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4.お姉様と水の都セシル
115.お姉様と人魚
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「お前は......人魚!?」
俺は目の前に現れた世にも美しい銀髪の人魚に思わず息を飲んだ。
ギュッと武器を握る。
参ったな。いくらモンスターとはいえ、人に近い形をした奴、特に女の子とは戦いにくいな。
「お姉様、あやつの中に入っているのは悪魔――遠い昔に封印されていたはずの海の悪魔じゃ」
俺が躊躇っていると、鏡の悪魔がモアの影から姿を現す。
人魚の口元が引き締まる。
「あんたは......なるほど。あんたも私と同じで封印を解かれた悪魔ってわけかい。まさか人の影に寄生するなんて手があったとはね」
鏡の悪魔はそれを聞きフン、と鼻を鳴らした。
「人の体を乗っ取るほうが悪趣味じゃ」
「あなたがベルくんを攫ったの!? ベルくんをどこにやったの!?」
モアが叫ぶ。
「ベル......? ああ、あの私の封印を解いてくれた小僧か」
ベルくんが、悪魔の封印を解いた!?
「そう。私の魂は水晶玉に封じられ、体は弱体化した状態でこの城に封じられていたのだ。だがある時、指輪に加工された水晶玉はあの島のカラスに巣に持ち帰られて……」
苦々しい顔をする海の悪魔。
「……あ!」
俺は、ベルくんが巣の中で指輪をいくつも投げ捨てていたことを思い出した。その時、水晶の指輪が割れたことも。
「まさか、あの時に」
ベルくんが海の悪魔の魂を解き放った。そして海の悪魔は今度は封じられた体も取り戻そうと、この城へベルくんを誘導したのか。
「だがあいにく私の体は弱体化している。元の力を取り戻すにはそれなりの魔力――生贄が必要だ」
「その生贄がベルくんって訳か」
海の悪魔が唇を引き笑う。
「そうだ。あの坊主は若く、美しく、身分も魔力も高い。生贄になるために生まれてきたような子だよ」
「させるかっ!」
俺は海の悪魔へと間合いを詰める。
「ふん」
ギラリと光る悪魔の目。その手には宝石に色どられた三又の槍。
あの武器を、叩き落としてやる!
足を振り上げ、蹴りを放つ。
――バチッ!
「何っ!?」
脚にビリリと電流のような痺れが走る。まるで目の前に透明な壁が立ち塞がっているように、ピタリと足が止まる。
「ちっ」
防御魔法か!
「お姉様!?」
モアが駆け寄る。
「大丈夫だ。少しビリッとしただけ」
海の悪魔がふん、と鼻で笑う。
「口ほどにも無い」
そう言うと、海の悪魔の手から槍が消える。パチン、指を鳴らす音。
「こんな奴ら、私が相手をするまでもない。やっておしまい!」
叫ぶ海の悪魔。
「はい」
奥から、低い声の返事が帰ってきた。
この声は!
プールの奥の二股の道。その右奥から、黒髪の青年が姿を現す。
「オディル!?」
あいつ、ここを去るとか言ってなかったっけ?
「おい、お前、こんな所で何を……」
赤い不思議な色を放つオディルの瞳。
まさか、あいつに操られているのか!?
オディルが剣を抜き構える。
「オ、オディル!」
「ふふ、存分に可愛がって頂戴。私はこの隙に儀式の準備でも薦めておくわ」
儀式! ベルくんが危ない!
「させるかっ!」
駆け出した俺だったが、目の前に立ち塞がるのは虚ろな目をしたオディル。
「――オディ」
瞬間、黒い影が動き、剣が振り下ろされる。
「うわっ!」
俺は辛うじてそれを避けた。服の袖が切れ、左腕に僅かに血が滲む。速い。
「――武器よ」
俺は素早く後に下がりながら唱えた。
手の中のズシリとした重み。
剣と斧なら斧の方が有利なはず!
――狙うは武器破壊!
「おおおおおお!!」
斧を振り上げる――が、それよりも速く、剣先が頬を掠《かす》める。
「くっ……」
バラバラと金色の髪の毛が舞った。
「お姉様!!」
「来るな!」
駆け寄るモアを制止する。
「こいつは俺が――モアはベルくんを頼む!」
「で、でも」
「俺は大丈夫だから、早くベルくんを助け出すんだ!」
「う、うん」
モアの影が通路の奥へと消えて行く。大丈夫かな? でも、鏡の悪魔もついてるし、取り敢えずは目の前のこいつだ。
ブン!
風を切って大剣の一撃が飛んでくる。
俺はまたしてもそれを紙一重でかわす。速すぎて、とても目では追えない。もはや本能で避けてる状態だ。
さすが王宮で剣術を教えてただけある。思ってた以上に強い。
昔オディルに一発食らわせられたのはこいつが子供だからと油断してたからなんだろう。
本気で戦うとなると、やはり難しい。しかも、勢い余って殺したりしたら大変だし。
斧をギュッと握り直す。
「だああああっ!」
振り下ろした斧。鈍い音を立てて剣とぶつかる。いいぞ。このまま武器破壊を――
キィィィン!
「な――」
だが、器用に剣を滑らせ斧の威力を殺したオディル。
俺が再び斧を構えている隙に喉元に刃が飛んでくる。
「――くっ」
俺は咄嗟に斧を捨てた。上半身をありったけの柔軟性でしならせ攻撃を避ける。剣が引く。その隙に、オディルの足に思い切り蹴りを入れた。
「ぐわっ!」
苦悶の表情を浮かべよろめくオディル。
今だ!
「はああああっ!」
腹部に
この拳を――
叩きつけるっ!
危機を察知したオディルは咄嗟に身を引く。届かない――!?
だが、俺の拳が放った風圧がオディルのみぞ落ちに直撃する。
くの字に体を折り曲げ苦悶の表情を浮かべる。
「――ガハッ!」
床に膝をつくオディル。そして吐き出したのは――透明なウミウシみたいな軟体生物。
「ゴホッ……ガハッ……ここは――」
「オディル! 正気に戻って――!?」
やはり、あのウミウシみたいなのがオディルを操っていたのか。
「ここは海の中の城だ」
「そうか。……そうだ、俺は悪魔がいると聞いて――」
オディルが顔をしかめる。
どうやらオディルはここに悪魔目当てに来たらしい。
何なんだろう。こいつ、悪魔祓いか何か何だろうか?
「君たちは、どうしてここへ?」
どうしてって、ベルくんを追って――
「そうだ! ベルくんが危ないんだった! 早く行かなきゃ!」
俺はそう言うと、海の悪魔とモアを追いかけて暗い通路へと走り出した。
「あ、おい!」
背後でオディルの声が響く。
モア……ベルくん……無事でいろよ!
俺は目の前に現れた世にも美しい銀髪の人魚に思わず息を飲んだ。
ギュッと武器を握る。
参ったな。いくらモンスターとはいえ、人に近い形をした奴、特に女の子とは戦いにくいな。
「お姉様、あやつの中に入っているのは悪魔――遠い昔に封印されていたはずの海の悪魔じゃ」
俺が躊躇っていると、鏡の悪魔がモアの影から姿を現す。
人魚の口元が引き締まる。
「あんたは......なるほど。あんたも私と同じで封印を解かれた悪魔ってわけかい。まさか人の影に寄生するなんて手があったとはね」
鏡の悪魔はそれを聞きフン、と鼻を鳴らした。
「人の体を乗っ取るほうが悪趣味じゃ」
「あなたがベルくんを攫ったの!? ベルくんをどこにやったの!?」
モアが叫ぶ。
「ベル......? ああ、あの私の封印を解いてくれた小僧か」
ベルくんが、悪魔の封印を解いた!?
「そう。私の魂は水晶玉に封じられ、体は弱体化した状態でこの城に封じられていたのだ。だがある時、指輪に加工された水晶玉はあの島のカラスに巣に持ち帰られて……」
苦々しい顔をする海の悪魔。
「……あ!」
俺は、ベルくんが巣の中で指輪をいくつも投げ捨てていたことを思い出した。その時、水晶の指輪が割れたことも。
「まさか、あの時に」
ベルくんが海の悪魔の魂を解き放った。そして海の悪魔は今度は封じられた体も取り戻そうと、この城へベルくんを誘導したのか。
「だがあいにく私の体は弱体化している。元の力を取り戻すにはそれなりの魔力――生贄が必要だ」
「その生贄がベルくんって訳か」
海の悪魔が唇を引き笑う。
「そうだ。あの坊主は若く、美しく、身分も魔力も高い。生贄になるために生まれてきたような子だよ」
「させるかっ!」
俺は海の悪魔へと間合いを詰める。
「ふん」
ギラリと光る悪魔の目。その手には宝石に色どられた三又の槍。
あの武器を、叩き落としてやる!
足を振り上げ、蹴りを放つ。
――バチッ!
「何っ!?」
脚にビリリと電流のような痺れが走る。まるで目の前に透明な壁が立ち塞がっているように、ピタリと足が止まる。
「ちっ」
防御魔法か!
「お姉様!?」
モアが駆け寄る。
「大丈夫だ。少しビリッとしただけ」
海の悪魔がふん、と鼻で笑う。
「口ほどにも無い」
そう言うと、海の悪魔の手から槍が消える。パチン、指を鳴らす音。
「こんな奴ら、私が相手をするまでもない。やっておしまい!」
叫ぶ海の悪魔。
「はい」
奥から、低い声の返事が帰ってきた。
この声は!
プールの奥の二股の道。その右奥から、黒髪の青年が姿を現す。
「オディル!?」
あいつ、ここを去るとか言ってなかったっけ?
「おい、お前、こんな所で何を……」
赤い不思議な色を放つオディルの瞳。
まさか、あいつに操られているのか!?
オディルが剣を抜き構える。
「オ、オディル!」
「ふふ、存分に可愛がって頂戴。私はこの隙に儀式の準備でも薦めておくわ」
儀式! ベルくんが危ない!
「させるかっ!」
駆け出した俺だったが、目の前に立ち塞がるのは虚ろな目をしたオディル。
「――オディ」
瞬間、黒い影が動き、剣が振り下ろされる。
「うわっ!」
俺は辛うじてそれを避けた。服の袖が切れ、左腕に僅かに血が滲む。速い。
「――武器よ」
俺は素早く後に下がりながら唱えた。
手の中のズシリとした重み。
剣と斧なら斧の方が有利なはず!
――狙うは武器破壊!
「おおおおおお!!」
斧を振り上げる――が、それよりも速く、剣先が頬を掠《かす》める。
「くっ……」
バラバラと金色の髪の毛が舞った。
「お姉様!!」
「来るな!」
駆け寄るモアを制止する。
「こいつは俺が――モアはベルくんを頼む!」
「で、でも」
「俺は大丈夫だから、早くベルくんを助け出すんだ!」
「う、うん」
モアの影が通路の奥へと消えて行く。大丈夫かな? でも、鏡の悪魔もついてるし、取り敢えずは目の前のこいつだ。
ブン!
風を切って大剣の一撃が飛んでくる。
俺はまたしてもそれを紙一重でかわす。速すぎて、とても目では追えない。もはや本能で避けてる状態だ。
さすが王宮で剣術を教えてただけある。思ってた以上に強い。
昔オディルに一発食らわせられたのはこいつが子供だからと油断してたからなんだろう。
本気で戦うとなると、やはり難しい。しかも、勢い余って殺したりしたら大変だし。
斧をギュッと握り直す。
「だああああっ!」
振り下ろした斧。鈍い音を立てて剣とぶつかる。いいぞ。このまま武器破壊を――
キィィィン!
「な――」
だが、器用に剣を滑らせ斧の威力を殺したオディル。
俺が再び斧を構えている隙に喉元に刃が飛んでくる。
「――くっ」
俺は咄嗟に斧を捨てた。上半身をありったけの柔軟性でしならせ攻撃を避ける。剣が引く。その隙に、オディルの足に思い切り蹴りを入れた。
「ぐわっ!」
苦悶の表情を浮かべよろめくオディル。
今だ!
「はああああっ!」
腹部に
この拳を――
叩きつけるっ!
危機を察知したオディルは咄嗟に身を引く。届かない――!?
だが、俺の拳が放った風圧がオディルのみぞ落ちに直撃する。
くの字に体を折り曲げ苦悶の表情を浮かべる。
「――ガハッ!」
床に膝をつくオディル。そして吐き出したのは――透明なウミウシみたいな軟体生物。
「ゴホッ……ガハッ……ここは――」
「オディル! 正気に戻って――!?」
やはり、あのウミウシみたいなのがオディルを操っていたのか。
「ここは海の中の城だ」
「そうか。……そうだ、俺は悪魔がいると聞いて――」
オディルが顔をしかめる。
どうやらオディルはここに悪魔目当てに来たらしい。
何なんだろう。こいつ、悪魔祓いか何か何だろうか?
「君たちは、どうしてここへ?」
どうしてって、ベルくんを追って――
「そうだ! ベルくんが危ないんだった! 早く行かなきゃ!」
俺はそう言うと、海の悪魔とモアを追いかけて暗い通路へと走り出した。
「あ、おい!」
背後でオディルの声が響く。
モア……ベルくん……無事でいろよ!
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