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4.お姉様と水の都セシル

104.お姉様と目的の品物

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 巨大カラスは、グレイスに狙いを定めた。
 
「くっ」

 グレイスは銃を放つも、厚い羽毛に阻まれる。巨大カラスは止まるどころかそれによってますます逆上したように、甲高い鳴き声を放つ。

「ギョワーッ!!」

 空気を震わす鋭い鳴き声に、思わず身を固くするグレイス。

 鋭い爪がグレイスに迫る。

「グレイスーッ!!」

 駆け寄ったのは、ロレンツだった。
 ロレンツがグレイスに抱きつくようにして身を伏せさせると、その上方をカラスの爪が掠める。

「あ、あんた!」

「逃げろ!」

 ロレンツが一喝する。
 空を旋回し、再び二人に狙いを定める巨大カラス。

「嫌だね! あんたに庇われたままだなんて!」

 銃を構えるグレイス。

「そんなこと言ってる場合か!」

 ロレンツがグレイスの腕を引く。

「放せっ」

「馬鹿! 逃げるぞ」

 そんなやり取りをしている内に、カラスの爪は迫ってくる。

「危ない!」

「うぉぉぉぉぉぉ」

 その瞬間、雄叫びが上がった。

 マリンちゃんだ。マリンちゃんが、凄い形相でこちらへ走ってくると、カラスにタックルを食らわせたのだ。

「――ンがぁ!!」

「ぎょエッ!!」

 フラフラとよろめく巨大カラス。

「二人とも、今の隙に逃げて!

「あ、ああ」
「すまん」

 マリンちゃんの必死の形相に我に返った二人。
 グレイスとロレンツは互いの船へと急いで帰っていく。

 だがそのマリンちゃんの背後に、巨大カラスが迫っていた。

「くっ」

 俺は手を伸ばした。

「武器よ――」
 
 俺は斧を手に走った。ここからならカラスの背後を狙える。

「でやああ!」

 斧は空を切り地面に突き刺さる。カラスが横に飛んだのだ。

「逃がすもんかっ!」

 俺は地面に突き刺さった斧を支点にぐるりと回った。そしてその勢いのまま、カラスに回し蹴りを食らわせた。

「ギョアアアアッ!!!!」

 体をバタつかせ悶え苦しむカラス。黒い巨大な羽根があちこちに散らばる。

「よし、今の隙に!」

 俺がカラスの巣に視線をやると、そこには巣に駆け寄るベルとオディルの姿があった。


「あいつら!」

 そう、俺たちが二手に別れたのと同じように、ロレンツ海賊団も北側と東側の二手に別れていたのだ。

「ちいっ!」

 まずいっ、向こうの方が近い。巣のすぐ横だ。オディルが鳥の巣に手を伸ばす。

 どうしよう。先を越される――!

 
「うおおおおおおおお!!」

 俺は思い切り地面を蹴り上げた。

「お姉様!?」
「お姉様、空を飛んで!?」

「ふんがっ!」

 そして俺は思い切りジャンプすると、カラスの巣にしがみついた。

「ど、どれだっ!」

 目の前にはカラスの巣。のぞき込むと、予想通り、木の枝で出来た巣の中には、色とりどりの貴金属がひしめいていた。全部この鳥が集めてきたものなのだろう。

「あった、これだ」

 俺はピンクサファイアのブローチを手に取った。大きさも輝きも他の宝石とは段違いなのですぐに分かった。

「ふっふっふ、悪いな、オディル。先を越させて貰ったぜ」

 俺は隣にいたオディルに笑いかけた。

「えっ?」

 オディルが怪訝そうな顔をする。
 「えっ」と言われても……

 そこへベルくんも後から走ってくる。

「えやっと着いた! 例のものは――」

 ベルくんは巣をゴソゴソと探ると、小さな水晶玉のついた指輪を取り出す。

「これじゃない」

 ベルくんは指輪を投げ捨てる。パリン、と水晶玉が割れる。
 
「これでもない。どこだろう?」

 ポイポイと指輪を手に取っては投げ捨てていくベルくん。

「おいおい」

「あった! これだ!」

 ベルくんは、いくつもの指輪を投げ捨てたのち、一つの指輪を手に叫んだ。

 その手にあったのは、琥珀をあしらった小さな指輪。

「ええと、ベルくんたちの探してた品はそれ?」

 ぱちくりと瞬きをする俺を、ベルくんはコクンと頷いた。

「ううん。 僕たちの探してる品はグレイスが持ってる。これはグレイスの捜し物なんだ。これを見つけたら僕の望みの品と交換してくれるって」

 ってことは、初めから俺たちの目的の品は違ってたってことかよ!?

 何だそれ!!


「なるほど、そういうことかいな」

 背後からため息とともに声。

「ロ、ロレンツ船長!」

 振り向くと、そこにいたのは呆れ顔をしたロレンツ船長だった。船に戻ったんじゃなかったのか!

 というか……しまった! 今の話を聞かれて……


「いや、そう構えんでも、実はお前たちが、何らかの目的でこの船に潜入していたことは前々から知っとった」

 な、なんだって!?

「知った上で、泳がせてたってことか」

「そうや。悪いが、何回かベルくんやそこのお嬢ちゃんたちの尾行もさせてもろうた」

 まさか尾行までされていたとは。

「ベルくんたちがグレイスと繋がってるっちゅーことは分かってたが、その目的は分からんかった。でもあの島でカラスの巣から何か取ってるのを見て、ピーンときたんや」

 ロレンツの顔が急に真面目になる。

「なあ、あの指輪、ちょっと見せてくれへんか?」

 ベルくんビクリと肩を震わせると、おずおずと腰に下げていた袋から指輪を取り出した。

 ベルくんから指輪を受け取ったロレンツは、琥珀色に光る指輪をマジマジと見ると、ため息をついてベルくんにそれを返した。

「なるほど」

 何が分かったというのだろう。
 俺がロレンツの顔をじっと見ていると、急にその顔が子供のように輝きだす。

「せや! お前たち、これからグレイスにその指輪を渡しに行くんやろ? そんなら俺も、そこについていくわ!」

「えっ?」

 唖然とするベルくんの背中を愉快そうにポンポンと叩くロレンツ。

 俺はロレンツの顔をマジマジと見た。
 どういう事だ? 

「互いに根回ししたところでらちがあかん。いい機会や。グレイスとの直接対決といこう」

 そう言ってロレンツはウインクをした。


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