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4.お姉様と水の都セシル

101.お姉様とカラスの巣

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「巨大カラスがお宝を盗んでいた?」

 俺たちの推理をアンにしたところ、アンは信じられないという表情で天井を仰ぎ見た。

「確かに、ここ最近あの鳥を良く見かけるし、船が襲われることも度々ありましたが」

「でも船中探してもどこにも無かったし、それしか考えられない」

「そうだよ、カラスはピカピカしたもの集めるの好きだもん」

 俺とモアが言うと、アンはため息をついた。

「一応グレイス船長には伝えておきます」


 そしてその日は何事もなく終わったのだが、明くる日、グレイスは突然船員を呼び出し宣言した。

「これから、巨大カラスの巣がある島へ向かう!」

 船員たちが驚きに目を見開く。

 グレイスが言うにはあくまでこれは「宝探し」の一環で、カラスは光るものを集める習性があるからカラスの巣がある島には宝物がたくさんあるに違いない、という言い分だった。

「本当にそんな所にお宝が?」
「危険じゃないの?」
「船とか襲った方が早くない?」

 船員たちは不満げだ。

「よっぽどそこに手に入れたいお宝があるんでしょうね」
「まあ、船長の気まぐれは今日に始まった事じゃないから」

 マリンちゃんやメリッサも不思議そうな顔をする。

 とは言え船長の命令は絶対なので、船では翌日から巨大カラスの巣探しが始まった。
 小船であちこち探し回ったり、街や飲み屋で聞き込みをしたり。
 そしてついに、近くの島にそれらしき巣があるとの情報を得た。

「それがこの島だ」

 グレイスが地図を指さす。
 その場所はグレイス海賊団とロレンツ海賊団の縄張りにちょうど跨るようにしてある小さな無人島だ。

「ロレンツ海賊団の縄張りの近くね」

 メリッサが眉を顰める。

「何もなきゃいいんだけど」

 マリンちゃんも不安げだ。

「何、もしやつらがゴチャゴチャ言ってきたらぶっ飛ばせばいいんだ! なあ」

 急に俺に話を振ってくるグレイス。

「あ、ああ」

 俺は適当に話を合わせる。

「よし、そうと決まったら、早速明日にでも出航しよう!」

 グレイスの掛け声で船員は解散する。

「明日?」
「随分急だね」

 そんな声があちこちから聞こえてくる。

「確かに急だね。何でそんなに急ぐんだろう」

 モアが首を傾げる。

「確かにな」

 すると壁にもたれかかっていたアンが手招きする。

「どうしたんだ?」

「ベルくんから伝書鳩で連絡が入ったんです。ロレンツ海賊団も明日カラスの巣島へと出発するって」

 どうやら俺たちに尾行されたことを反省し、ベルとアンは今は伝書鳩でやり取りをしているらしい。

「えっ?」

「同じ日に? そんな偶然が」

「偶然じゃない」

「ってことは」

「こちらの船の情報が漏れてるってことか」

「ベルが知らせたんじゃないよな?」

「いや、ベルくんはこちらの味方なはずです」

 じゃあ、一体誰が?




「うっわ、すっげー嵐だな! これ本当に出航すんのか?」

 翌日、窓から外を見るとそこには、バケツをひっくり返したような土砂降り。

「あちゃー」

 アンもバシャバシャ降り注ぐ水に頭を抱えている。

「あたい、船長に本当に出発するのか聞いてきます!」

「あ、俺も行くぜ」
「私も!」

 俺とモアも後に続く。

 と、廊下で丁度メリッサとマリンちゃん、グレイス船長が話しているのが目に入る。

「本当にこの雨の中行くんですか?」

「ああ。ロレンツ海賊団も今日、例の島に向かうとの情報があった。奴らにだけは先を越される訳にはいかない」

 どうやら嵐の中を出航するようだ。

「大丈夫ですかね」

 不安そうな顔をするアン。

「なんでそんなに急ぐのかな」

 モアが不思議そうな顔をする。

「そりゃ、ロレンツたちに先を越されないためだろ」

「先を越されたら何で嫌なの?」

「それは、因縁の相手だからでしょう」

 アンが代わりに答える。

「意地ってやつですよ」

 そういうもんなんだろうか。

「錨をあげるわよ!」
「誰か手伝って!」

 そうこうしている内にこちらに声がかかる。

「ああ、今行く!」

 こうして、海賊船は嵐の中出航した。





「面舵《おもかじ》、いっぱーーい!」

 グレイスの掛け声が響く。
 俺たちは部屋に戻り、つかの間の休憩時間を過ごしていた。

「何だか凄く揺れるね」

 モアが不安げに辺りを見回す。
 船は大きく上下左右に揺れ、落ち着いて座ることも出来ない。

「でも最新式の大きな船ですから、そう簡単に転覆はしませんよ」

「ならいいけど」

「それよりも、嵐の日には出るって噂があるんです!」

 アンがニヤリと笑う。

「で、出る?」

 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。

「幽霊船ですよ、幽霊船!!」

 イヒヒと笑うアン。や、止めてくれよー。

「幽霊船が出るの?」

 モアが興味津々な顔でアンに尋ねる。

「ええ。噂によると、セイレーンによって海に引きずり込まれた亡者たちの化身だとか、呪われた宝のせいで成仏できない霊だとか」

「ひえー」

 思わず声を上げる俺を見て、アンは首を傾げる。

「お姉様、まさか、幽霊が怖……」

「ま、まさかっ! そんな訳ないだろ!!!!」

 俺は思わず立ち上がる。

「お姉様、どこか行くの?」

「そ、外の風を浴びに行ってくるぜ!」

「嵐なのに!?」

 俺はドタドタと足音を立てて部屋を出ると、甲板へと向かった。そこではレインコートを着た三人の船員が双眼鏡で見張りを行っている。

「あっ!」

 そのうちの一人が声を上げる。よく見ると、それはグレイスだった。

 良くやるよ。雨なんだし、見張りなんて下っ端に任せておけば良いのに。

「あれは、島だ!」

 何っ。

「えっ、どれどれ」

 俺は雨の中双眼鏡を覗いているグレイスに駆け寄った。

「ほら、あれだ」

 確かに、海の向こうに薄ぼんやりとした緑色の陸地が見える。

「おお、あれか!」

 思わず身を乗り出す。

「キャーーッ!!」

 すると急に女の子の悲鳴が上がった。別の方角を見張っていた船員の声だ。
 
 雷鳴が響く。雨はますます強くなる。

 揺れる甲板の上、俺とグレイスは腰を抜かしている女の子の方へと走った。

「どうしたんだ?」

「ゆ、ゆ、ゆ……幽霊船が!!」

 腰を抜かしガクガクと脚を震わせる船員の女の子。

「ゆ、幽霊船?」

 恐る恐る指をさす方向を見やる。すると、いつの間にか立ち込めていた霧の向こうから真っ黒な影が現れた。

 だんだんと近づいてくるその影は船の形をしていた。折れたマスト、穴の空いた船体、そしてボロボロの旗にはドクロマーク。

 轟音とともに、稲光が不気味に光った。

「ぎゃあああああああ!!」

 本当に出た! 幽霊船!!


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