論お給与は月200万円ほどになるかと……」
「たった200ですか……。それで割り振られる仕事というのは?」
「1課は国内の不可思議な事案やカルトが起こした厄介ごとに出向き、それの解決を。2課が解呪や結界に優れた者を配置し、政府要人などの警護に当たります。構想では1つの課で対処不能な事案に対しては人員の一時的な融通なども行われるようです」

内容と給与が見合っていない。確実に命の危険があるのにその額ではだめだろう。

「その額でその内容はどうかと思うが?1課は使い捨てですか?」
「ん?」

認識に乖離があるのか?

「例えば、カルトの起こした厄介ごとの解決とか入っていますが、仮にも神としてこの現代に崇められた者。そこら辺の使い手がダース単位でいても玩具にされておしまいです。そんな端金で雇われるような使い手なら尚更です」
「取り敢えずの初期メンバーとしか伺っていないので……」

幼女の持っていた書類をひったくり、その名簿を見ると、梨花さんの名前や、以前神擬きに掴まっていた幾人かの名前まで入っていた。

「問題しかありませんね」
「何がですか?」
「この中の幾人かは呪具や霊具を使うのですが、それ、下手しなくても億単位の値段のものです。術者が死亡した場合の取り扱いなどを話し合わないと問題になりますね」
「死亡ですか?」
「呪具であれば、使用者が抑え亡くなった瞬間、物によっては半径数百メートルの人間を死なせるようなものもあります。まあ、ここに名前が載っている人のは幾人かのは問題ありませんが、入職時に軽く聞くべきでしょう。ま、無理でしょうけどね」
「え?」
「飯のタネを他人に教えるわけがありませんから。用いる手段が暴露すれば、それが命取りになるかもしれない。そう言うことです。それだったら在野の術師候補生を育てて術師にした方がましです。そもそも、その組織公表できないでしょう?お金はどこから来てるんです?」
「防衛費として各所に分配したものを少しずつちょろまかして集めています。あと、不正献金とか賄賂とかを表沙汰にしない代わりに徴収してそれを充てる予定です」
「まあ、いいんですけど、僕出勤しませんよ?進学する予定ですし」

そう。僕は一応進学するつもりなのだ。

その為に教頭先生と交渉したのだ。

「大丈夫です。進学先の学校には既に交渉し、基本的に公欠となる様に指示を出しました。日付をずらして試験だけ受けていただければどのように低い点数でもどうにかするとのことです。所属しないとなると、その不正について追及しなければならなくなりますが……」
「ほう、僕と国で戦争を始めたいので?」
「勝てるおつもりですか?」
「この幼女は冗談が上手いようですね。この僕に国が勝てるとでも?国内が地獄絵図になりますよ?」
「子供一人に何が出来ると……」
「さあ。何が出来るのでしょうね?」

僕ははぐらかしながら、この幼女に、【1時間に1度おもらしする】呪いをかけた。

「ヴッ?何か寒気を感じたような……」
「気のせいですよ?あ、おむつでも取り寄せましょうか?」
「し、失礼ですよ!」
「でもほら……」

僕は幼女の股間を指差す。そこは薄黄色に濡れていた。

「ふぇっ!?な、なんで!?み、見ないでくだちゃい!」
「緊張しちゃったのかなぁ。自分で片付けてね?」

僕はそれを放置して、昼食の仕込みを開始する。ピーマンやグリンピースをふんだんに使った料理だ。

1時間ほど放置していれば、幼女は持参したタオルで拭き終ったようであるが、部屋の隅で膝を抱えていた。

「利尿剤でも盛ったんですか?」
「そんなものを盛らなくても幼女のおもらしなんて日常茶飯事ですよ?あ、そろそろ、1時間経過しますね」
「ふぇ?」

そして再び、幼女の秘裂からそれが漏れ出す。幼女は「なんで、なんでよぉ~」と泣いていた。泣きながらタオルを動かして拭いている。

滑稽なり。

「ピーマンや野菜たっぷりの昼食を食べて行きますか?」
「いじめですか?いじめなんですよね!?」

幼女はそう言うと逃げ帰って行った。
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