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5.お姉さまと魔法学園
122.お姉さまと転校生
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「ごきげんよう!」
「ごきげんよう、お姉様!」
可憐な乙女たちの笑い声が飛び交う中、俺は『聖アスセナ魔法女学院』の門をくぐった。
「へー、デカい学校だなぁ」
ステンドグラスや大理石の彫刻の美しいその建物は、まるで神殿か大聖堂のよう。
美しく手入れされた緑の柴の広がる先には、天使を象った噴水が見えた。
ポカンと口を開け巨大な学園を見上げる。モアがそでを引っ張る。
「お姉様、あんまりキョロキョロしていると怪しまれるよ」
「大丈夫だよモア。転校生なんだからキョロキョロしてたって別におかしくないさ」
「確かにそうかもしれないけど、でもムルカさんが『目立つな』って」
「目立つなって言われてもなぁ」
俺はモアをじっと見た。
白いフリフリのブラウスに、金のボタンのついた緑色の上着。赤いチェックのネクタイに、チェックのプリーツスカート。
「あああああああん!! なんて可愛いんだーモアー!!」
俺は思わずモアを抱きしめた。
金の校章の入った白いハイソックスも、三つ編みにした髪の毛も、緑金のベレー帽も、どれも信じられないくらいモアの可愛さを引き立てている。
モア!! なんて制服が似合うんだ!!
天使だ……白百合の天使!!
「お姉様、落ち着いて!」
俺がモアの制服姿に興奮していると、不意に後から声をかけられる。
「そこのあなた」
「へっ?」
振り向くと、そこには長い黒髪を風になびかせた美しい女生徒がいた。
「お、俺?」
「そう、あなたよ」
カツカツカツと俺の方へ向かってくる女生徒。長い黒髪に赤い椿の花飾りが良く似合う。
ヤバいなー、俺、なんかヘマした? 知らないうちに校則違反でもしたんだろうか。
ビクビクしていると、白い腕がスッと伸びてきて、制服のオレンジ色のネクタイに触れた。
ふわりと広がる甘い花の香り。
「あなた、タイが曲がっていてよ?」
とたん、辺りの女生徒からキャー! という悲鳴が上がる。
「『姉4』のツバキ様よっ!」
「ツバキ様が下級生のタイを!!」
「あの子は一体誰!?」
この人、ツバキ様って言うんだ。綺麗な人。それにしても、何だか凄い騒ぎになってるような。
「あなた、見慣れない顔ね?」
星空のような黒い瞳が俺を見つめる。長いまつげ。まるで人形のように整った顔。ドキリと心臓が鳴った。
「あ……はい。明日からこの学校に転入するんです。今日はその説明を受けに」
「そう、途中から編入してくるなんて、あなた、よっぽど優秀なのね」
「そ、そうなの……かな?」
クスリと笑うツバキ様。
「それとも、何か事情があるのかしら?」
背中からどっと汗が流れる。
「い、いや……その……たはははは」
「まぁいいわ。明日から編入と言ったわね。あなたの名前は?」
「ミアです。こっちは妹のモア」
「そう、あなたの本当の妹なのね。可愛いらしい名前」
クスリと笑って俺の頬を細い指で撫でるサツキ様。頬がかぁっと熱くなる。
「じゃあまた明日。あなたのこと、覚えておくわね」
またしても、キャー! と周りの女生徒から悲鳴が起こる。
俺はポカンと口を開けたまま立ちつくした。
「お姉様ったら……」
モアはぷぅと頬を膨らませた。
……てなわけで、全国から優秀な魔法使いの卵たちが集まる『アスクナ魔法女学院』に俺たちは編入することになった俺たち。
なぜこういうことになったかというと、それは二週間前にさかのぼる。
◇
「お姉様っ、このクエストなんかいいんじゃない?」
水の都セシルより北上し、「光と太陽の都」と呼ばれる大帝国アレスシア帝国へとやってきた俺たち。
アレスシア帝国は俺たちの故郷エリス王国と木の都フェリル、水の都セシルの三カ国を足したよりもさらに大きな面積の国。
産業も発展しており人口も多いんだけど、その分冒険者の数も多くて――
「すみません、もうこのクエストは締め切ってしまいました」
受付のエリさんが残念そうに微笑む。
「そっかあ」
聞くところによるとアレスシア帝国には冒険者協会が十以上もあり、ここはその中では、三番目に大きな協会らしい。
だけど、大きい冒険者協会だから依頼が沢山あるだろうと思って来たのはいいものの、その分クエストを受けたがっている冒険者も多く、ランクの低い俺たちには中々仕事が見つからない。
「どうしたものか」
悩んでいる俺たちに、エリさんはファイルを開き、ひとつの依頼を見せてくれる。
「そうだ。もし良かったら、二人、この依頼を受けてみない? 10代の女性限定の依頼があるんだけど」
「おお! 俺たちにぴったりの依頼だな!」
「報酬も結構いいし、受けようよ、お姉様!」
「じゃあ、決まりね」
あっという間に依頼を受けることが決定する。
でも、どうして10代の女性限定?
「これが依頼人の住所よ。詳しい依頼内容は依頼人が直接話したいそうだから、この住所を訪ねてみて頂戴」
住所が書かれた紙を渡してくるエリさん。
俺はなんだか不安になって尋ねた。
まさか変な依頼じゃねーだろーな。
依頼人が変態ロリコンおやじだったりとか……。
「あの、ざっくりでいいんですが、どういう依頼内容か分かりませんか?」
恐る恐る尋ねると、エリさんが答えた。
「ここには何も書いてないんだけど、この依頼者は私が応対したから大丈夫。若い女性で、まともな人よ。依頼内容は……そうねぇ、女学院に潜入して欲しいとか言ってたわ」
女学院に?
俺たちはとりあえず指示の通り町外れのボロい家にやってきた。
そこにはムルカさんという黒いローブに茶色いおさげ頭の女の子が住んでいた。
年は俺と同じくらい。随分若い依頼者だ。
ムルカさんは、俺たちの顔を見ると嬉しそうに微笑んだ。
「良かった。あなた達なら依頼をきちんと遂行してくれそうね」
「あの、依頼って」
ムルカさんは依頼表を手渡すと、じっと俺の目を見つめて言った。
「あなた達にはサンクト・アスセナ女学院に潜入して、そこに潜んでいる吸血鬼を退治してほしいの」
「ごきげんよう、お姉様!」
可憐な乙女たちの笑い声が飛び交う中、俺は『聖アスセナ魔法女学院』の門をくぐった。
「へー、デカい学校だなぁ」
ステンドグラスや大理石の彫刻の美しいその建物は、まるで神殿か大聖堂のよう。
美しく手入れされた緑の柴の広がる先には、天使を象った噴水が見えた。
ポカンと口を開け巨大な学園を見上げる。モアがそでを引っ張る。
「お姉様、あんまりキョロキョロしていると怪しまれるよ」
「大丈夫だよモア。転校生なんだからキョロキョロしてたって別におかしくないさ」
「確かにそうかもしれないけど、でもムルカさんが『目立つな』って」
「目立つなって言われてもなぁ」
俺はモアをじっと見た。
白いフリフリのブラウスに、金のボタンのついた緑色の上着。赤いチェックのネクタイに、チェックのプリーツスカート。
「あああああああん!! なんて可愛いんだーモアー!!」
俺は思わずモアを抱きしめた。
金の校章の入った白いハイソックスも、三つ編みにした髪の毛も、緑金のベレー帽も、どれも信じられないくらいモアの可愛さを引き立てている。
モア!! なんて制服が似合うんだ!!
天使だ……白百合の天使!!
「お姉様、落ち着いて!」
俺がモアの制服姿に興奮していると、不意に後から声をかけられる。
「そこのあなた」
「へっ?」
振り向くと、そこには長い黒髪を風になびかせた美しい女生徒がいた。
「お、俺?」
「そう、あなたよ」
カツカツカツと俺の方へ向かってくる女生徒。長い黒髪に赤い椿の花飾りが良く似合う。
ヤバいなー、俺、なんかヘマした? 知らないうちに校則違反でもしたんだろうか。
ビクビクしていると、白い腕がスッと伸びてきて、制服のオレンジ色のネクタイに触れた。
ふわりと広がる甘い花の香り。
「あなた、タイが曲がっていてよ?」
とたん、辺りの女生徒からキャー! という悲鳴が上がる。
「『姉4』のツバキ様よっ!」
「ツバキ様が下級生のタイを!!」
「あの子は一体誰!?」
この人、ツバキ様って言うんだ。綺麗な人。それにしても、何だか凄い騒ぎになってるような。
「あなた、見慣れない顔ね?」
星空のような黒い瞳が俺を見つめる。長いまつげ。まるで人形のように整った顔。ドキリと心臓が鳴った。
「あ……はい。明日からこの学校に転入するんです。今日はその説明を受けに」
「そう、途中から編入してくるなんて、あなた、よっぽど優秀なのね」
「そ、そうなの……かな?」
クスリと笑うツバキ様。
「それとも、何か事情があるのかしら?」
背中からどっと汗が流れる。
「い、いや……その……たはははは」
「まぁいいわ。明日から編入と言ったわね。あなたの名前は?」
「ミアです。こっちは妹のモア」
「そう、あなたの本当の妹なのね。可愛いらしい名前」
クスリと笑って俺の頬を細い指で撫でるサツキ様。頬がかぁっと熱くなる。
「じゃあまた明日。あなたのこと、覚えておくわね」
またしても、キャー! と周りの女生徒から悲鳴が起こる。
俺はポカンと口を開けたまま立ちつくした。
「お姉様ったら……」
モアはぷぅと頬を膨らませた。
……てなわけで、全国から優秀な魔法使いの卵たちが集まる『アスクナ魔法女学院』に俺たちは編入することになった俺たち。
なぜこういうことになったかというと、それは二週間前にさかのぼる。
◇
「お姉様っ、このクエストなんかいいんじゃない?」
水の都セシルより北上し、「光と太陽の都」と呼ばれる大帝国アレスシア帝国へとやってきた俺たち。
アレスシア帝国は俺たちの故郷エリス王国と木の都フェリル、水の都セシルの三カ国を足したよりもさらに大きな面積の国。
産業も発展しており人口も多いんだけど、その分冒険者の数も多くて――
「すみません、もうこのクエストは締め切ってしまいました」
受付のエリさんが残念そうに微笑む。
「そっかあ」
聞くところによるとアレスシア帝国には冒険者協会が十以上もあり、ここはその中では、三番目に大きな協会らしい。
だけど、大きい冒険者協会だから依頼が沢山あるだろうと思って来たのはいいものの、その分クエストを受けたがっている冒険者も多く、ランクの低い俺たちには中々仕事が見つからない。
「どうしたものか」
悩んでいる俺たちに、エリさんはファイルを開き、ひとつの依頼を見せてくれる。
「そうだ。もし良かったら、二人、この依頼を受けてみない? 10代の女性限定の依頼があるんだけど」
「おお! 俺たちにぴったりの依頼だな!」
「報酬も結構いいし、受けようよ、お姉様!」
「じゃあ、決まりね」
あっという間に依頼を受けることが決定する。
でも、どうして10代の女性限定?
「これが依頼人の住所よ。詳しい依頼内容は依頼人が直接話したいそうだから、この住所を訪ねてみて頂戴」
住所が書かれた紙を渡してくるエリさん。
俺はなんだか不安になって尋ねた。
まさか変な依頼じゃねーだろーな。
依頼人が変態ロリコンおやじだったりとか……。
「あの、ざっくりでいいんですが、どういう依頼内容か分かりませんか?」
恐る恐る尋ねると、エリさんが答えた。
「ここには何も書いてないんだけど、この依頼者は私が応対したから大丈夫。若い女性で、まともな人よ。依頼内容は……そうねぇ、女学院に潜入して欲しいとか言ってたわ」
女学院に?
俺たちはとりあえず指示の通り町外れのボロい家にやってきた。
そこにはムルカさんという黒いローブに茶色いおさげ頭の女の子が住んでいた。
年は俺と同じくらい。随分若い依頼者だ。
ムルカさんは、俺たちの顔を見ると嬉しそうに微笑んだ。
「良かった。あなた達なら依頼をきちんと遂行してくれそうね」
「あの、依頼って」
ムルカさんは依頼表を手渡すと、じっと俺の目を見つめて言った。
「あなた達にはサンクト・アスセナ女学院に潜入して、そこに潜んでいる吸血鬼を退治してほしいの」
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