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5.お姉さまと魔法学園

125.お姉様と短距離レース

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「それでは次、第五組の皆さん前へ」

 スタートラインにつく。心臓をバクバクさせながらホウキにまたがる。

「位置について、よーい」

 レースに勝つにはスタートが重要だ。スタートの踏み込みが甘ければスピードは出ない。逆にそこが上手く行けば……

「スタート!!」

 爆音がスタートを告げる。
 俺は思い切り地面を蹴った。

「なっ……!?」
「――速い!!」

 自分が想像しているより遥かに良いスタートが切れた。

 加速するホウキ。
 風がごうごうと流れる。

 そして気がついたら、俺はゴールテープを切っていた。

「た……タイム、3秒06」

 信じられないといった表情で目を見開くラヴィニア先生。

「お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「す、すごいだす!」

「やるやん!!」

 モアとモズク、ケイトが駆け寄ってくる。

「ありがとう、でもまだ予選だから」

 俺はロッカをチラリと見た。
 ロッカのタイムは二秒。
 今までで最高のスタートが切れたのに、それでもロッカより一秒も遅い。

 決勝でロッカに勝つにはどうしたらいいんだ?


 ◇


「続いては騎馬戦です。選手の方はグラウンド中央までお集まり下さい」

 アナウンスが流れ、モアが駆け出す。

「あ、モア騎馬戦に出るんだった!」

「ああ、気をつけてな!」

 寮で一、二を争うほど小さいモアは、本人が希望していないにもかかわらず、いつの間にか勝手に騎馬戦の選手に選ばれていた。

 確かに軽いし小さいから持ち上げやすいっていうのはあるだろうが、騎馬戦の上なんて一番危ないポジションじゃねーか!

 ああ……モアが心配だ。

「短距離レース、決勝をただいまから行います」

 だけど、俺はこれから短距離の決勝を走らなくちゃなんない。

 モア~! ケガしないでくれよ~!

「参加者の方はスタートラインに並んで下さい」

 ラヴィニア先生にうながされる。

 ああ、モアが騎馬戦だなんて、怪我してなきゃいいが……

 俺はソワソワしながらスタートラインに立った。

「位置について、よーい」

 早く! 早く走り終えてモアの騎馬戦を見に行かなくちゃ!

「スタート!!」

 破裂音とともに足に力を込める。

「モア……今行くぞ!! 待っててくれー!!!!」

 瞬間、足が爆発したように熱くなった。周りの景色が加速する。

 気がつくと俺は、ゴールテープを切っていた。

「すごい!」
「そんな! あんな安っぽいホウキで!?」
「人間じゃない!!」

 白百合寮のみんなが拍手で出迎える。
 どうやら一位だったらしい。

 ホッと息を吐く。

 タイムを見ると……1.3秒!?

 俺、100mを1.3秒で走ったのか!?
 そりゃ人間じゃないとか言われるわけだわ。

「完敗だわ……」

 ロッカが駆け寄ってきて握手を求める。

「まるで瞬間移動してるようにしか見えなかったわ。この調子でリレーも頑張りましょう」

「あ、ああ!」

 ギュッとロッカの手を握り返す。

 どうやらロッカは3位だったようだ。
 2位は青百合寮の子。というか、決勝に残ったメンバーのうち俺とロッカ以外は全員青百合寮だ。

「1位は5ポイント貰えるわ。2位は3ポイント。決勝に残った他の4人にも1ポイントづつ」

 ロッカが渋い顔をする。

「ということは短距離走では白と青が6ポイントで並んでるわけか」

「ええ。青百合寮はいつも配点の高い長距離やリレーに本気をだしてくるから、残る玉入れや綱引き、騎馬戦でポイントを稼ぐしかないわね」

「騎馬戦……」

 はっ、そういえば、モアが騎馬戦に出てるんだった!

「ご、ごめん俺、騎馬戦を見に行くから!」

「あっ、ちょっとまだ話が!」

 俺はロッカが引き止めるのを無視し、モアの元へと走った。

「モア……モアー!!」





 騎馬戦が行われているグラウンド中心部につくと、そこにはザワザワと人だかりができていた。

 よく見えないが、どうやら騎馬戦はまだ終わっていないようだ。

「良かった……モアはどうしてるかな」

 人混みをかきわけ、なんとか騎馬戦の見える位置までやってくる。

 騎馬戦は各寮から4チームずつ、合計16チーム出ているはずなのだが、残っているのは残り5チームだ。

そしてその中に、モアのチームもいた。

「モア!!」

 モアの手には他のチームのハチマキが3つ握られている。

「たあっ!」 

 そして果敢にも4つ目のハチマキを取ろうとモアが手を伸ばした先はピンク色のツインテールが揺れる後頭部。カスミ様だ。

「旋回!」

 モアが手を伸ばしかけたその瞬間、カスミ様がそれに気づき掛け声をかける。

 ぐるりとカスミ様を乗せた騎馬が回転し、モアの手が空を切る。

「残念だったわね」

 笑うカスミの手にもハチマキが3本。

 そっか、考えてみたらカスミ様は体が小さい上に身のこなしも素早いから騎馬戦の上に最適だな。

「今度はこっちから行くわよ!」

 カスミ様がモアに手を伸ばす。
 モアはそれを懸命に避け、逆に回り込んでカスミ様のハチマキを狙おうとする。が――

「ちいっ!」

 カスミ様が手をブンと振る。
 すると風が巻き起こり、逆側からどさくさに紛れてカスミ様のハチマキを狙おうとしていた女生徒のハチマキが弾け飛んだ。

「よしっと」

 宙に浮いたハチマキをパシリと掴むカスミ様。これでカスミ様の持つハチマキは4本となった。

 なるほど。相手を魔法で攻撃するのは禁止だと聞いていたが、ああいう使い方ならいいのか。

「モアさん、カスミ様は諦めて、他の生徒を狙いましょう」

「う、うん」

 モアを背負っている女生徒が叫ぶ。

 今、残っているのは四組の騎馬で、残り時間はあと一分。どうやら、カスミ様に挑むのは諦めて、他の生徒のハチマキを取る作戦にしたようだ。

「たぁっ!」

 モアが横にいた女生徒に挑み、黄色のハチマキを奪う。よし、これで4対4!

 残り時間はあと40秒……というところで、カスミ様がもう一人の女の子から青いハチマキを奪う。4対5。

 こうなったら、もうカスミ様のハチマキを奪うしか策はない!

 カスミ様が手を振りあげる。

「ていっ!」

 風魔法がモアを襲う。

「モアーーー!!」

 だがモアは目の前にバリアを張り、それを防いだ。

「今、詠唱なしでシールドを張らなかった?」
「カスミ様の魔法を防ぐだなんて!」

 ざわつく観客。魔法を跳ね返されバランスを崩したカスミ様へ、モアの手が伸びる。


 ピピーーーーッ!!


 だが、そこで時間切れとなった。

 残っているのはモアとカスミ様の二人だけ。モアの手にはハチマキが4つ。カスミ様の手には5つ。

「優勝は……赤百合寮、カスミ様チーム!!」

 わぁっと盛り上がる赤百合寮の女生徒たち。

 モアはがっくりと肩を落とした。




 
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