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4.お姉様と水の都セシル

87.お姉様とキラーフィッシュ

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「きゃああああ! モンスターよぉ!」
「キラーフィッシュだわ!」
「嫌ぁ! あっち行けっ!」

 女の子たちの叫び声があたりに響く。

「どうした!」

 甲板につくとそこはマグロみたいにデカくて、トビウオみたいに羽のついた魚で溢れかえっていた。

「――シャアッ!」

「うわっ!」

 魚が、まるで刃のように次々飛んできて、食いつこうとする。

「なんだこいつ!」

 咄嗟に両手で捕まえる。銀色の羽をバタバタと動かした真っ赤な目の魚が、サメみたいに尖った歯をカチカチ言わせている。

「うわ、なんだこいつ、キモい魚!」

 アンが虫取り網を手に目を見開く。

「お姉様凄い! キラーフィッシュを捕まえるなんて!」

 そんなに凄い事なのだろうか。確かに歯が危ないし、すばしっこいけどさ。

「とにかくこいつを退治すればいいんだな?」

 俺はコキコキと指を鳴らした。

「お姉様、武器は?」

 モアが俺の顔を心配そうに見やる。

「……あれっ?」

 しまった! 邪魔になるからと調理場の隅に寄せて、そのまま置いてきちまった!

「しょうがねぇ!」

 俺は仕方なくその辺に転がっていたデッキブラシを手に取った。
 素手でも闘えることは闘えるが、手が生臭くなるのは嫌だからな。

「せやっ!」

 ――ブン!

 空を切る音に合わせ、ボトボトと魚が降り注ぐ。

「へえ、やるわネ」

 マリンちゃんがウインクする。

「では私も……はあああッ!」

 両手でがっしりと魚を掴むと、握りつぶすマリンちゃん。ムキムキの上腕二頭筋が凄い。いや、凄いけど、なんだか凄く効率悪くないか?

「でも、これじゃらちがあかないぜ。モア、何かいい魔法はないのか?」

 俺はデッキブラシをぶん回しながら叫ぶ。

「ちょっと待ってね、お姉様」

 ペラペラと魔導書をめくるモア。

「あ、あった。森よ風よ漂う千の霊気……」

 モアのくまさんロッドが光り、風が吹き上がる。

「トルネーード!!」

 途端、辺りに渦を巻いた風が巻き起こる。
 風の刃で切り刻まれていく魚たち。

「きゃあ!」
「な、なんだよこれ!」

 帽子や髪の毛、スカートを抑える船員たち。

 風魔法!? 火や水の魔法よりは威力が弱いようだが。

 見る見るうちに甲板に魚の切り身が積み上げられていく。

「モア……これは」

「えへへー、新しい魔法、試してみちゃった」

「凄いぞ!」

 周りでは、船員たちが大急ぎで魚の切り身を拾い集めている。

「沢山あるわね」
「今日の晩御飯にしましょ!」

 げげっ、あれ、食うのかよぉ。

 横にいたマリンちゃんはポカンと口を開ける。

「あなた達、何者?」

 やっべぇ。ちょっと目立ちすぎたか。
 俺は笑って誤魔化す。

「あはははは。ちょーっと魔法が使えるだけだよ」

 視界の端で、グレイスが微かに眉を上げたのが見えた。
 ヤバい。何か、警戒されてる?

「なるほど、ミアちゃんは怪力で、モアちゃんは魔法が使えるのね」

 マリンちゃんがふむふむと頷く。

 グレイスがそれを聞きやってくる。
 俺はその眼光にたじろぎ一歩下がった。

「ふむ。マリン、この者たちには実力があると?」

 グレイスに聞かれたマリンちゃんはモジモジしながら答えた。

「はい……なんて言うか、他の人たちとは、オーラからして違うというか」

「ふーん」

 グレイスが再び俺たちを見つめる。
 俺は冷や汗をかきながら一歩下がった。

「そんなに強いんなら、今度戦闘に連れて行ってみるか」

 ニヤリと笑うグレイス。

「戦闘?」

「ああ」

 鋭く光る琥珀の瞳。グレイスはサラリとこう言った。

「今度、商船を襲いにでも行こうじゃないか

 まるでその辺の飲み屋にでも誘うみたいに。
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