無能な神の寵児

鈴丸ネコ助

文字の大きさ
上 下
29 / 88
異世界放浪篇

第24話 剣聖との仕合

しおりを挟む
「ワシのギルドで騒いでいるのはどこのどいつだ?」
 
その声に傍観していたものたちは震えあがり、無関係なことを雰囲気で醸し出していた。
彼の名はヴァルハザク、冒険者ギルド:アルゴネア支部のギルドマスターであり、現役のハンターでもある。
 
ヴァルハザクは辺りを見回し、現場の惨状にため息をつく。そして、シノアの手に握られた刀を見て片眉を面白そうに吊り上げる。
 
「ほう?ワシの刀を盗みに来たのか?」
 
ヴァルハザクはシノアが男に絡まれ、仕方なく刀を使っていたことをもちろん知っている。知ったうえでわざと言っているのだ。自分の愛刀を使いこなす者と戦うために。
 
「いいえ、違います。そこの人から投げられて…仕方なくですよ」
 
丁寧に否定するシノアだったが、ヴァルハザクの目に宿った炎を見て直感的に刃を交えることになるだろうと察知していた。
 
ヴァルハザクはシノアの周りを見回し、フィリアを見た瞬間なぜか目を見開いた。
だが、すぐに視線をシノアに戻し口元を吊り上げる。
 
「クックックッ…なんと数奇な運命かな。小僧!どうしてもお前と戦いたくなったぞ」
 
そういうと腰にさしていた刀に手を伸ばし、右手を目貫の部分に添え構える。
 
一方シノアはこの世界の人たちはどうしてすぐ喧嘩したがるのだろうか…と悲嘆していた。
 
「む、そうか、その刀では短すぎるな。小僧、その刀に魔力を込めてみろ」
 
一向に構えようとしないシノアに武器が不満なのか、と勝手に自己解釈したヴァルハザクはシノアに指示を出す。
 
「は、はぁ…」
 
しぶしぶといった様子で持っていた刀に魔力を流すシノア。
すると、せいぜい一尺半程度しかなかったシノアの刀がみるみると伸びていき、倍以上の長さとなった。
突然の変化にシノアが目を丸くしていると―
 
「ほう…一発でそれを成し遂げるとは…ますます貴様と戦いたくなったぞ」
 
なぜか感心した様子でヴァルハザクが笑む。
その様子にもう逃げられないと覚悟を決めたシノアは伸びた刀を刃を上に、柄の部分を顔の前に持つという攻撃を受けやすい構えを取る。
 
「行くぞ、小僧!」
  
その言葉と共にヴァルハザクの姿が掻き消える。シノアが狼狽えていると脇腹に認識不能な衝撃が響く。 
  ​
「うっ…グハッ!」 
  
今まで感じたことのない痛みに悶えるシノア。口の中に生臭い鉄の味が広がる。 
  
なんとか痛みを抑え込み、ヴァルハザクの方を見るとシノアは驚きのあまり目を見開いた。 
  
ヴァルハザクはなんと、近場の椅子に座り堂々と酒を飲んでいたのだ。 
  
「休憩は終わったか?」 
  
悪党顔負けの笑みとともに放たれた言葉に思わず歯噛みするシノア。 
  
先ほどの酔っぱらいの男との戦闘で分かる通り、シノアは強い。フィリアにみっちりと剣術と対人戦を教え込まれたことにより、冒険者の中でも上位に入る強さだ。 
それゆえに、自身の努力により培ってきた自信を粉々にされた屈辱は半端なものではないだろう。 
  
シノアとて、勝てるとは思っていなかった。相手は冒険者ギルドの長であり、相当な実力者であることは予想していたのだ。だが、それでもある程度善戦はできるだろう、それこそ剣を弾くぐらいはできるだろうと踏んでいたのだ。 
しかし、結果は残酷だ。善戦どころかまともに相手にされていない。 
  
「ぐっ…!ま、まだだっ!」 
  
悔しさから少々乱暴な攻撃を繰り広げるシノア。 
対してヴァルハザクはまるでそよ風のごとくそれらを捌いていく。それはまるで舞い、洗練された剣捌きは弾く者の体力を最小限に、そして弾かれた者の体力を最大限奪っていく。 
  
距離を置き、片膝を着いて呼吸を整えるシノアにつぶやくようにヴァルハザクが告げた。 
  
「小僧…お前さんの実力は相当だよ。お前さんがさっき戦ってたのはゾイル…別名、鬼斬のゾイルと呼ばれるC-ランクの中でもかなり上のやつだ。そいつを相手にお前さんは完璧に立ち回った」 
  
思わぬ称賛にヴァルハザクを訝しむシノア。 
そんなシノアを無視してヴァルハザクは言葉を続ける。 
  
「だがな…お前さんの剣には迷いがある。人を斬るという覚悟…いや、生物を斬るという覚悟が圧倒的に足りんのだ」 
 
するとヴァルハザクは抜いていた刀を納刀し、シノアに背を向ける。 
 
「恐れるなとは言わん。だが、その恐れをいつまでも放置しておけばいつか大切なものを失うことになるぞ」 
 
それだけ言うと奥へと消えていった。 
 
残されたシノアは自分に足りていなかったものを指摘され歯噛みする。ヴァルハザクが言った“大切なもの”の意味を理解しているが故に。 
 
◇◇◇ 
 
シノアがギルドマスターと刀を交えたその夜、冒険者ギルドはいつにも増して喧騒に満ちていた。 
カウンターで独り酒を呑んでいるのは冒険者ギルドのギルドマスターであるヴァルハザクだ。 
そんな彼に近付く女が一人。 
 
「相変わらず喧嘩癖は治ってないんだね」 
 
フィリアだ。フルーツカクテルを片手にヴァルハザクの隣に腰掛ける。 
 
「試したくなったのですよ。貴女の傍にいるに足る人物がどうかを…」 
「変わってないな~それでどうだったの?シノアは合格?」 
 
歴戦の戦士といった面持ちのヴァルハザクが冒険者にも見えないフィリアに敬語を使っているのは滑稽に思える。 
 
「彼はおそらく召喚者でしょう?召喚されるのは14.5歳であることが多い。鍛錬を始めて1年も経っていないのにあの腕前というのは正直、末恐ろしい。さすが貴女の弟子というだけある」 
「あはは、それ自画自賛してるの?」 
「私は15で貴女の元を去った。当時の私とあの小僧とでは、私の方が分が悪いでしょうな」 
 
2人は自然に会話をしているが内容はかなり矛盾している。 
まず、ヴァルハザクは今年で65だ。50年前にフィリアの元を去ったというと少なくともフィリはヴァルハザクよりも年上でなければならない。 
だがフィリアはどう頑張っても20歳程度にしか見えない。下手をすれば10代でも通る見た目なのだ。 
 
「そうだね、本当にわんぱくだったからね~」 
「貴女が下さった名前のおかげですよ。嘗て龍を打ち破った英雄の名を与えるなど…」 
「うぅ…だから名前のセンスはないって言ったのに…てか!嫌なら変えればいいでしょ!」 
「せっかく貴女からもらった名を簡単に変えられるわけがないでしょう…」 
 
傍から見ればとても砕けた関係であるように見える二人だが、ヴァルハザクに少し緊張の色が見られた。 
 
「…まさか、こんなところで再会できるとは思ってなかったよ」 
 
フィリアが笑みに憂いを含ませ呟く。 
 
「まさか私もこんなところで母とも呼べる貴女と再会できるとは夢にも思っていませんでしたよ」 
「懐かしいね。たしか7歳だったかな?ヴァルを拾ったのは」 
「ええ、その頃でしたな。あの頃の私は何も知らない子供でした」 
「ふふ、なにそれ?なんだかお年寄り臭いよ」 
 
しばらく二人は昔話に花を咲かせ、酒を酌み交わした。 
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】ヒトリぼっちの陰キャなEランク冒険者

コル
ファンタジー
 人間、亜人、獣人、魔物といった様々な種族が生きる大陸『リトーレス』。  中央付近には、この大地を統べる国王デイヴィッド・ルノシラ六世が住む大きくて立派な城がたたずんでいる『ルノシラ王国』があり、王国は城を中心に城下町が広がっている。  その城下町の一角には冒険者ギルドの建物が建っていた。  ある者は名をあげようと、ある者は人助けの為、ある者は宝を求め……様々な想いを胸に冒険者達が日々ギルドを行き交っている。  そんなギルドの建物の一番奥、日が全くあたらず明かりは吊るされた蝋燭の火のみでかなり薄暗く人が寄りつかない席に、笑みを浮かべながらナイフを磨いている1人の女冒険者の姿があった。  彼女の名前はヒトリ、ひとりぼっちで陰キャでEランク冒険者。  ヒトリは目立たず、静かに、ひっそりとした暮らしを望んでいるが、その意思とは裏腹に時折ギルドの受付嬢ツバメが上位ランクの依頼の話を持ってくる。意志の弱いヒトリは毎回押し切られ依頼を承諾する羽目になる……。  ひとりぼっちで陰キャでEランク冒険者の彼女の秘密とは――。       ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さん、「ネオページ」さんとのマルチ投稿です。

隠しスキルを手に入れた俺のうぬ惚れ人生

紅柄ねこ(Bengara Neko)
ファンタジー
【更新をやめております。外部URLの作品3章から読み直していただければ一応完結までお読みいただけます】 https://ncode.syosetu.com/n1436fa/ アウロス暦1280年、この世界は大きな二つの勢力に分かれこの後20年に渡る長き戦の時代へと移っていった リチャード=アウロス国王率いる王国騎士団、周辺の多種族を率いて大帝国を名乗っていた帝国軍 長き戦は、皇帝ジークフリードが崩御されたことにより決着がつき 後に帝国に組していた複数の種族がその種を絶やすことになっていった アウロス暦1400年、長き戦から100年の月日が流れ 世界はサルヴァン=アウロス国王に統治され、魔物達の闊歩するこの世界は複数のダンジョンと冒険者ギルドによって均衡が保たれていた

魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙
ファンタジー
真実を司りし神ウェルスの名のもとに、 魔法公証人が秘められし真実を問う。 舞台は多くのダンジョンを近郊に擁する古都レッジョ。 多くの冒険者を惹きつけるレッジョでは今日も、 冒険者やダンジョンにまつわるトラブルで騒がしい。 魔法公証人ルロイ・フェヘールは、 そんなレッジョで真実を司る神ウェルスの御名の元、 証書と魔法により真実を見極める力「プロバティオ」をもって、 トラブルを抱えた依頼人たちを助けてゆく。 異世界公証人ファンタジー。 基本章ごとの短編集なので、 各章のごとに独立したお話として読めます。 カクヨムにて一度公開した作品ですが、 要所を手直し推敲して再アップしたものを連載しています。 最終話までは既に書いてあるので、 小説の完結は確約できます。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

150年後の敵国に転生した大将軍

mio
ファンタジー
「大将軍は150年後の世界に再び生まれる」から少しタイトルを変更しました。 ツーラルク皇国大将軍『ラルヘ』。 彼は隣国アルフェスラン王国との戦いにおいて、その圧倒的な強さで多くの功績を残した。仲間を失い、部下を失い、家族を失っていくなか、それでも彼は主であり親友である皇帝のために戦い続けた。しかし、最後は皇帝の元を去ったのち、自宅にてその命を落とす。 それから約150年後。彼は何者かの意思により『アラミレーテ』として、自分が攻め入った国の辺境伯次男として新たに生まれ変わった。 『アラミレーテ』として生きていくこととなった彼には『ラルヘ』にあった剣の才は皆無だった。しかし、その代わりに与えられていたのはまた別の才能で……。 他サイトでも公開しています。

異世界酒造生活

悲劇を嫌う魔王
ファンタジー
【アルファポリス ファンタジーランキング 一位獲得(三月二十七日時点)大感謝!!】  幼い頃から、味覚と嗅覚が鋭かった主人公。彼は、料理人を目指して日々精進していたが、成人を機にお酒と出会う。しかし、そのせいで主人公は下戸であることが判明し、自分の欠点にのめり込んでいく。気づけば、酒好きの母に最高のお酒を飲ませたいと、酒蔵に就職していた。  そこでは、持ち前の才能を武器に、ブレンダー室に配属された。しかし、周りから嫉妬された若き主人公は、下戸を理由に不当解雇をされてしまう。全てがご破産になってしまった主人公は、お酒が飲めなくても楽しめるBARを歌舞伎町に出店した。しかし、酒造りに対する思いを断ち切れず、ある日ヤケ酒を起こし、泥酔状態でトラックに撥ねられ死亡する。  未練を残した主人公は、輪廻転生叶わず、浮世の狭間に取り残されるはずだった。そんな彼を哀れに思った酒好きの神様は、主人公に貢物として酒を要求する代わりに、異世界で酒造生活をするチャンスを与えてくれる。  主人公は、その条件を二つ返事で承諾し、異世界転移をする。そこで彼は、持ち前の酒造りの情念を燃やし、その炎に異世界の人々が巻き込まれていく。そんな彼の酒は、大陸、種族を超えて広まって行き、彼の酒を飲む事、自宅の酒棚に保有している事は、大きなステータスになるほどだった。 *本作品の著者はお酒の専門家ではありません、またこの作品はフィクションであり実在の人物や団体などとは関係ありません。 *お酒は二十歳になってから飲みましょう。

蟲神様の加護を授って新しい家族ができて幸せですが、やっぱり虫は苦手です!

ちゃっぷ
ファンタジー
誰もが動物神の加護を得て、魔法を使ったり身体能力を向上させたり、動物を使役できる世界であまりにも異質で前例のない『蟲神』の加護を得た良家の娘・ハシャラ。 周りの人間はそんな加護を小さき生物の加護だと嘲笑し、気味が悪いと恐怖・侮蔑・軽蔑の視線を向け、家族はそんな主人公を家から追い出した。 お情けで譲渡された辺境の村の領地権を持ち、小さな屋敷に来たハシャラ。 薄暗く埃っぽい屋敷……絶望する彼女の前に、虫型の魔物が現れる。 悲鳴を上げ、気絶するハシャラ。 ここまでかと覚悟もしたけれど、次に目覚めたとき、彼女は最強の味方たちを手に入れていた。 そして味方たちと共に幸せな人生を目指し、貧しい領地と領民の正常化・健康化のために動き出す。

処理中です...