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5.お姉さまと魔法学園

125.お姉さまと姉4

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「では、次の人! どうしたの? 早く前へ!」

 ラヴィニア先生がヒステリックな声を上げる。

「は、はい!」

 俺は心臓をバクバク言わせながら的《まと》の前に立った。

 さて、どうしようか。俺は魔法なんて使えないんだが。

「何をしてるの? 早く的《まと》を狙いなさい」

 迷っていると、先生に促される。
 ええい、もうこうなりゃヤケだ!

「てやぁぁぁ!!」

 俺は思い切り拳を突き出した。
 ちょうど空手の型みたいな形だ。

 ゴウッ!

 途端、拳圧で風が巻き起こる。

 バリバリバリバリ……!!

 的が凄まじい音を立てて裂ける。
 それだけじゃない。

 ドォォォン!!

「あー……」

 どうやら少し力を入れすぎたみたいだ。後ろの壁にまで大きな穴が開く。

「なっなっなっ……」

 ワナワナと震えるラヴィニア先生。
 フッ、俺の実力に恐れをなしたか!?

「貴方、あの的がいくらするか分かってるの!? それに壁にまで穴を開けて!!」

 顔を真っ赤にして叫ぶラヴィニア先生。
 周りの生徒もクスクス笑ってる。

 あれ? 何か思ってた反応と違うな。
 もっとこう「すごーい」ってなるのかと……

「ま、ほら、この方が日当たりも良くなるし……?」

 笑って誤魔化すも、ラヴィニア先生は、キッと俺を睨みつける。

「バツとして、あなたは放課後残ってここで壁の修理をしてもらいます!」

 ゲゲッ、そんなのありかよ~!!

 ケイトはポンポンと肩を叩いた。

「なるほど、アンタの魔法は身体強化系なんやね。でも、もうちょっと力の加減を上手くやった方がいいで?」

 うう……。

「なぁケイト、放課後手伝う気とかない?」

 俺はケイトの手をギュッと握った。

「ない」

 ケイトは冷たくそっぽを向く。

「そこをほら、なんとか。何か奢るからさ」

「無理無理。ウチは部活あるもん。ほな!」

 手を振り、去っていくケイト。

 あーあ。こうなったら、放課後一人で練習場の修繕を頑張るしかない。転入早々、散々だぜ。

「ま、頑張ってな!」

 ケイトの笑い声が、広い練習場にこだました。




「クソっ、どうして俺がこんな目に~」

 釘と木の板で先生に言われた通りに壁の穴を塞ぐ。

「はぁ。可憐できらびやかな女子校生活を送るはずだったのにな」

 だが現実は、体操着に釘とトンカチで大工まがいのことをするハメに。全く、土方じゃねーっての。

「それにしても、異世界にもブルマってあるんだな」

 俺は窓ガラスに写ったブルマ姿の自分を見つめた。

 長い脚。太すぎず細すぎず絶妙なバランスの太もも。美しい丸みをおびたヒップ、まずい。うーん、美少女!!

 クソっ、ラヴィニア先生、さては俺が美少女すぎるから嫉妬してるんだな!

 今に見てろ! 教室のドアに黒板消しデマ挟んで、入ってきた瞬間粉まみれにしてやるからな!

 ガキン!

「痛たたたたたた!」

 そんな妄想をしていると、思い切り指をトンカチで叩いてしまう。

「痛ぇーーーっ!!!!」

 俺が涙目になっていると、いきなり背後から声をかけられた。

「大丈夫かい? 子羊ちゃん」

 へ??

 振り返るとそこには、ショートカットで長身のものすごい美少女がいた。

「え? えっと、はい……」

 この人、どこかで見覚えが。
 俺は、昨日寮の窓から見た光景を思い出した。

 あ、そうだ! 姉4のうちの一人の

 ちゅっ。

 俺が考え込んでいると、ショートカットの美少女は、おもむろに俺がトンカチで打った人差し指を口に含んだ。

「!!!!????」

 ちゅっ、ちゅっ。

 俺の指を舐める美少女。

 え……えええ……な、何なんだこの人。
 俺が少し引いていると、美少女はニッコリと笑った。

「大丈夫かい? 痛かっただろう……?」

 キラキラと背後に花や星のエフェクトが飛んだ……ような気がした。

 ああ、なんだかこの感じ、どこかで……あ、そっか。レオ兄さんに似てるんだ。

 まぁ、レオ兄さんと違って女の子だからか、そんなにムカつかないんだけどさ。何か変な人だ。

 それにしても、美少女なんだけどなんだか変わった人だな。ボーイッシュというか、宝塚の男役って感じ。

「サツキ! こんな所で何やってるのよ!」

 校舎の方からピンク髪のツインテールを揺らした小柄な少女が走ってくる。

 シマシマのニーハイに、ツインテには大きなリボンを飾ったりして、かなりロリロリな感じだ。多分パンツもシマパン。

 この子も見たことある! 姉4だ! 姉4のメンバーが二人も!!

 俺がワタワタしてると、ロリツインテがキッと宝塚をにらんだ。

「サツキ、あんたったらまた下級生にセクハラしたのねー」

「ち、違うよカスミ。この子、トンカチで指を打ったって言うから!」

 俺の指をロリ……じゃなくてカスミ様に見せる宝塚ことサツキ様。

 赤く腫れた指を見て、カスミ様は目を見開いた。

「まぁ、痛そう! 早く冷やさないとダメじゃない!」

 そう言うと、カスミ様は俺の手をぐいと引っ張った。

「ついて来て! 今すぐ冷やすから!」

「は、はい」

 呆然としながらカスミ様について行く。が、指を冷やすと言ったはずなのに、校舎からどんどん遠ざかっていく。

「あの、一体どこへ?」

 俺が尋ねると、カスミ様じゃなくサツキ様がウインクする。

「決まってるだろ、『白百合の園』さ」

「し、白百合の園??」

 二人に促されついて行くと、やがて白い柱の小さな温室みたいな建物にたどり着いた。

 ここが白百合の園? 温室で百合の栽培でもしてるのかな。

 ギィ……

 カスミが温室のドアを開く。
 ふわり、むせるような百合の香りが鼻の奥まで広がる。

 中には数え切れないほどの百合百合の花。

 そして中央の白いテーブルとイスでは二人の美少女がお菓子と紅茶を飲んでいる。

 長い黒髪の少女が顔を上げる。ツバキ様とかいう人だ。それともう1人、長い金髪で大人っぽいグラマラスな人。彼女も確か姉4だ。

 つまり、姉4全員がこの温室に揃っていた。

「ほら、あそこに噴水があるでしょ? あれ実は地下水なの。この学校で一番綺麗で冷たい水なの」

「あ、ありがとうございます」

 言われた通り、水の湧き出しているところに指をひたす。氷水みたいにひんやりとしていて気持ちがいい。

「あら? カスミ、その子はどなたでして?」

 金髪の少女がカスミ様に尋ねる。
 カスミ様は肩をすくめた。

「なんかねー、ケガしちゃったみたい。それとー、サツキにセクハラされてた!」

「失礼な。セクハラなんてしてないから!」

 するとツバキ様が俺のことを見て目を見開く。

「あら? そう言えばあなた今朝の」

「あ、はい。今朝はありがとうございます」

 俺が頭を下げると、カスミ様が驚く。

「え? 何、何? 知り合い!?」

「ほら、あの今朝ツバキがタイを直した子では無くて?」

「ああ、なるほど! 例の転校生ね!」

「そっか、それじゃあボクたちのことも分からないよね」

 サツキ様が四人のメンバーを紹介してくれる。

「そこの黒髪のロングヘアーが、生徒会長のツバキ。通称椿姫。白百合寮の生徒代表でもある」

 ツバキがぺこりと頭を下げる。

「そこの小さいピンク髪ツインテールがカスミ。赤百合寮の代表」

「小さいは余計よ!」

 小さい、なんて紹介したサツキ様にカスミ様がくってかかる。

「こう見えても意外としっかりしてて、生徒会の副会長もしてるんだ。そしてボク、サツキとそこにいる金髪の――スミレが書記。それぞれ青百合寮と黄百合寮の代表だよ」

「そうなんですか。あの、ここは」

 俺が呆気に取られながら尋ねるとサツキ様が答える。

「ああ、ここは我々のたまり場みたいなものさ!」

「正しくは第二温室」

 と、これはツバキ様。
 カスミ様はいたずらっぽく笑う。

「とは言えー、私たち以外はめったに来ないから、溜まり場みたいなもの、って言うので間違いないんだけどね☆」

 そして最後に、スミレ様が妖艶な笑みを浮かべて言った。

「ようこそ、私たちの秘密の花園へ」
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