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4.お姉様と水の都セシル
106.お姉様とセラスの思い出
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「これ、お兄様?」
モアが俺の顔を見て小声で尋ねる。
俺はハッと顔を上げた。
「あ、ああ。言っただろ? セラスはレオ兄さんの婚約者候補の内の一人だったって」
「そっか、それで」
納得した様子のモア。
俺は冷や汗を拭った。
違う。
あれは俺だ。
昔、セラスと婚約していたのは俺なんだ。
あの肖像画を送ったのも俺。婚約者となる女性の部屋に、自分の肖像画を飾って欲しかったんだ。
俺は、セラスと結婚する気だった。女の体になるまでは。
全ては遠い昔の出来事だけど……。
この事はモアには内緒にしておこうと思う。
「…………」
「お姉様?」
「あ、いや。なぁ、鏡の悪魔。もう一度、俺をオディルの姿にしてくれないか?」
俺が言うと、モアが首をかしげる。
「え? どういうこと?」
俺はゴクリと唾を飲み込むと、鏡の悪魔の顔を見つめた。
「このペンダントだけど、俺の体じゃなくて、オディルの姿でセラスに渡したいんだ。その……セラスには色々これについて聞きたいけど、俺の姿で渡すと色々気まずいだろうから」
「あ、そっか。セラスはお兄様のことがまだ好き……だけど、その事をその妹に知られたとなると恥ずかしいから、かな?」
首を傾げるモア。
「そうそう、それ!」
オディルがため息をつく。
「分かった。それならば」
「ありがとう」
「でも......今度は変なことはするんじゃないよ?」
俺の肩をがっちりと掴むオディル。痛い、痛い!
これもしかして、俺がしでかした事が、色々とバレてる――!?
「わ、分かったよー」
ドアが開き、中からロレンツ船長が出てくる。
「おっ、あんたらここにおったんか! 行くでー」
爽やかな笑顔。
「は、はい」
結局グレイスとはどうなったんだろう。
俺はチラリとロレンツの顔を見る。ロレンツは相変わらず人のいい笑顔を浮かべたままだ。
「お、なんや、ナンパか?」
「ち、違います」
「あ、そかそか。オディルは女の子やのーて、ショタっ子が好きなんやっけ?」
ロレンツが大きな声で言うので、俺は思わずずっこけそうになる。
「お、お姉様が、ショタコン!?」
モアの顔がサーッと青くなる。
「ま、まさか、ベルくんと」
「ち、違う違う!」
弁解する俺の横で、オディルが大きくため息をついた。
「何か、また変なことになってない?」
すまない。
*
そして俺は、オディルの姿になり、謁見室でセラスと謁見した。
「それで、ベルくんの行方は分かったの?」
セラスが気軽に話しかけてくる。
俺は即座に理解した。
なぜただの冒険者であるオディルがそんなに簡単にセラスに会う許可が得られたのかと不思議に思っていたが、オディルは、セラスにベルくんを連れ戻すように頼まれていたのだ。
「はい。居場所は分かりましたが、
ベル……様は冒険者になるので戻りたくないと」
「そう、困った子ね」
「それでこれを預かったので」
俺が金のペンダントを見せると、セラスが息を飲んだ。
「ありがとう。これは私の大事なものなの。まさかベルくんがこれを持っていただなんて」
セラスはぎゅっとペンダントを抱きしめると、俺の方を真っ直ぐに見た。
「あなた、この中身を?」
「…………」
言葉に詰まった俺を見て、セラスは息を吐き出す。
「見たのね、その反応は」
「す……すまん」
「このことは、他の人には」
「はい、内密にしておきます」
俺がそう言うと、セラスは窓の外を見つめた。
「これはね、私の初恋の人が下さった物なの」
遠い目をするセラス。
「ちょうどあの木の辺りかしら? このお城の裏庭で……その日はとても晴れた日で、ブーゲンビリアが沢山咲いていたわ。その人は私の髪にブーゲンビリアの花を飾って美しいと言ってくださったわ」
「そうだった……のか」
俺は遠い記憶を思い出す。
二人で眺めた海を。夕日を。揺れるヤシの木を。彼女にプレゼントしたピンクのブーゲンビリアの花を。銀色の髪の少女のことを。
「私は、自分の婚約者は金髪で緑の目だとだけ聞いていたわ。そしてその方も金髪で緑の目だったの。だからてっきりその方が婚約者だと思っていたんだけど……でも実際には、私の婚約者はその方のお兄さんで」
窓の外にはあの時と同じ中庭と、その向こうには海が輝いているわ、
「二人は顔はそっくりだったわ。でも、私が好きだったのは婚約者の彼じゃなかったの。それで婚約は断ったんだけど、それ以来彼の家とも疎遠になっちゃって」
俯き、少し笑うセラス。
「そうか」
俺が女になることで、少しずつ記憶は改変され、辻褄が合わされた結果、そういう事になってしまったのだろう。何とも不思議だ。
「ふふ、なんだか不思議ね。あなた相手だと、余計なことまでついつい話してしまうわ」
微笑むセラス。
「大丈夫だ! 俺は誰にも言わないし、何なら辛いこととかどんどん話してくれ!」
俺が言うとふふふ、と、セラスは目を細める。
「ありがと。あなたを見てると、誰かさんを思い出すわ」
優しい笑顔。
でも、ごめんな。その誰かさんはもう、女として生きると決めたんだ。
だからセラス、申し訳ないけど、他の男と幸せになってくれよな!
モアが俺の顔を見て小声で尋ねる。
俺はハッと顔を上げた。
「あ、ああ。言っただろ? セラスはレオ兄さんの婚約者候補の内の一人だったって」
「そっか、それで」
納得した様子のモア。
俺は冷や汗を拭った。
違う。
あれは俺だ。
昔、セラスと婚約していたのは俺なんだ。
あの肖像画を送ったのも俺。婚約者となる女性の部屋に、自分の肖像画を飾って欲しかったんだ。
俺は、セラスと結婚する気だった。女の体になるまでは。
全ては遠い昔の出来事だけど……。
この事はモアには内緒にしておこうと思う。
「…………」
「お姉様?」
「あ、いや。なぁ、鏡の悪魔。もう一度、俺をオディルの姿にしてくれないか?」
俺が言うと、モアが首をかしげる。
「え? どういうこと?」
俺はゴクリと唾を飲み込むと、鏡の悪魔の顔を見つめた。
「このペンダントだけど、俺の体じゃなくて、オディルの姿でセラスに渡したいんだ。その……セラスには色々これについて聞きたいけど、俺の姿で渡すと色々気まずいだろうから」
「あ、そっか。セラスはお兄様のことがまだ好き……だけど、その事をその妹に知られたとなると恥ずかしいから、かな?」
首を傾げるモア。
「そうそう、それ!」
オディルがため息をつく。
「分かった。それならば」
「ありがとう」
「でも......今度は変なことはするんじゃないよ?」
俺の肩をがっちりと掴むオディル。痛い、痛い!
これもしかして、俺がしでかした事が、色々とバレてる――!?
「わ、分かったよー」
ドアが開き、中からロレンツ船長が出てくる。
「おっ、あんたらここにおったんか! 行くでー」
爽やかな笑顔。
「は、はい」
結局グレイスとはどうなったんだろう。
俺はチラリとロレンツの顔を見る。ロレンツは相変わらず人のいい笑顔を浮かべたままだ。
「お、なんや、ナンパか?」
「ち、違います」
「あ、そかそか。オディルは女の子やのーて、ショタっ子が好きなんやっけ?」
ロレンツが大きな声で言うので、俺は思わずずっこけそうになる。
「お、お姉様が、ショタコン!?」
モアの顔がサーッと青くなる。
「ま、まさか、ベルくんと」
「ち、違う違う!」
弁解する俺の横で、オディルが大きくため息をついた。
「何か、また変なことになってない?」
すまない。
*
そして俺は、オディルの姿になり、謁見室でセラスと謁見した。
「それで、ベルくんの行方は分かったの?」
セラスが気軽に話しかけてくる。
俺は即座に理解した。
なぜただの冒険者であるオディルがそんなに簡単にセラスに会う許可が得られたのかと不思議に思っていたが、オディルは、セラスにベルくんを連れ戻すように頼まれていたのだ。
「はい。居場所は分かりましたが、
ベル……様は冒険者になるので戻りたくないと」
「そう、困った子ね」
「それでこれを預かったので」
俺が金のペンダントを見せると、セラスが息を飲んだ。
「ありがとう。これは私の大事なものなの。まさかベルくんがこれを持っていただなんて」
セラスはぎゅっとペンダントを抱きしめると、俺の方を真っ直ぐに見た。
「あなた、この中身を?」
「…………」
言葉に詰まった俺を見て、セラスは息を吐き出す。
「見たのね、その反応は」
「す……すまん」
「このことは、他の人には」
「はい、内密にしておきます」
俺がそう言うと、セラスは窓の外を見つめた。
「これはね、私の初恋の人が下さった物なの」
遠い目をするセラス。
「ちょうどあの木の辺りかしら? このお城の裏庭で……その日はとても晴れた日で、ブーゲンビリアが沢山咲いていたわ。その人は私の髪にブーゲンビリアの花を飾って美しいと言ってくださったわ」
「そうだった……のか」
俺は遠い記憶を思い出す。
二人で眺めた海を。夕日を。揺れるヤシの木を。彼女にプレゼントしたピンクのブーゲンビリアの花を。銀色の髪の少女のことを。
「私は、自分の婚約者は金髪で緑の目だとだけ聞いていたわ。そしてその方も金髪で緑の目だったの。だからてっきりその方が婚約者だと思っていたんだけど……でも実際には、私の婚約者はその方のお兄さんで」
窓の外にはあの時と同じ中庭と、その向こうには海が輝いているわ、
「二人は顔はそっくりだったわ。でも、私が好きだったのは婚約者の彼じゃなかったの。それで婚約は断ったんだけど、それ以来彼の家とも疎遠になっちゃって」
俯き、少し笑うセラス。
「そうか」
俺が女になることで、少しずつ記憶は改変され、辻褄が合わされた結果、そういう事になってしまったのだろう。何とも不思議だ。
「ふふ、なんだか不思議ね。あなた相手だと、余計なことまでついつい話してしまうわ」
微笑むセラス。
「大丈夫だ! 俺は誰にも言わないし、何なら辛いこととかどんどん話してくれ!」
俺が言うとふふふ、と、セラスは目を細める。
「ありがと。あなたを見てると、誰かさんを思い出すわ」
優しい笑顔。
でも、ごめんな。その誰かさんはもう、女として生きると決めたんだ。
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