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1章

4 新生活 1

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――ガイが救った村にて。夜――


「大体、期待した通りね」
 ベッドに腰掛けて屋内を見渡すミオン。
 村長が三人にくれた家は、村の一番端にある一軒家だった。空き家になって久しく、所々に隙間があったが、夜までかかって風が入り込まない程度にガイが修繕した。

「期待って‥‥かなり痛んでボロだけど?」
 ガイは肩にイムを停めながら、ちょっと落ち着かない様子で、室内に運び込んだ荷物を壁際に片付けている。
 ミオンは頷いた。
「ええ。けれど寝泊まりするのに大がかりな修理は要らないわ。もっと肝心なのは、村外れで、他の住人に私達の話を聞かれない事よ」
 ガイの表情が引き締まる。
「ミオンさんは自分が誰かに狙われていると思っているのか?」
 訊かれたミオンも真剣な目つきで答えた。
「そこまではっきりと危惧しているわけじゃないわ。けれど私の身元はまだわからない。貴族で身柄がお金になるなら‥‥余計な事を考える人もいるかもしれない」

「で、離れた所を要求しても怪しまれないための新婚設定というわけか」
 ガイが感心し、イムが合わせて頷いていると、ミオンは一転、いつもの笑顔になった。
「ええ。だからこれからは私の事を『ミオン』と呼び捨てにしてね」
「あ‥‥うん。わかったよ、み‥‥ミオン」
 ちょっと気恥ずかしいガイ。しかしこれも依頼人からの要求と考え、指示に従う。
 するとミオンの笑顔は悪戯っぽくなり、わざとらしく優しくささやいた。
「はい。あ・な・た」

「それで俺を呼ぶの!? 『ガイ』でいいだろ」
 思わず抗議。
 ミオンはどこか余裕のある笑顔で「ふうん?」と呟く。
「それならそれでもいいか。じゃあもう寝ましょうか、ガイ」
 そう言ってベッドに腰掛け、毛布を持ち上げた。

 そしてガイに手招き。
 ここに入れ、という意味なのは明白。

「あ、おやすみ‥‥」
 ガイはミオンに背を向け、自分の荷物から野宿用の毛布を引っ張り出した。

 ミオンは「あら?」と首を傾げる。
「設定を徹底しないの?」
「男にそういう冗談は感心しない!」
 ガイの語尾が少しキツめになっているのは、実は動揺によるものだ。
 にまぁ、と意地悪な笑みになるミオン。
「あら、ガイは本気にしちゃいたい?」
「もう寝るます!」
 変な言葉遣いになりながらガイは己の毛布に入って床に寝転んだ。
 胸元にイムが入り込む。

 ほんの少し、くすくすと笑って‥‥ミオンも一人、眠りについた。


――翌朝――


 ガイ達が居を据える事になったのはカサカという村だ。
 なにせ昨日の今日である。村はまだあちこちが壊されていたし、道行く村人にもケガ人がごろごろいた。
 そんな中、ガイ達は村長に案内されて一人の人物と会っていた。

 禿げ頭の老人である。
 歳をとっているのに筋肉質で、腕も足もまだ太く、胸元にははっきりと筋肉が見てとれた。
 老人は徳利とっくりから酒を直飲みして「ぬふぅ」と唸る。
「あんたが村を救ってくれたのか。礼を言うぞ。不甲斐ないこの老いぼれに代わって、よくぞ助けてくれた」

 彼はイアン=ジャクソン。
 この村の鍛冶屋であり、ケイオス・ウォリアーの整備士であり、操縦担当にして村の守衛である。
 村を襲った魔王軍にも立ち向かったのだが、たった一機ではかなうわけもなく、撃墜されて負傷していた。

 そう、負傷だ。
 彼は今、体の各所を包帯でぐるぐる巻きにされていた。
 今いるのも村の中央にある寺院。ケガ人が多いので緊急の病院として使われている。爺さん以外にも、何人もの重傷者があちこちで寝転んでいるのだ。

「薬がもっとあればいんですけど。司祭様も治癒の呪文を唱えてはお休みになられていますが、一人なのでなかなか追いつきません」
 そう嘆くのは村の尼僧・ディア。
 彼女の後ろでは、御座に横たわって年老いた神官がいびきをかいて眠っていた‥‥MPを回復するために。

 ガイは顎に手を当て考える。
「回復薬の類があればいいんだよな。最安値のポーションでも、数あれば」
「そうですけど、なにせ田舎村の道具屋なのでもう在庫全て買ってしまいました。それでも足りないのです」
 村長のコエトールが涙ながらに言う。

 だがガイは笑みを浮かべた。
「材料を集めて俺が作るよ。その代わり、今後はケイオス・ウォリアーの修理に村の工場を使わせてもらうから」
 そして肩のイムに目をやる。
「すぐに行こうか。頼むぜ」
「了解だよぉ」
 イムは笑顔で大きく頷いた。


――近くの山中――


 イムとともに山の中を歩くガイ。
 安物のポーションなら材料もすぐ見つかるだろう。とりあえず夕方まで見つかるだけ探そう、と思いながら。
 山の中腹まで来た時——イムがふわふわと宙へ飛んだ。

(何かレア素材かな? 強力な素材からなら、安い回復薬を沢山作る事ができる場合もあるぞ)
 ガイは期待しながら後を追う。

 そしてほどなく花畑に出る。
 畑、だ。文字通り、人の手で人工的に整備された畑である。
 そこに紫の花がいくつも咲いているが‥‥栽培が上手く行っていないのか、半分ほどはしおれていた。

(なんでこんな山中に畑? 周りは森で村からは見えないし、人の通る道も無かったけど‥‥)
 戸惑うガイ。
 だが後ろに気配を感じ、慌てて振り向いた。

 両手にナタを握った中年の農民がガイを睨んでいる。
 殺気も露わに呟く男。
「見たな‥‥」



(村の鍛冶屋 イアン=ジャクソン)
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