上 下
18 / 18
第二章

第8話【挿絵あり】

しおりを挟む
 刃物が私に刺さらなかったと確認するや、ダタライは正面扉を開ける。
 逃げ出そうと足を踏み出した彼は、目の前の光景に気力を失ったのか、あるいは私の麻酔が効いたのか、がくんと崩れ落ちた。

「アンティギア王国騎士団がお前達を捕らえる。これから神の下で罪を暴き、裁きを受けろ」
 白い馬に乗ったルシオが言い、騎士達に捕まえるよう合図した。

 ダタライはもう動かなくなっていて、数人の騎士が彼を担ぎ上げる。
 ふと、ルシオの隣を見るとスタンディ伯爵も捕らえられていて、上手くいったのだと悟った。
 私が囮になっている間、ギル達はスタンディ伯爵の方を叩いていたのだ。

 ルシオに近付き、屋敷内で手に入れた古い羊皮紙を渡す。
「これは?」
「ダタライ密輸団と伯爵のお金の流れが書いてある帳簿です。ちょっとした証拠になると思って回収してきました」
 ルシオはふっと笑って、ありがとうと羊皮紙を受け取る。
「良い証拠になると思うよ」

 ふいに後ろから強く抱き締められる。
「心配しましたよ、君が命を失う事になるんじゃないかって気が気ではありませんでした」
 ギルの手が震えている事に私は気付くと、自分の手を重ねた。
「ごめんなさい。でも、私は死なないから。貴方を看取るまでは」
 笑って言うと、ギルは柘榴色の瞳を揺らしながら微笑んだ。
「いつの間にこんなじゃじゃ馬になってしまったんだろう?」

 呆れるような、感心するようにギルは言う。
 私達のやり取りを傍で見ていたルシオが遠慮がちに声を掛ける。
「君達二人のおかげで助かったよ。俺の首も飛ばずに済む。どんなお礼をすればいいのか……」
「謝礼金は相場の五倍でお願いします、陛下」
 お金にがめついと思われようが、大事だから貰えるものは貰っておこう!

「君は逞しいね。そういう所も私の愛すべき妻の良いところだけど」
 ギルは言うと、私の頬にキスをした。

 ルシオは私達に手を振り、馬を旋回させ、騎士団を引き連れて王都へと戻って行った。

 その後、裁判にかけられ、スタンディ伯爵家は取り壊しのうえ、当主とダタライは処刑される事になった。ベロニカは事件には関わっていなかったが、家が取り壊しになったので修道院に送られる事になった。

 私達はと言うと――。
「急いで! 列車が行ってしまうわ」
 ポウポウと甲高い汽笛の音が響くホームで慌てふためく私。その後ろを走るリヒト。前にはギルは手招きをして、列車に乗っていた。

 今日から私とギルの婚約記念旅行が始まる。自分の父親であるルシオの危機をギルが救ったと知ってから、気持ちに変化があったのだろう、リヒトは私達の婚約を歓迎してくれたのだ。

 結婚式を挙げる前に三人で旅行したいというリヒトの願いを聞き入れ、今日から皆が行ってみたいところを巡って行く旅が始まる。

 無事に列車に乗り込むと、すぐに発車した。発車時刻ギリギリだったらしい。開始早々、スケジュールが乱れるところだった。

 私は指定席に座って談笑していた。ふと、ギルにリヒトに向かって話をする。
「リヒトは弟か妹だとどちらが欲しいですか?」
「気が早すぎない?」
 まだ結婚式も済ませていないというのに、ギルはもう家族計画について話している。
「私は、バーバラに無理をさせない程度に大家族を作りたいと思っていますよ」
 言いながらギルは私にウインクする。何だ、そのウインクは。

 リヒトは口元を押さえながら品よく笑っていた。
「ふふっ、そうだ。僕が司婚者をやるから結婚式の予行練習をしてみましょうよ」
 リヒトの提案にギルは乗り気だ。鞄の中から白い羽織ものを出すと、私の頭に乗せる。
「ウェディングベールのつもり?」
 私はくすくすと笑って言った。ギルもリヒトも楽しそうでそれぞれの役になりきっている。

「新郎ギルバードさん。あなたは新婦バーバラ様を妻とし、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、死が二人を分かつまで命の続く限り、これを愛し、敬い、貞操を守ることを誓いますか?」
 リヒトがギルを真っすぐ見て問いかける。
 ギルは真面目な顔で頷くと、力強く答えた。
「はい、誓います」
「では、新婦バーバラ様。あなたは新郎ギルバードさんを夫とし、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、死が二人を分かつまで命の続く限り、これを愛し、敬い、貞操を守ることを誓いますか?」

 リヒトは私を見る。
「はい、誓います」
「では、誓いのキスを」
 リヒトは微笑んで言う。え、列車の中でキスまでするの!? と慌てる私にギルはウェディングベールの代わりにしていた羽織ものを取る。
 そして、私に微笑みかけながら口づけをした。

 柔らかなギルの唇を感じながら私は心の中で誓う。

 死が私達を分かつまで、私はギルもリヒトも愛し続ける。





 ~あとがき~

 最後までお読みいただきありがとうございました!
 一旦はここで終わりとなります。続きを書くかは未定ですが、少しでもこのお話を楽しんでくださると嬉しいです。励みになりますので感想やいいねなど、良かったらお願いします^^
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈ります

みゅー
恋愛
 私このシーンや会話の内容を知っている。でも何故? と、思い出そうとするが目眩がし気分が悪くなってしまった、そして前世で読んだ小説の世界に転生したと気づく主人公のサファイア。ところが最推しの公爵令息には最愛の女性がいて、自分とは結ばれないと知り……  それでも主人公は健気には推しの幸せを願う。そんな切ない話を書きたくて書きました。 ハッピーエンドです。

失踪した婚約者の連れ子と隠し子を溺愛しています。

木山楽斗
恋愛
男爵令嬢であるエリシアは、親子ほど年が離れたヴォルダー伯爵と婚約することになった。 しかし伯爵は、息子や使用人達からも嫌われているような人物だった。実際にエリシアも彼に嫌悪感を覚えており、彼女はこれからの結婚生活を悲観していた。 だがそんな折、ヴォルダー伯爵が行方不明になった。 彼は日中、忽然と姿を消してしまったのである。 実家の男爵家に居場所がないエリシアは、伯爵が失踪してからも伯爵家で暮らしていた。 幸いにも伯爵家の人々は彼女を受け入れてくれており、伯爵令息アムドラとの関係も良好だった。 そんなエリシアの頭を悩ませていたのは、ヴォルダー伯爵の隠し子の存在である。 彼ととあるメイドとの間に生まれた娘ロナティアは、伯爵家に引き取られていたが、誰にも心を開いていなかったのだ。 エリシアは、彼女をなんとか元気づけたいと思っていた。そうして、エリシアと婚約者の家族との奇妙な生活が始まったのである。

ついうっかり王子様を誉めたら、溺愛されまして

夕立悠理
恋愛
キャロルは八歳を迎えたばかりのおしゃべりな侯爵令嬢。父親からは何もしゃべるなと言われていたのに、はじめてのガーデンパーティで、ついうっかり男の子相手にしゃべってしまう。すると、その男の子は王子様で、なぜか、キャロルを婚約者にしたいと言い出して──。  おしゃべりな侯爵令嬢×心が読める第4王子  設定ゆるゆるのラブコメディです。

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】  

婚約破棄してみたらー婚約者は蓋をあけたらクズだった件

青空一夏
恋愛
アリッサ・エバン公爵令嬢はイザヤ・ワイアット子爵の次男と婚約していた。 最近、隣国で婚約破棄ブームが起こっているから、冗談でイザヤに婚約破棄を申し渡した。 すると、意外なことに、あれもこれもと、婚約者の悪事が公になる。 アリッサは思いがけない展開にショックをうける。 婚約破棄からはじまる、アリッサの恋愛物語。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...