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1章

3話

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季節はあれから少しばかり経過し、僕は立派な霊能力者になった。呪具使いでもある。鍛錬中だがそれなりの使い手になったはずだ。

世界には霊能力者以外に、純粋な超能力者や、魔術師、魔法使い、気を使う者、その他もろもろまでいるらしい。正直、意味が分からない。

身に着けようと思えば理論上、俺でも可能らしいが、まともにやろうとすれば霊力プラス1くらいなものだろう。

まあ、僕の霊力の量は一般人と比較してみたところ、現状4倍くらいだ。窓から街並みを見ていると偶に一般人の数十~数百倍の霊力量を誇る化け物を見かけて、腰を抜かしたのはいい思い出だ。

11月。木枯らしが吹き、辺りの木の葉はおよそ枯れ落ちてしまった。

あれから食料調達以外で家から出ることはなかった。

生物学上の両親は本当に僕から興味が無くなったらしく、あれから帰って来すらしていない。

ああ、それと守護霊の話。その人につきそうなものを叩き落としたり、剥がしたり、退けたりしてくれる霊力と残留思念の塊のようなものがそれにあたるのだけれど、僕についていたのは只の子猫の守護霊だった。

何年か前に箱に入れて捨てられていた黒い子猫を発見したが、時すでに遅く、それを埋めてあげたのだ。その守護霊を見て思い出したほどに遠い過去のこと。

それで律義に僕を守ってくれるとは、なかなか思うところがある。

守護霊に霊力を譲渡する方法があるのだが、お礼と言っては何だが、自然回復可能な範囲で少しばかり強化しておいた。

時刻は夜の11時を過ぎ、僕は霊力を纏って家を出た。左手には刀袋に入れた“躯晒し”も持っている。明かりはキャンプ用の広い範囲を照らせる物。

この辺りは街灯があるので、まだつけてはいない。

少し距離を歩く。夜の道を中学生の僕が出歩くのは少し背徳感があって好きだ。

霊術の応用で認識阻害に近い呪いのような、祝福のような物をかけているので僕はその辺りの木のような扱いだ。

どんどんと明かりの少ない方向に足を進める。

「まだ11月になったばかりなのに冷えるなぁ」

それは山の裾野にあった。

捌楼閣はちろうかくの店で情報を買ったが、そこは90年代末までは運営されていた病院で、それ以降は周囲の悪霊などが集まる様に霊的に加工された元病院らしい。

実際、ここに至るための凸凹な道でもよく分からない虫のような悪霊が僕に襲い掛かろうとして、それを自身の霊力で退けたり、“躯晒し”で切ってみたり、そのような方法で対処してみた。

実際にこの目で見ると、黒い靄が、病院の建物がある方向に流れているのが分かる。

道のわきにある古びた地蔵が、弁のような結界の役割を果たしているのが今の僕にはわかった。

足元の状態を見るに定期的に人の足が入っているようで、最近も車が通っているのが落ち葉の踏まれた道の状態で分かる。

そこから3分歩けば、病院の入口についた。およそ20数年前に閉ざされた病院は、すっかり、寂れ、外壁にも落書きや、そこら中の窓ガラスが割られ、それをトタンやベニヤ板で塞いでいるのが分かる。

霊感で見ても、とても悍ましい場所に見えた。

板と板の隙間から誰かが侵入した形跡があり、その場所を僕も使わせてもらう。

内部には明らかに他者を害する悪霊の類しかいなかった。

本によると、襲い掛かってくる者以外は無視し、奥に進むが吉とされていた。僕は本当にやばそうな方向に向かう。

悪霊たちは1つの建物に閉じ込められて共喰いを繰り返している。

共喰いを繰り返すことで悪霊は混ざり合い、力を強めて行く。

「な、なんだよこれ」

僕が地下室のある階段に近付くと、肌を刺すような悍ましさが強烈になった。

地下のフロアの廊下に立つと、異様なゴミに混じって血管のような蛇のような、ミミズのような、とにかく長くてニョロニョロしたものが四面蠢いている。犇めく赤黒い廊下とでも言おうか。

それはうねうねしており、グニャグニャしていた。

「物質化した悪霊の一部か能力の一部?幻覚ってことはない?」

僕はそう一人で解釈しながら、“躯晒し”をその壁に挿してみる。

すると、たちまち、その一帯のその形容しがたい何かがしおれて行く。

物質化しているのは間違いなさそうだ。

“躯晒し”は斬った対象の水分を急速に蒸発させる能力がある。つまり、そう言うことだろう。

僕は壁も天井も床も何度も斬り裂いて、斬り裂いて、斬り裂いた。そのまま奥の手術室と書かれた部屋に入る。扉は空いていた。

「苔玉?」

その中央にはジブリの王子様が殺した神様から摘出された例の球を巨大化させたような化け物が、部屋中に血管を張り、繭のように空中に鎮座していた

これが孵化したら大変なことになると僕の勘が告げている。

それと同時に、今これに攻撃しても僕が大変なことになると理解できる。

仕方なく、初めての霊能力に描かれていた自作の封印札を室内と室外に張り巡らせ、力の漏洩と外からエサとなる悪霊の流入を絞ることで精一杯だった。

地下を出ると悪霊たちが早速共喰いを開始していた。

漁夫の利の如く、僕はそれらを横から殲滅する。

自分の霊力が上昇するのが分かる。この“躯晒し”のこぼした霊力のおこぼれにあずかっているのだ。

このままでは“躯晒し”と僕の実力差が開いてしまい、僕が使えなくなってしまうかもしれない。

それ故に、“躯晒し”が霊力を吸収する寸前でより多くの霊力を掠め取る様に意識してみる。

自分以外の霊力を操るのは難しい。だが、誰の制御下にも置かれていない霊力であれば比較的容易であることを発見した。

そこで、この廃病院で狩りを続けるうちに、夜明け前には“躯晒し”が吸収するのと僕が吸収する霊力の割合を5:5くらいにまで調整が可能になった。

とても難しかったが、意地でどうにかした。結果として、廃病院の地上1階から地上3階までの目につく悪霊は全て抹殺が完了した。

霊力も、ここに来た時の6倍から7倍の間にまでなった。

戦利品も沢山だ。ナイフ類や銃の類、鈍器類に血管や髪などもある。これらはすべて霊力や呪いが宿っている一品だ。

地下から捌楼閣はちろうかくの店に鈴で入店してそれらを売却すると、2450万円になった。そのまま、呪い関係などの本を購入し、70万円の浪費。

そのまま家の前に出してもらい、部屋に戻って就寝するのだった。
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