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異世界放浪篇
第20話 フラグ建設
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「うーん、どうしようかな」
市場を腕を組みながらさっそうとあるく美女が一人、フィリアだ。男たちの視線を一身に集めていることなど眼中になく、自らの空腹を満たすことしか頭にないようだ。
「よくわかんない名前の果実多いなぁ、どうしよう」
「へい、らっしゃーい!あんたべっぴんだねぇ!ここの果実は最高級って名高いんだが…安くしとくよ?」
露店でフィリアが果実を見ていると店主が声をかけてきた。頬をかすかに染めておりフィリアに好意があるのが丸わかりだ。隣にいる女性から足を踏まれていたが。
「あ、はい、実は昼ご飯を食べようと思っててお店を探してるんですけど、初めてこの街に来たので勝手がわからなくて」
「なるほどね!なら、いい店知ってるよ!地図貸しな」
フィリアから地図を受け取ると店主は黒炭でマークを付ける。そして、名残惜しそうに地図を返した。
「丸で囲んだとこあるだろ?そこ、めちゃくちゃうまくていいとこらしいよ。ちっと高いがあんたの身なりなら大丈夫だろ!」
「ご親切にありがとうございます。それじゃあ、お礼としてこの果実二つ、いただけますか?」
「はいよ!アッピュリオ2つで2フェンスだよ」
聞きなれない通貨の名前に思い出したようにフィリアが言う。
「あの、ここってドワーフ通貨って使えますか?」
「ドワーフ通貨?あぁ、この街にゃ、ドワーフが多いからな。もちろんだよ」
「それじゃあ、これで」
そういうとフィリアはドワーフ通貨を1枚差し出した。
「へい、まいど!おつりは8フェンスね」
「いえ、おつりは結構です」
差し出されたフェンス通貨を断るフィリア。少々戸惑い顔になる店主。
「おつりいらないっていわれてもねぇ…」
「さっきの情報代です。場所に疎いのですごく助かりましたから」
フィリアの微笑みに何も言えなくなってしまう店主。魅了の魔法でも含まれているのでは、と思えるほど魅力的な彼女の笑顔は店主だけでなく通行人や隣の露店主人、さらには店主の奥さんまで頬を染めるほどだ。
「そ、そういうことならありがたく受け取っておくよ」
「本当に助かりました。それでは」
フィリアは丁寧に会釈をしながら再び微笑むと歩き去って行ってしまった。彼女の背中をいつまでも名残惜しそうに見つめる店主、通行人、奥さん…etc。
「きれいな人だったなぁ…」
「そうね…てか、あんたそれどうすんの?」
「ん?なにがだ?」
「そのドワーフ通貨よ」
店主の奥さんが指さしたそれは、店主の手の中で煌めいていた。銀色に。
「…これドワーフ銀貨じゃん」
「…そうよ」
「…これ一枚で100フェンスだよな」
「…そうよ」
「…じゃあ、あの人は情報代に98フェンスよこしたってことか?」
「…そうよ」
「「………」」
しばらくの間、ふたりに沈黙が訪れる。
「…今日は焼肉でも食うか」
「…そうね」
夫婦のきずなが深まった瞬間だった。
シノアとフィリアがいるサンタルチア首都、水上都市アルゴネアは主にフェンス通貨というものが流通している。これは日本円に換算すると、1フェンス100円だ。
フィリアが差し出したドワーフ通貨とはこの世界で最も流通しているとされる通貨のことだ。経済大国である、ドワーフの王国が製造したこの通貨は非常に出来がよく、偽造などが不可能なため国家間での取引や、大国で出回っていることが多い。
ドワーフ通貨は銅貨、銀貨、金貨と三種類あり、ドワーフ銅貨一枚で10フェンス、ドワーフ銀貨一枚で100フェンス、そしてドワーフ金貨一枚で1000フェンスだ。
水上都市アルゴネアは物価がかなり高いのだが、それでも高級果実が二つで200円だ。
ちなみにアルゴネアの男性の平均月収は90フェンスで、日本円で9000円だ。安いように感じるがこれで何不自由なく暮らすことができる。
また、フェンスとは別にフェンセントと呼ばれるものもあり、これは100フェンセントで1フェンスだ。普通のアッピュリオ(リンゴもどき)が10フェンセントで買えることを考えると、本当に高級果実だったようだ。
◇◇◇
「あれ、シノア?どうしたのこんなところで」
「あ、フィリアさん」
フィリアが錬金術師の店に戻る際中にシノアと再会した。そして、シノアの夢が砕け散ったことを知る。
「そっかぁ、現実を知ったかー」
「はい…」
苦笑いを浮かべシノアの頭を撫でるフィリア。さらに諭すようにこう続けた。
「シノア、この世界の錬金術師だってすごくないわけじゃないからね?薬がなければ救える命も救えないし、全ての国に病気治療の神聖魔法を使える神官がいるわけじゃない。だから、この世界の錬金術師もすごいんだよ?」
「フィリアさん…」
フィリアの言葉に目を潤ませるシノア。そして、こぶしを握り締め決意を新たにする。
「その通りです!異世界だからって自分のあこがれたものを追い求め過ぎました。きちんと現実を見なくちゃですね」
「そうそう、わかればよろしい」
“ドヤッ”とえらそうなフィリアに思い出したようにシノアが提案する。
「そういえば、おなかすきましたね…どこかいい店見つかりましたか?」
「あ、それなんだけど果物売ってる親切な露店の商人さんがいいとこ教えてくれたよ」
シノアに地図を見せるとシノアが驚きの声をあげる。
「あ!ここ、ライデンさんからもおすすめされたところです。なんでも海鮮料理がおいしいんだとか」
「へー!それは楽しみだね。シノアが言ってたお刺身ってのも、もしかしたらあるかもしれないね」
「そうですね…この世界に醤油があるといいんですけど…」
「あはは、とりあえず行ってみようか」
「はい!」
こうして二人は海鮮料理が絶品と噂される店へ向かうこととなった。
市場を腕を組みながらさっそうとあるく美女が一人、フィリアだ。男たちの視線を一身に集めていることなど眼中になく、自らの空腹を満たすことしか頭にないようだ。
「よくわかんない名前の果実多いなぁ、どうしよう」
「へい、らっしゃーい!あんたべっぴんだねぇ!ここの果実は最高級って名高いんだが…安くしとくよ?」
露店でフィリアが果実を見ていると店主が声をかけてきた。頬をかすかに染めておりフィリアに好意があるのが丸わかりだ。隣にいる女性から足を踏まれていたが。
「あ、はい、実は昼ご飯を食べようと思っててお店を探してるんですけど、初めてこの街に来たので勝手がわからなくて」
「なるほどね!なら、いい店知ってるよ!地図貸しな」
フィリアから地図を受け取ると店主は黒炭でマークを付ける。そして、名残惜しそうに地図を返した。
「丸で囲んだとこあるだろ?そこ、めちゃくちゃうまくていいとこらしいよ。ちっと高いがあんたの身なりなら大丈夫だろ!」
「ご親切にありがとうございます。それじゃあ、お礼としてこの果実二つ、いただけますか?」
「はいよ!アッピュリオ2つで2フェンスだよ」
聞きなれない通貨の名前に思い出したようにフィリアが言う。
「あの、ここってドワーフ通貨って使えますか?」
「ドワーフ通貨?あぁ、この街にゃ、ドワーフが多いからな。もちろんだよ」
「それじゃあ、これで」
そういうとフィリアはドワーフ通貨を1枚差し出した。
「へい、まいど!おつりは8フェンスね」
「いえ、おつりは結構です」
差し出されたフェンス通貨を断るフィリア。少々戸惑い顔になる店主。
「おつりいらないっていわれてもねぇ…」
「さっきの情報代です。場所に疎いのですごく助かりましたから」
フィリアの微笑みに何も言えなくなってしまう店主。魅了の魔法でも含まれているのでは、と思えるほど魅力的な彼女の笑顔は店主だけでなく通行人や隣の露店主人、さらには店主の奥さんまで頬を染めるほどだ。
「そ、そういうことならありがたく受け取っておくよ」
「本当に助かりました。それでは」
フィリアは丁寧に会釈をしながら再び微笑むと歩き去って行ってしまった。彼女の背中をいつまでも名残惜しそうに見つめる店主、通行人、奥さん…etc。
「きれいな人だったなぁ…」
「そうね…てか、あんたそれどうすんの?」
「ん?なにがだ?」
「そのドワーフ通貨よ」
店主の奥さんが指さしたそれは、店主の手の中で煌めいていた。銀色に。
「…これドワーフ銀貨じゃん」
「…そうよ」
「…これ一枚で100フェンスだよな」
「…そうよ」
「…じゃあ、あの人は情報代に98フェンスよこしたってことか?」
「…そうよ」
「「………」」
しばらくの間、ふたりに沈黙が訪れる。
「…今日は焼肉でも食うか」
「…そうね」
夫婦のきずなが深まった瞬間だった。
シノアとフィリアがいるサンタルチア首都、水上都市アルゴネアは主にフェンス通貨というものが流通している。これは日本円に換算すると、1フェンス100円だ。
フィリアが差し出したドワーフ通貨とはこの世界で最も流通しているとされる通貨のことだ。経済大国である、ドワーフの王国が製造したこの通貨は非常に出来がよく、偽造などが不可能なため国家間での取引や、大国で出回っていることが多い。
ドワーフ通貨は銅貨、銀貨、金貨と三種類あり、ドワーフ銅貨一枚で10フェンス、ドワーフ銀貨一枚で100フェンス、そしてドワーフ金貨一枚で1000フェンスだ。
水上都市アルゴネアは物価がかなり高いのだが、それでも高級果実が二つで200円だ。
ちなみにアルゴネアの男性の平均月収は90フェンスで、日本円で9000円だ。安いように感じるがこれで何不自由なく暮らすことができる。
また、フェンスとは別にフェンセントと呼ばれるものもあり、これは100フェンセントで1フェンスだ。普通のアッピュリオ(リンゴもどき)が10フェンセントで買えることを考えると、本当に高級果実だったようだ。
◇◇◇
「あれ、シノア?どうしたのこんなところで」
「あ、フィリアさん」
フィリアが錬金術師の店に戻る際中にシノアと再会した。そして、シノアの夢が砕け散ったことを知る。
「そっかぁ、現実を知ったかー」
「はい…」
苦笑いを浮かべシノアの頭を撫でるフィリア。さらに諭すようにこう続けた。
「シノア、この世界の錬金術師だってすごくないわけじゃないからね?薬がなければ救える命も救えないし、全ての国に病気治療の神聖魔法を使える神官がいるわけじゃない。だから、この世界の錬金術師もすごいんだよ?」
「フィリアさん…」
フィリアの言葉に目を潤ませるシノア。そして、こぶしを握り締め決意を新たにする。
「その通りです!異世界だからって自分のあこがれたものを追い求め過ぎました。きちんと現実を見なくちゃですね」
「そうそう、わかればよろしい」
“ドヤッ”とえらそうなフィリアに思い出したようにシノアが提案する。
「そういえば、おなかすきましたね…どこかいい店見つかりましたか?」
「あ、それなんだけど果物売ってる親切な露店の商人さんがいいとこ教えてくれたよ」
シノアに地図を見せるとシノアが驚きの声をあげる。
「あ!ここ、ライデンさんからもおすすめされたところです。なんでも海鮮料理がおいしいんだとか」
「へー!それは楽しみだね。シノアが言ってたお刺身ってのも、もしかしたらあるかもしれないね」
「そうですね…この世界に醤油があるといいんですけど…」
「あはは、とりあえず行ってみようか」
「はい!」
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