上 下
58 / 147
1章

12 改造と計画と 1

しおりを挟む
 午後の日差しの中、荒野の向こうについにカサカ村が見えた。
 改造ゾウムシの運搬機……その助手席でミオンが嬉しそうに目をこらす。 
「久しぶりの帰宅ね。みんな元気かしら」
「まぁあの村の連中なら、な」
 そう応えるガイの脳裏には村の主だった住人達が浮かぶ。
 長い期間ではないが住んでいた村に、短い期間ではあるが離れていた事で懐かしさを感じるようになっていた。

(俺、あの村を意外と気に入っているのかな)
 ガイがそう思った時。
 村の中で立ち上がる人造の巨人――ケイオス・ウォリアーが見えた。
 だが村の作業で使う量産型機では

「あれは!? 親衛隊の機体!」
 驚くガイ。
 フードとマントを羽織った骸骨のようなその機体は、以前村を襲った魔王軍親衛隊の使っていた物だったのだ。
 部品を使えないかと鹵獲して、村の工場で保管していた操縦者のいない筈の機体。それが動いている!

 しかしすぐに躓いた。
「あ、倒れたわ」
 困惑するミオン。その横でガイも困惑する。
「誰が何をしているんだ……?」


――村の中の工場――


 ケイオス・ウォリアーが気になり、ガイは運搬機を工場に入れた。
 そこには村の主だった者達が集まっており、ガイ達に気付くと駆け寄ってくる。
「ガイ殿!」「師匠!」「お帰りなさい!」
 ガイ達も操縦席から降りた。
「ただいま……それは?」
 ガイは訊く。
 工場の敷地内でうつ伏せに倒れる、魔王軍の白銀級機を眺めながら。

 その機体はもがくように不器用な寝返りをうち、仰向けになると、操縦席のハッチを開けた。
 中から出て来たのは……タリン! その手にはシロウの頭蓋骨が差し込まれた【骸骨の杖】を握っている。
 タリンはガイを見るなり悪態をついた。
「チィ! 帰ったかガイ! だがお前の時代は終わりだ。オレが白銀級機シルバークラスの操縦者になり、この村を支配するからよ!」
『さすが俺』
 その手でシロウの頭蓋骨がガチガチと顎を鳴らす。
 

 ガイは弟子のスティーナから事情を聞いた。
 ガイとの戦いで、死んだパラディンの頭脳を搭載したアイテムをケイオス・ウォリアーに差し込んだタリンは、不完全ながらもパラディンのパワーで機体の能力を起動させる事ができた。
 それを実用化できないか?……と村の捕虜になったタリンがスティーナ達にもちかけ、村の住人で相談して試してみようという事になり、【骸骨の杖】を使ってタリンが白銀級機シルバークラスを動かそうとしていたのである。

「上手くいけば、異界流ケイオスに関する制限をかなり緩和できると思いまして」
 スティーナの説明にガイは難しい顔で唸る。
「だからって聖勇士パラディン不死怪物アンデッドモンスターにして部品に組み込むってのはなぁ……」
 スティーナは頷きはするのだが……
「人類側が使う技術ではありませんね。ただ技術として確立はさせておいて損はないかと」

 その横で村長のコエトールが訴える。
「人口が増えて、いろいろ拡張せねばなりませんからな。配水・排水のための側溝を掘らねばなりません。土木作業に使えるケイオス・ウォリアーが何台用意できるかは重要な問題ですからな」
「うむ。ワシの家に早く厠を設置せねば」
 領主のカーチナガも同意した。

 何を勘違いしたか、タリンが胸をはって勝ち誇る。
「わかったか。今後お前にデカい顔はさせないからよ!」
 しかし鍛冶屋のイアンがその頭を後ろから鷲掴みにした。
「そう言う事は動かせるようになってから言え。な?」
「あ、はい」
 一転、恐縮するタリン。


 こうしてガイは帰還した途端だというのに、ケイオス・ウォリアーに死んだ聖勇士パラディンを直結させる、この世界の道徳的にもちょっと難のある実験に付き合わされる事になった。


――陽が傾いて紅く染まる頃――


 頭を地面にめり込ませた無様な機体を横目にスティーナが呟く。
「やはり規格に無い物を後付けするのは難しいですね。生態部品との接着が上手くいきません」
 その手には今まで施した改造処置と結果を記録した羊皮紙。
 隣でその記録を眺めつつガイは考える。

聖勇士パラディンの脳だか魂だかが籠められてる杖だからって、レバー引っこ抜いて代わりに差し込んでもな。わざと壊して違う部品つっこんでるだけでちゃんとくっ付くわけないし)
 一応、そこらへんの調整を試行錯誤しながらやってはいるのだが、スティーナも言う通りちゃんと接着できる触媒が無い。
 だがガイはふと思い至る。
(壊す……くっ付ける……)
 旅先で外国の元王子、カエル獣人のモードックから貰った缶を鞄から出した。生物にもケイオス・ウォリアーにも使える回復アイテムを。
「こんなもん手に入れたんだけどさ」


 レバーの取り付けに【ガマーオイル】を使い、再起動させてみる。
「これで上手くいくのか?」
「知らねぇよ、ダメモトって奴だ」
 疑わしそうなタリンにそう答え、ガイは機体の操縦席から出た。


 そして白銀級機シルバークラスは……ゆっくりと立ち上がる。
 今までは立つだけで精一杯だったが、今度は一歩踏み出す事ができた。
 さらに一歩。もう一歩。敷地内を歩く白銀級機から、通信機ごしにタリンの声が響く。
「お? おーおー、ちゃんと動くぞ」

「おお! これで土木作業がはかどる!」
 村長、万歳。
「おお! ワシの家に厠ができる!」
 領主、万歳。

『しかしこれ、俺はずっとレバーのままか?』
 シロウの髑髏がレバーの先端で呻いたが、それを全く無視し、スティーナはガイに訊いた。
「師匠、さっきのオイルは残りどれぐらいありますか?」
 親指を立てるガイ。
「缶一つしかない。だけど作り方は教えてもらったぜ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

処理中です...