上 下
130 / 147
2章

24 人の世に外れた物 2

しおりを挟む
 レジスタンス【リバーサル】部隊長のミシェル。彼女の率いる先導隊は、崖沿いの道で突然爆発に襲われた。崖とは反対側の道沿いで、いくつもの爆発が起こったのである。
「敵襲だ! 落ち着け、わかっていた事だ! 態勢を整えろ!」
 実際、事前に警告はされていたのだ。先導隊は素早く陣形を組み、崖を背に爆発へ向かって攻撃態勢をとった。

 だがそれは間違いだった。のである。
 いきなり頭上から射撃を食らわす魔王軍残党。先導隊は慌てて攻撃目標を変える。
(しまった! 罠との二段構えだったか)
 焦るミシェル。
 爆発で混乱した所を撃たれるよりはマシだったが、先制攻撃を許してしまったのは痛手だ。戦いは明らかに不利な状況から始まった。


 一方、後ろを守っていたグスタの部隊も敵襲を受けていた。
 こちらは単純に後ろから敵軍が追いかける形である。前衛を混乱しておいて挟み撃ちにする段取りだったのだが……
「前は前に任せろ! こっちは奴らを迎え撃つ!」
 警告されていた事と、これまで踏んだ場数もあり、グスタは全く動揺せずに迎撃を指示した。


 前でも後ろでも戦闘が始まり、ガイ達はゾウムシ型運搬機で様子をうかが
う。
「言っていいのかどうか迷うが……【リバーサル】がいたおかげで、前後の罠を両方引き受けてもらえたのではないか?」
「あー……結果的に私達は助かっているな」
 言い難そうに切り出したレレンに、戸惑いながらも同意するユーガン。
 タリンがなぜか嬉しそうに叫んだ。
「よーし! こいつらを放っておいて前進だ! 大将首はオレらのもんだぜえ!」

「一応、確認しましょう」
 そう言ってスティーナは通信機の音量を上げる。
『前の事は気にするな! まず自分達の相手を倒しきれ!』
 グスタは戦闘に集中しているようだった。

 忙しいグスタの様子にスティーナが溜息一つ。
「こっちに指示は来そうにありませんね」
「罠や待ち伏せがあった以上、敵の拠点がこの先にあるのはほぼ確実と見たが……」
 ユーガンが前方を睨んで呟く。
 そんな二人の言い分を聞き、タリンが意気揚々と大声をあげた。
「よっしゃあ! 強行突破じゃあ!」
「いっちゃえー!」
 ガイの肩でイムまでが握り拳を振り上げる。

「仕方ありませんね。では……」
 淡々とそう呟くと、スティーナはゾウムシ型運搬機を全力で走らせた!
 崖の上と下からの激しい撃ちあいの中へ躊躇ためらう事なく頭から突撃!
「ちょ、ちょっと待て!」
 レレンは怒鳴り、慌てて格納庫へ走る。
 彼女が操縦席から消えた途端、矢と砲弾の雨が周囲に着弾して運搬機が激しく揺さぶられた。

 爆煙にまみれる中、運搬機のハッチが開きSレディバグが姿を現した。それは運搬機の背に上がり、飛んでくる弾丸を代わりに食らって防ぐ。
 だがレディバグの装甲は敵量産機の攻撃などではビクともしない。
「ブレイズプラズマーー!!」
 レレンの反撃が炸裂し、崖の上へ幾条もの熱線が放たれた。高低差で優位に立っていた筈の魔王軍残党の量産機が何体か、それを食らって炎に包まれる!
『い、いまだ! 徹底的に撃ち返せ!』
 ミシェルの命令が飛び、崖の上と下での撃ち合いは激しさを増した。

 もちろん運搬機はそんな事にかまわず戦場を突っ切る。
 泥沼のごとく続く射撃合戦を尻目に走り去り、単機で山間の道を駆け抜けた。
(本当にいいのか、これ……)
 ガイはそう思ったが、もちろん運搬機は止まらないのだ。


――ひときわ高い岩山――


 この地域で最も高く大きな岩山のふもとまで来たガイ達。
 それを睨みながらユーガンが呟く。
「おそらくあの山だろうな、ラヴァフロウの本体がいるのは」

 それが合図だったかのように、周囲の岩陰から姿を現す機体が多数!
「お、魔王軍の残党どもか。今さらオレらを止められるわけじゃあるめぇに」
 タリンがニヤリと笑った。
 すると地響きをたて、山の裏側から回り込むかのように改造古竜ジュエラドンが姿を見せる。それも3体も、だ!
「向こうもそう思っていたようだな……」
 レレンが顔をしかめた。

 そこで通信が入る。
『『もう我々の居場所をつきとめたのですか、マスターボウガス殿』』
 一同が聞いた事のある声……それはホン侯爵領にあった魔物村の、ダブルヘッドオーガーの村長。
 相手から映像も送られてきた。ケイオス・ウォリアーの操縦席が映り、そこに村長の凶悪な顔があった。
 どの機体かはわからないが、間違いなく敵側にいるのだ。

「村長か。逃げるなら今のうちだ。エイシンだけではこれ以上太刀打ちできまい」
 ユーガンが忠告すると、村長は「ケッ!」と毒づく。
『『ええ、ええ、あんたやマスターキメラが恥知らずにも裏切ってそちらにいますしな。しかしどうにもならんとは決めつけが過ぎますぞ、この若造が』』
 村長の言葉に応えるかのように、ジュエラドンどもが咆哮した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...