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第一章 二度目の人生
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「はあ」
明琳は肩を落とした。
わずか十六歳の少女に処刑の運命を回避して国を救えだなんて、どうにも荷が重い。
どうしたものかと明琳が考えていると、部屋の外から声をかけられる。
「明琳、ちょっといいかしら?」
「あっ、はい」
部屋の外に出ると、水色の衣服を身にまとった姉、愛琳がいた。
愛琳は明琳より二歳年上の十八歳。
北大陸出身の祖母から受け継いだ金の髪は絹糸のように煌めき、蒼の瞳は海のように深い。
陶器のような白い肌に長く細い手足を持つ愛琳は、町一番の美人と評判の美女だ。
「お姉様、どうしたの?」
明琳が尋ねると、愛琳は大きな赤い石のついた首飾りを明琳の首にかけてくれた。
「今日は明琳にこれをあげようと思って」
「わあ、綺麗。これどうしたの?」
明琳は赤い大きな石を指でつまんだ。
懐かしいな。
そういえばこの首飾りは愛琳に貰ったものだったのだと明琳は思い出す。
研磨もされていない赤い何かの原石に、革紐が付けられただけの簡素な首飾り。
決して豪華ではないけれど、大好きな姉に貰った明琳の一番の宝物だ。
前の人生では処刑される前に役人に取り上げられてしまったけど、今回の人生では大切にしないと。
明琳が姉の贈り物を首にかけると、愛琳は開いたばかりの桃の花のように可憐に微笑んだ。
「その石はね、あなたが生まれた日に河原で拾ったの」
「えっ、そうなの?」
「ええ。宝物にしようと思ってずっと取っておいたんだけど、赤色だし、あなたの方が似合うと思って。想像通り良く似合うわ。綺麗よ明琳」
愛琳の美しい笑顔に、胸が苦しくなる。
「お姉様こそ綺麗だわ。それ、新しく仕立てた衣装?」
明琳が苦しい気持ちを誤魔化すように愛琳の装束を指さす。
愛琳は照れたように笑った。
「うふふ、ありがとう。今日は明琳の特別な日だから、お母様に頼んだの」
「そうなんだ。これなら許嫁の健良も喜ぶんじゃないかしら」
明琳が茶化すと、勢いよく後ろの戸が開いた。
「もう喜んでるよ」
立っていたのは、色黒の肌に黒い髪、体格の良い好男子。
「健良様!」
愛琳は赤く染まった頬に手を当てた。
「もう、来てたのでしたら言って下さいな」
「ははは、君を喜ばせたくて」
「もう」
可愛らしく頬を膨らませる愛琳。
相変わらず、この二人はお似合いだと明琳は目を細めた。
明琳の婚約者、陽健良は、隣町の領主の息子。
よく日に焼けた肌に黒い短髪、白い歯が眩しい美男だ。
なんでも市場で買い物をしているお姉様をたまたま見つけて求婚したんだとか。
なんて素敵なんだろうと明琳はうっとりしてしまう。
でも――。
明琳は天翼の言葉を思い出した。
自分のせいで二人は破談になり、姉は大変な苦労をすることになる。
胸に鈍い痛みが走る。
姉だけじゃない。
このままだと自分のせいで、父親も母親もみんな苦しむこととなる。
明琳はきつく拳を握りしめた。
決めた。くよくよしてなんか居られない。
自分はこれから強く生きるんだ。
自分が炎巫になって家族の――この国の運命を変えるんだ。
***
馬車が王都夏京へと続く大きな朱門をくぐる。
「いよいよ二度目の都ね」
明琳は複雑な思いで人々ひしめく都を見つめた。
『そうだな』
半透明姿の天翼が、腕組みをしながらぶっきらぼうに返事をする。
「そうだな」って、そんな他人事みたいに。
こちらはどうやって人生をやり直すのか必死で考えているというのに。
明琳は少しむっとして口をとがらせる。
「ねえ天翼、これからどうすれば私は炎巫になれるの」
明琳が尋ねると、天翼は首を横に振った。
『分からない。俺にできるのは時間を巻き戻し、再び生まれ直す手伝いをすることだけだ。どうすれば良いかは分からない。それはお前が考える他ない』
「そんなあ」
明琳が頼れるのは天翼だけなのに、あまりに頼りないではないか。
まあ、仕方ないか。
明琳は無理やり自分で自分を納得させる。
自分の運命は自分で切り開くしかない。
明琳は目の前の埃っぽい街並みに再び視線を戻した。
明琳は肩を落とした。
わずか十六歳の少女に処刑の運命を回避して国を救えだなんて、どうにも荷が重い。
どうしたものかと明琳が考えていると、部屋の外から声をかけられる。
「明琳、ちょっといいかしら?」
「あっ、はい」
部屋の外に出ると、水色の衣服を身にまとった姉、愛琳がいた。
愛琳は明琳より二歳年上の十八歳。
北大陸出身の祖母から受け継いだ金の髪は絹糸のように煌めき、蒼の瞳は海のように深い。
陶器のような白い肌に長く細い手足を持つ愛琳は、町一番の美人と評判の美女だ。
「お姉様、どうしたの?」
明琳が尋ねると、愛琳は大きな赤い石のついた首飾りを明琳の首にかけてくれた。
「今日は明琳にこれをあげようと思って」
「わあ、綺麗。これどうしたの?」
明琳は赤い大きな石を指でつまんだ。
懐かしいな。
そういえばこの首飾りは愛琳に貰ったものだったのだと明琳は思い出す。
研磨もされていない赤い何かの原石に、革紐が付けられただけの簡素な首飾り。
決して豪華ではないけれど、大好きな姉に貰った明琳の一番の宝物だ。
前の人生では処刑される前に役人に取り上げられてしまったけど、今回の人生では大切にしないと。
明琳が姉の贈り物を首にかけると、愛琳は開いたばかりの桃の花のように可憐に微笑んだ。
「その石はね、あなたが生まれた日に河原で拾ったの」
「えっ、そうなの?」
「ええ。宝物にしようと思ってずっと取っておいたんだけど、赤色だし、あなたの方が似合うと思って。想像通り良く似合うわ。綺麗よ明琳」
愛琳の美しい笑顔に、胸が苦しくなる。
「お姉様こそ綺麗だわ。それ、新しく仕立てた衣装?」
明琳が苦しい気持ちを誤魔化すように愛琳の装束を指さす。
愛琳は照れたように笑った。
「うふふ、ありがとう。今日は明琳の特別な日だから、お母様に頼んだの」
「そうなんだ。これなら許嫁の健良も喜ぶんじゃないかしら」
明琳が茶化すと、勢いよく後ろの戸が開いた。
「もう喜んでるよ」
立っていたのは、色黒の肌に黒い髪、体格の良い好男子。
「健良様!」
愛琳は赤く染まった頬に手を当てた。
「もう、来てたのでしたら言って下さいな」
「ははは、君を喜ばせたくて」
「もう」
可愛らしく頬を膨らませる愛琳。
相変わらず、この二人はお似合いだと明琳は目を細めた。
明琳の婚約者、陽健良は、隣町の領主の息子。
よく日に焼けた肌に黒い短髪、白い歯が眩しい美男だ。
なんでも市場で買い物をしているお姉様をたまたま見つけて求婚したんだとか。
なんて素敵なんだろうと明琳はうっとりしてしまう。
でも――。
明琳は天翼の言葉を思い出した。
自分のせいで二人は破談になり、姉は大変な苦労をすることになる。
胸に鈍い痛みが走る。
姉だけじゃない。
このままだと自分のせいで、父親も母親もみんな苦しむこととなる。
明琳はきつく拳を握りしめた。
決めた。くよくよしてなんか居られない。
自分はこれから強く生きるんだ。
自分が炎巫になって家族の――この国の運命を変えるんだ。
***
馬車が王都夏京へと続く大きな朱門をくぐる。
「いよいよ二度目の都ね」
明琳は複雑な思いで人々ひしめく都を見つめた。
『そうだな』
半透明姿の天翼が、腕組みをしながらぶっきらぼうに返事をする。
「そうだな」って、そんな他人事みたいに。
こちらはどうやって人生をやり直すのか必死で考えているというのに。
明琳は少しむっとして口をとがらせる。
「ねえ天翼、これからどうすれば私は炎巫になれるの」
明琳が尋ねると、天翼は首を横に振った。
『分からない。俺にできるのは時間を巻き戻し、再び生まれ直す手伝いをすることだけだ。どうすれば良いかは分からない。それはお前が考える他ない』
「そんなあ」
明琳が頼れるのは天翼だけなのに、あまりに頼りないではないか。
まあ、仕方ないか。
明琳は無理やり自分で自分を納得させる。
自分の運命は自分で切り開くしかない。
明琳は目の前の埃っぽい街並みに再び視線を戻した。
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