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1章

1 リスタート 3

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 その日。町に帰ったガイは拾ってきた妖精にいろいろと訊いてみた。
「喋る事はできるかい?」
「うん」
 にこやかに頷く妖精。
 ガイが買った人形用のドレスがよく似合う。
「名前は?」
「イム」
「そうか。俺はガイ。イムはどこから来たんだ?」
 名前は即答してくれたのでこれにも答えてくれるかと思ったが‥‥

「?」
 イムは首を傾げるばかり。どうもわかっていないようだ。

 仕方なくガイはイムが入っていた実へ視線を移す。
 これも拾ってきてあり、今は食事用の小さいテーブルに置いていた。
(卵、だったのか? この実は)
 二つに裂いた実はイムが入っていた空間がほとんどで果肉は少ない。
 ガイにはアイテムを鑑定するスキルもあるが、知識の中にこんな物は無い。

 仕方なくガイは背負い袋から片メガネを一つ取り出した。
 これは一種の鑑定アイテムである——道具や素材としての効果しかわからないし、消耗品なので、滅多な事では使わないのだが。

 片メガネで実を眺めると、ガイの頭にアイテムから情報が送られる。それを羊皮紙に書き留めるのだが――
(えっ? この素材で作れる物って‥‥え!?)

 記録し終えてから、ガイは改めてイムをまじまじと見つめた。
 とても信じられないという表情で。
 イムは笑顔ながらも「?」と小首を傾げていた。


――翌日、昨日と同じ山中――


 ガイは昨日のクレーターまで真っすぐ戻って来た。腕組みしてここからどうした物か考える。
 と、イムがふわりと宙に舞い、ガイを手招きする。
「案内してくれるのか? イム」
 訊いてみると彼女は自信ありげに頷いた。
「よし、頼んでみるか」
 ガイはイムの後に続く。

 ここに戻ったのはイムに関する手がかりを求めて、だ。
 すると本人が案内をするという。これは渡りに船だと思った。が‥‥


――数刻後、山中――


 残念ながら、手がかりなど何一つ無かった。
 しかしガイは呆然と呟く。
「マジかよ‥‥」

 手元には昨日をさらに上回るレア素材の小山。火・水・大気・地・心・魔‥‥魔術の各領域に関わる草木や鉱物、さらにそれらのレベルを上増しするための追加素材。中級以上のダンジョンを探索してやっと極僅か手に入るだろうものが、特に危険な魔物に遭遇する事もなく拾う事ができた。
 もはやこれだけで一財産‥‥道具屋で売れば当分食っていけるし、他の素材を買い足せば3レベル以上の【珠紋石じゅもんせき】を何個も造る事ができる。
 ダンジョンで危険な戦いをせずにこれだけの質と量が集まった事を、目の当たりにしながら信じられない気分だ。

 全て、イムが案内してくれた所に有った。彼女はこの山のどこに何が隠されているか、全て知っているかのようだった。
「いや、本当に何者なんだ?」
 呆れ半分で訊くガイに、イムはにこにこしながら「?」と小首を傾げるのみ。
「凄い収穫だし、お礼は言わせてもらうよ。ありがとうな。町で奮発していい物食うか」
 ガイが言うと、イムは両手をバンザイして喜んだ。


――その夜、宿――


 様々な果物やそれで作ったスイーツを満喫し、イムは膨れたお腹を抱えてタオルの布団ですやすや眠る。食事用机の上で、実に幸せな笑顔で。

 それを横目に、ガイは一人考えていた。

 イムの正体について、収穫は無かった。
 貴重な素材は使い難い物を多少売ったものの、大半は手元に残した。

 そして‥‥掌には、イムの入っていた実で造ったアイテム。虹色の飴玉が一つ。造ったガイにはその効果ももちろんわかっている。
 これは能力値をアップさせるスペシャルパワーを秘めているのだ。

 力、知恵、敏捷性‥‥特定の能力値を上げるアイテムはこの世界にも存在する。
 だがこの飴玉で上がるのは‥‥異界流ケイオスなのだ。
異界流ケイオスレベルを上げる飴玉、だと? そんな物があるなんて‥‥)
 ガイは聞いた事も無かった。

 異界流ケイオスのレベルが上がるという事は、全ての能力値が上がる事とほぼ同じ。またケイオス・ウォリアーの上級武装には一定レベル以上の異界流ケイオスを必要とする物もある。

 異界流ケイオスレベルの高さは、この世界で真の強者となりたければ必須といえるのだが‥‥上昇するのは聖勇士パラディンがレベルを上げ、己の能力を引き出した時のみ。それも転移者達の大半は3から5程度で限界、7まで上がれば稀なエリート、8に達した者等は最強クラスだと認められ‥‥最高の「9」に至る者の数は、どの時代でも世界中探して片手の指が余る程度に希少。
 この世界の住人などは生まれた時は大概0、半数ほどは上がるが1止まりだ。

 それを底上げする品など聞いた事も無い。神の力や失われた秘術で勇者のそれが上がったという伝説がたまにあるぐらいだ。

 ガイは飴玉を見つめる。
(売ればどれだけの金になる? いや、これを渡せば領主や聖勇士パラディンに俺を売り込む事は確実にできる。けど‥‥)
 ガイは領主邸にいた聖勇士パラディン・シロウと、それから受けた仕打ちを思い出した。

 そして‥‥飴玉を口に放り込んだ。

 しばらく舐めてから、ぼりぼりと一気に噛み砕く。
 飲み込んでから「フッ」と、どこか寂しそうに笑った。
「‥‥甘くて美味しいや」

 自分の「1」しかない異界流ケイオスレベルを「2」に上げるよりも、既に高いレベルの聖勇士パラディンが限界を突破してより強力になるため使う方が、遥かに強くなるだろう。
 絶対に高値がつく。売り付けた方が利口だ。
 けれど、ガイは‥‥バカでもいい、益が薄くてもいい。自分を見下した奴らに渡したくなかったのである。


――二日後――


 ガイはまた同じ山に入った。どうしてもイムに関する手がかりが欲しい。
 なぜ今、この山にはレア素材がこんなに多いのか。なぜそれをイムが簡単に探し出せるのか。ありえない貴重な素材になった実に入っていたのはどうしてか。
(それがわかれば、俺の境遇が一変するかもしれない)
 ガイは今、自分がチャンスを掴んでいる事を確信していた。


 しかし‥‥ガイは木々の向こうに武装した集団を見つける。
 焦りながら急いで身を隠した。ゴブリンやオーク――その集団は魔物だったのだ! その鎧の紋章は‥‥

(魔王軍! マジかよ!)
 ガイの肩でイムが息を飲んだ。



(妖精のイム)
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