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1章

2話

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教頭先生が去った翌日、僕は医者が驚愕するような速さで回復した。吐き出した歯も何とかなった。

血眼になった医師たちによって検査された。僕は異常なしと判断されたのち、漸くと言った感じで解放されて病院を出た。

病院を出てからおかしなものが見えるようになった。

視界が2重になるというか、明るい普通の世界と、暗くよどんだ世界に重なって見えた。

病院の中は淀み過ぎていてよくわからなかった。

先生たちは目の検査も一応していたが異常はないと言っていたので、僕の錯覚か精神的な何かが見せる幻覚とも思えた。

しかし、手で肩を気にしているサラリーマンの肩に大きな気持ち悪い虫みたいなのが乗っかっていたり、背中に3人以上の女性を乗せている男がいたり、本当によく分からない。

僕は左手にアタッシュケース、右手に不要なものを棄てて最低限の物だけになった鞄を携えて歩いて帰ることにした。

両親は当然迎えに来ない。

先程調べたところ、歩いてここから家まで40分ほどらしい。

荷物をそれなりに持っているので1時間近く掛かるかもしれない。

1億円はおよそ10キロほどであり、重かった。

僕は平日の昼間という非日常を楽しみながら普段通ることのない家路を辿ることとなった。

アスファルトで舗装された道路に、イチョウの街路樹が黄色い絨毯を敷く。

川沿いの舗装された道を歩いていると、気付けば辺りは真っ暗で、小屋の前にいるようだった。

一本のガス灯のような古びた明かりがか細くそれを照らしている。

昭和モダンなドアを開けて中に入ると、内部もまた怪しい光に満たされていた。しかし、物もなく、あっさりとした室内。

この空間が酷くあやふやなのが感覚的に分かる。

「おや、いらっしゃい」

中には1つだけカウンターがあり、そこに向かう形で30代半ばと思われる男性が座っていた。あまり見なくなった袴を着た和服の男性だ。

その奥には別室に繋がるであろう入口があり、暖簾によって隠されている。

「すみません。勝手に入って。……ここは?」
「君はここに来るのは初めてのようだね。でも才能はあるようだ。ここは、まあ、霊力とか呪力とか、そういったモノが籠ったモノを売買する店さ。君も見えるんだろう?」

一瞬何のことか分からなかったが、この重なるような黒い世界のことなのだろう。

「はい。多分、今日からですけど……」
「それは目出度い。この店は捌楼閣はちろうかくの店とでも呼んでくれ。私は捌楼閣 達磨はちろうかく だるまという。よろしく」
真田 健太さなだ けんたです。こちらこそ、よろしくお願いします」

珍しい苗字だ。少なくとも僕は聞いたことがない。

「真田君はお客様と言うことでいいのかな?」
「は、はい。一応お金もそれなりに……」
「じゃあ、君にお勧めできるのは……少し待っていてくれ」

捌楼閣 達磨はちろうかく だるまを名乗る男は考えるそぶりをすると、そのまま奥の方に商品を探しに行ってしまった。

すると、1本の明らかにやばい刀と鈴、本を3冊ほど持って、それをカウンターに置いた。

「これらは?」
「君に必要そうな道具一式。呪具の“躯晒し”。この店に入るために必要な鈴、“初めての霊能力”って題名の本1巻から3巻。〆て5630万円の所を仕入価の3941万円でいいよ」
「ね、結構なお値段しますね」
「あ、払えるんだ!」
「まあ、はい。それよりも説明して欲しいんですけど……」

呪具の“躯晒し”は打刀の形状だった。

「その“躯晒し”は元々、老いても人を切り続けた執念が呪いとなって呪具化したものでね、使用者を回復して、その身体能力を使用時に強化する。霊体を切ることでその霊力等を吸収することができる。斬った対象の水分が急速に蒸発する。吸収した霊力で自己修復と自己強化が可能……、くらいかな。使い続ければ、前の使用者の体の使い方とかを模倣できるかも」

おまけに刀袋もつけてくれるらしい。

「下手に触って呪われませんか?」

明らかに触ってはいけない見た目だ。どす黒い何かが蠢いているし、何かが拉げた声で呻いているような幻聴も聞こえる。

「ほら、こうやって、霊力とかで身体を守りながら触れば大丈夫。耐性がなかったり、対策が出来なかったりする人が触ると、目についた人を殺しつくして、その翌日には体中の水分が抜けた干物になって発見されるかな」
「思いっきり妖刀じゃないですか!?っていうか、僕、霊力操れないんですけど!?」
「試しにやってごらんて」

僕は試しに、自分の中にあるもやもやを視認して引っ張り、ものの数分で操ることに成功した。でも、まだまだ、自由にとは口が裂けても言えない。

「おお、出来るじゃないか」
「は、はい。出来ましたね」
「で、この3冊の本が、先程の霊力の扱い方の基本から簡単な応用が書かれた本。感覚的なものだからあまり期待しないでね」
「は、はあ、それで、その鈴は?」
「暗闇で霊力などを流して鳴らすと、この店に入店できる鈴。紛れ込む以外で確実に入って来る唯一の手段かな」

因みにこれが、本来は100万円らしい。

なお、刀とかも本来は天井知らずの価格なのだとか。

その後、善意で簡単な調査をされ、現在の僕が動体視力や、精神力、胆力、自然治癒力等を踏まえ、その他基礎能力が上昇し、ある固有能力を手に入れていることが分かった。

僕の怪我があっという間に治ったのも頷ける。

「その打刀を使っていれば、その内、保有できる霊力も比じゃないくらいに増えそうだね」
「そ、そうですか。どういった理屈で?」
「霊力を吸収する性質で吸収しきれなかった霊力を一番近くにいる君が回収して、霊力の器を拡張することになる。はず?あ、支払いは?」
「現金で……」

僕はアタッシュケースから現金を出して購入した。中学生がそんな現金を持っていることにも驚かれたけれど、ニコニコ現金払いは受けが良かった。

その他必要なモノがあれば、あるかどうかわからないが店に来て訪ねてみることを勧められた。

恐らく、想像もつかないとんでもない物も打っているのだろう。

店の戸を開け、真っ暗闇名外に出ると、そこは僕の家の前だった。御親切に送ってくれたらしい。

僕は明かりがついておらず、誰もいない家に鍵を開けて入る。

秘密保持のために追加で払ったのが3000万円。貰った1億円の内、残金は3千59万円だ。

自室に入り、クローゼットにアタッシュケースなどを収納すると、僕は貰った教本に目を通した。

普通の目には何も書いてない白紙の本に見えるらしいけれど、僕の目にはしっかりと文字などが書かれている本だった。

霊力の操作方法とか、霊力を使った除霊に、霊視のコントロール、霊力を用いた生命力の活性化や霊力の譲渡に回復方法。鍛錬の方法も載っていた。

見えない人を一時的に見えるようにしたり、悪霊を一時的に封印したりする方法や、そういったモノから身を守り、払う方法までより取り見取りだった。

応用編には人を呪ったり、呪いを解いたりといった後ろ暗いことも書いてあり、その後1っカ月間は修行のために引きこもった。

僕が突然霊能力を身に付けられた原因は何かしらの霊障によるもので、才能が開花したのであろうと当たりを付けることも出来た。

あの店に薦められて、どうでもいい情報だったが有難いことだった。
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