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1章

2 早くも再会 3

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 タリンは怒りも露わにガイへ詰め寄ってきた。
「てめぇガイ! この嘘つき野郎が!」
「嘘つきって何がだ? つーか助けてやったのに暴言吐かれるのは何でなんだよ!?」
 助けた相手に怒られ、ガイも穏やかではいられない。先日の追放劇もあり、怒りに任せて怒鳴り返す。

「だったら言ってやる! いや、言わせろ! 俺はお前が前々から色々と気に入らなかったんだよ!」
「なんだって?」
 怒るタリンに驚くガイ。
 もしやパーティから追い出す事に賛成したのも、強者への媚びだけではなかったのだろうか?

 タリンは叫んだ。
「まず一つ。こんな破壊力、パーティにいた時は一度も出さなかったよな! さては手を抜いてやがったな!?」
「違うって! 元々高価な珠紋石じゅもんせきを赤字でブチ撒ければできたんだって」
 ガイに言われ、タリンは首を捻る。
「じゃあなんでやらなかった?」
「赤字になるからだって言ってるだろ! 聞けよ!」
 ガイは怒る。タリンの理解力の無さに。

 しかしタリンはまたも叫んだ。
「なんでなるんだ! いつも宝箱はお前が開けてただろ!」
「その後、皆で山分けしてたろ! 宝箱を開けるのは俺しか開錠スキルもってないからだし!」
 ガイに言われ、タリンは首を捻る。
「開錠? 工兵なのにまるで盗賊じゃねぇか」
「工兵の役目は盗賊系だって一度ならず言ったぞ!?」
「いつだよ!」
「仕事請けた後の打合せ会議でだよ!」
 それで思い出してくれる事を、ガイは僅かに期待したのだが。タリンは――
「会議ってのはオレが命令をお前らに出す場だろ。そんな時に言うなよ! 聞いてねーよ」
「聞けよ! お前の会議の定義おかしいぞ!?」
 ガイは怒る。タリンの記憶力の無さに。

 しかしタリンはまたも叫んだ。
「リーダーに意見するのかよ! ダンジョンに入る度にいちいち行き先に口出しするとか、そういう所も気にいらねーんだよ!」
「偵察や探索をした後で危険の少ない方を提案するのは当然だろ!」
 ガイに言われ、タリンは首を捻る。
 なんとタリンはガイが行っていた仕事を全く見ていなかったのだ。

 しかしタリンはまたも叫んだ。
「本当に口だけは回る野郎だな! 戦闘中は弱い敵の足止めしかできねーしよ!」
「強敵を食い止めるのは専業戦士のお前とウスラの仕事だろ!」
 ガイに言われ、タリンは首を捻る。
「でもおかげでオレに敵が流れて来て、ダメージを回復魔法連打で凌ぐハメになってたぞ?」
「俺がいてもなるだろ! お前は低回避紙防御なんだから!」
 ガイに言われ、タリンはますます首を捻る。
「物理火力型なんだからオレは仕方ねぇだろ。とりあえずお前、回復担当のリリに謝っとけ」
「謝るなら世話されてるお前だろ!」

 なお仕方なしと主張するタリンだが、ならば防具は良い物を厳選しているかというと全然そんな事はなかったりする。
 収入から生活費をぬくと、半分は武器に、残り半分は風俗に使っているからだ。

 しかしタリンはまたも叫んだ。
「うるせー! 本当にエラソウな野郎だ! 名前もふざけてるしよ!」
「なんだその言いがかりは!?」
 ガイに言われ、タリンは首を捻――らず増々いきり立った。
「だってお前の本名、ガイガガイガイガガイガガイ=ヤデだろ! どう見ても面白半分でつけられてるだろうが!」
「祖父とか祖母とか先祖とかからちょっとずつ貰う風習だから仕方ねーだろ! 呼ぶのは最初の二、三文字でいいから不便は無いんだよ!」

 なおガイの村のこの名付け方はケイト帝国の「奇習大百科」の常連である。

 納得いかずタリンが叫んだ。
「お前の先祖にはガイとガガが何人いるんだよ! これなら二、三文字でいいだろ! ウスラなんて苗字もないからマジで“ウスラ”だけだぞ!」

「うす」
 ガイとタリンが怒鳴りあう横でウスラが返事をした。
 だがそれを無視してなお怒鳴りあう二人。

「だからって何で俺がそれに合わせるんだよ! 言いがかりつけるために同じ女とデキてる者同士でコンビ打ちしてんなよ!」
「うるせー! 気にいらねーんだよ! 同じ女と‥‥なにィ!?」

 一転、驚愕するとタリンがウスラへ怒鳴る。

「ウスラ! てめー! デカパインのルルーちゃんとデキてやがったのか!」

 デカパインとは風俗店の名で、ルルーはタリンのオキニの嬢だ。
 ウスラは正直に答えた。

「デキてねーっす」
「なんだそうか。ならいいんだ」
 ほっと胸を撫で下ろし、タリンは再びガイに怒鳴った。
「ガイ! てめー! オレの女とウスラは無関係じゃねーか! 口から出まかせいいやがって! 嘘吐きヤローが!」

 だがタリンの肩が背後から鷲掴みにされた。
「ねえ? 本気の女は私だって言ってた筈よね?」
 メイスを手に青筋を浮かべる女神官リリである‥‥!

 振り向けずに無言で滝のような汗を流すタリン。
 それを横目に女魔術師のララが無表情で呟く。
「そのセリフ、ナンパの度に言ってると思うよ。私も言われたし。つかそれ信じる人、いたんだ‥‥」

 血飛沫が舞った!
「嘘吐きヤローがァ!」
 怒声とともにメイスが唸る!

 タリンの絶叫が響く中、ガイは思わず呆れて呟いた。
「リリだってウスラと二股かけてんだろ。人殴る資格あるのかよ」


 ピタリと動きが止まるリリ。
 ウスラは明後日の方を向いて口笛を吹いていた。
 そしてタリンは流血しながら勢いよく立ち上がる。
「おいィ!? 本気のオトコはオレだって言ってた筈じゃねーかよ?」


 世にも醜い争いがギャーギャーとやかましく繰り広げられる。
 それを他所に、ガイは地面を見つめていた。
(俺は‥‥丸二年もこんな奴らを仲間だと信じていたのか‥‥)
 虚しかった。全てが空虚だった。一番馬鹿なのは己かもしれない、とさえ思った。

 そんなガイの懐から、ひょいとイムが顔を出す。
 ガイを見上げると、沈む表情をちょっとの間眺めて――にこっと笑顔で、ガイの頬を優しく撫でた。
 そして一言。
「元気、出そ?」

 ガイの表情は浮かないけれど、それでも微かに笑顔が戻る。
「そうだな。行こうか」
 ガイは歩き出した。山を下りる道を。

 後ろでは見苦しいエゴがぶつかっていたが、もう一度たりとて振り向かなかった。
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