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2章

16 魔獣咆哮 6

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――ミズスマシ型の運搬機・操縦席――


 助手席に座るレレンはモニターを見ていた。
 そこにはガイの乗機パンドラアーミーが映り、ステータスも表示されている。


パンドラキマイラ
ファイティングアビリティ:120
ウェポンズアビリティ:120
スピードアビリティ:140
パワーアビリティ:140
アーマードアビリティ:140


「何度見ても不思議な変形だな。でもこのステータス……改造前より攻撃力が下がり過ぎているような? アビリティの合計もパワーアップしてやっと互角に見えるが」
 確かに、数値的には弱体化しているように見える。
 だがスティーナはそれを承知と頷いた。
「ええ。攻撃特化していた能力を、防御性能へ大きく寄せました」
 そして確信を持って告げる。
「そして新機能にも費やしましたので。以前より確実に強いです」


――山裾。怪獣と対峙する四機の人造巨人兵――


 パンドラキマイラの操縦席で。
「さあ行くぜ。これが初お披露目だ」
 そう言うとガイは聖剣を手元に差し込む。その木刀を入れるための穴に。
 最奥まで差し込むと、低く重い駆動音ととに機体の関節部から一瞬光が漏れた。
 そしてガイは、腰の鞄から珠紋石じゅもんせきを二つ取り出すと聖剣に嵌め込む。
『アイスボール。マジックスクリーン』
 聖剣が読み込むと、二つの呪文名が映し出された。

 パンドラキマイラの胸にある獅子の顔が口を開ける。
 そこに凍気が煌めくと、荒れ狂う吹雪が吐き出された。
 それは怪獣・ジュエラドンに炸裂し、結晶状の鱗を凍結させる!

 だが敵は苦悶の声をあげるや、破壊光線を口から吐いた。
 光線がガイ機の肩を焼く!

 だがしかし。
 その光線は装甲の表面で弾かれ、半分ほどは宙に散った。
 損傷を受けないでは無かったが、それも徐々に修復していく……!


――ミズスマシ型の運搬機・操縦席――


「呪文を発動!? それに再生能力?……聖剣の力を発揮しているのか!」
 驚くレレンに、スティーナは落ち着いて頷いた。
「ええ。不死型機のSバスタードスカルとは相性が悪く自滅しましたが、なら別属性の機体なら有効なのでは……と考えて。猛獣型機のSサバイブキマイラには、聖剣の力を受けるため専用の機構を搭載しました」

 さらりと言っているが、そんな機能は一般的ではない。
 だが魔法の武具が存在するこの世界において、研究している者が皆無というわけでもない。そして実用化に漕ぎつけた者も僅かながらいる。
 その一人がスティーナなのだ。

 そしてレレンは見た。
 ガイ機のステータスが変化しているのを。


ウェポンズアビリティ:120+20

アーマードアビリティ:140+20


「なんか補正入ってる!?」
「聖剣が発動した呪文の効果を数値的に反映しますので、アビリティレベルは呪文を読み込む度に変化します。この機能を搭載するため高熱発生に使う能力を全部費やしましたが、それでも足りずに全体的な性能まで割を食いましたよ」
 驚愕するレレンに淡々と説明するスティーナ。
「けれど珠紋石じゅもんせきを豊富に用意できる師匠なら、この【能力変換オムニフレックス】機能は削ったパワーを補って余りあります」


――山裾。怪獣と対峙する四機の人造巨人兵――


「今から大きな一発を叩き込む。続く準備をしてくれ!」
 味方の三機にそう叫び、ガイは腰の鞄から次の珠紋石じゅもんせきを取り出した。
 レバーと化した聖剣にそれらを嵌めこむ。大気と水、二種の結晶を。
 聖剣が呪文を読み込む。
『サンダークラウド。ブリザード』

【サンダークラウド】大気領域6レベルの攻撃呪文。雷雲が頭上に生じ、そこからの落雷が範囲内の敵を一掃する。
【ブリザード】水領域6レベルの攻撃呪文。凍気の嵐で範囲内を冷却・粉砕する。

 キマイラが長剣を構えた。その刃に凍気と電撃が纏わりつく。
 ガイが放つ時と全く同じ動きで、パンドラキマイラが怪獣へ走った。
 怪獣が破壊光線を吐くが、その運動性で直撃を避け、当たった箇所が焼かれても装甲で耐えて前進し――
 間合いに入るや、キマイラはガイと同じ動きで跳ぶ。
「雷雲吹雪・一文字斬りぃ!!」
 剣が一閃し、怪獣へ炸裂した!

 刃が当たった瞬間、凍気が吹き荒れて敵の全身を凍てつかせた。
 氷片を砕きながら刃が食い込むや、幾条もの電撃が凍結した敵の体を駆け巡った。
 ただでさえ強大な電力が、氷結する事で伝導率の跳ね上がった敵の内部を隅々まで伝わり破壊する!
 宝石のような鱗が砕けて飛び散る中、敵の身を切り裂いた刃が振り抜かれ、怪獣は苦悶の咆哮をあげた。


――ミズスマシ型の運搬機・操縦席――


 呆気にとられるレレン。
 モニターに映る数値はまたも変化していた。


ファイティングアビリティ:120+40


「実質、低い能力なんて無いじゃないか!?」
 己が乗っていた時より高い近接攻撃力を前に思わず叫ぶレレン。
 スティーナが頷く。
「そうです。師匠が乗る限りは」
 その大きな瞳が鋭く光った。
「だから基本機能は、様々な手を駆使する間、生き残るための防御性能重視――高運動性と重装甲を両立させました。無数の手札を合わせつつ、それをフルに活かすまで生かす……『サバイブキマイラ』とはその設計思想に基づいた名なのです」


――山裾。悶える怪獣と四機の人造巨人兵――


「撃てい!」
 鍛冶屋のイアンが叫び、他の二機も動く。
 凍った怪獣に砲弾が直撃し、鋭い爪が切り裂いた。
 そして骸骨武者・Sバスタードスカルが剣を振り上げ――

「今度こそ食らいやがれ! デッドリーアサルトタイガーー!!」
 タリンが叫ぶ。紫の虎のオーラを纏った剣が凍った怪獣を直撃した。
 再生能力を遥かに上回る破壊力が敵の体を砕き、生じた亀裂が全身に走る。
『ちゃんと決まれば十分強かろ?』
 シロウの髑髏がガチガチと顎を鳴らした。

 そしてガイ機、パンドラキマイラは。
 次にセットされた珠紋石じゅもんせきを反映し、胸にある獅子の顔が大きく口をあけた。
 その奥で激しい雷光が輝く。
「サンダー・ボルトォ!!」
「がおー!」
 ガイとイムが叫ぶや、獅子が電撃を吐き出し、怪獣を撃ち貫く!

 亀裂がさらに広がり、怪獣の全身が雪崩をうつかのごとく崩壊した。
 崩れ落ち、小山を築く。
 怪獣は文字通り粉砕されたのだ。


――静かになった山裾――


 魔王軍の残党が出て来る気配は無い。
 虎の子の怪獣ジュエラドンが倒され、引き上げたのだろう。

 ガイは操縦席で「ふう」と溜息をつく。
「初陣はなんとか勝ったな」
「やったね!」
 肩でイムが満面の笑みを浮かべ、ガイの頭に抱きついた。
 ガイもくすぐったそうに微笑む。
「おかげさまで」
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