73 / 139
3.お姉様と木都フェリル
72.さらば木の都
しおりを挟む
それから、アオイとヒイロは慌ただしく旅立ち、セリィは代わりの神父が来るまで教会で人々を癒したり、孤児院の子供たちの世話をしているらしい。
「代わりの神父が来たらどうするんだ?」
「そうだな。私も旅にでも出ようかな。この600年で、世界は色々変わったみたいだ。昔はただの森の中にある村だったフェリルも、こんなに立派な街になって――」
セリィは少し遠い目をした後、俺たちに尋ねた。
「それで、あなた達はこれからどうするんだ?」
「俺たちは――」
*
「モア、そっち行ったぞ!」
「お姉さま任せて! ファイアー!」
モアの魔法が火を噴く。木にぶら下がったリンゴの形をしたモンスターが丸焦げの焼きリンゴになった。
「よっしゃ、これで全て撃退したな!」
「クエスト達成!」
クエスト達成の報告を冒険者協会にしに行く。
「クエスト達成おめでとう。ポイントも大分溜まってきたし、この分だとBランク冒険者にもすぐ上がれるんじゃないかしら」
エルさんが微笑みながら冒険者カードを手渡してくれる。
「それにしても、あなたたち、凄い噂になってるわよ。満月の夜、白いドラゴンに乗って空を飛んでるのを何人もの人が目撃してるし、私もこの目で見たもの。あれは一体――」
「あはは、なんか成り行きでそんな風になっちまって」
困って頭をかく俺に、エルさんが説明してくれる。
『オルドローズが言うことにゃ、満月の夜、町に再び勇者が訪れる。それは美しいお姫様。白いドラゴンに跨って、町を青い薔薇で染める――』
それがこの町に伝わる伝承。オルドローズが死の間際にこの町に勇者が現れることを予言したというのだ。
「みんなそれが貴女だって言ってるわ」
「お姉さますごーい」
「よせよ、大袈裟だな」
俺はため息をついた。確かに、その予言が俺のことを言ってるんだったらこんなに嬉しいことは無いが、あまり目立ちすぎるのも困る。いつどこで追手が来るかもわからないし。
「そろそろ、この場所も離れなきゃなんないかもな」
俺は、さらに別な土地へと旅立つことを決意した。
*
そして旅立ちの日、荷物を用意していると、マロンがバタバタと走ってくる。
「本当に行ってしまうのね」
うつむき、目に涙を溜めるマロン。やがて彼女は、決心したように叫んだ。
「お姉さま、私も連れて行って下さい!」
だが俺は、残念だけどその申し出を断った。
「いや、悪いけど、危ないし連れていけないよ」
「そうだよマロン、お父様からもエリスに帰ってこいって手紙も来てるしよ」
ゼットもマロンを諭す。
マロンはしゅん、とうなだれる。
「そうよね。仕方ないわよね。私じゃ足でまといになるし」
マロンは涙を拭くと、笑顔を作った。
「お姉さま、また遊びに来てね! お手紙沢山書くから!」
「ああ。俺も書くよ」
俺は力強く頷き、玄関を出た。
モアと一緒に大きく手を振る。
「バイバイ! 二人とも!」
手を振るマロンとゼットがどんどん小さくなっていく。
「さようなら! さようならお姉さま! また会う日まで!!」
晴れやかな青い空にそんな声が響く。
俺たちは新しい旅路へと歩き出した。
ああ、きっとまた会えるさ。そしてその時には、俺はきっと勇者になってやる。誰よりも強く、大切な人を守れる勇者に。
「代わりの神父が来たらどうするんだ?」
「そうだな。私も旅にでも出ようかな。この600年で、世界は色々変わったみたいだ。昔はただの森の中にある村だったフェリルも、こんなに立派な街になって――」
セリィは少し遠い目をした後、俺たちに尋ねた。
「それで、あなた達はこれからどうするんだ?」
「俺たちは――」
*
「モア、そっち行ったぞ!」
「お姉さま任せて! ファイアー!」
モアの魔法が火を噴く。木にぶら下がったリンゴの形をしたモンスターが丸焦げの焼きリンゴになった。
「よっしゃ、これで全て撃退したな!」
「クエスト達成!」
クエスト達成の報告を冒険者協会にしに行く。
「クエスト達成おめでとう。ポイントも大分溜まってきたし、この分だとBランク冒険者にもすぐ上がれるんじゃないかしら」
エルさんが微笑みながら冒険者カードを手渡してくれる。
「それにしても、あなたたち、凄い噂になってるわよ。満月の夜、白いドラゴンに乗って空を飛んでるのを何人もの人が目撃してるし、私もこの目で見たもの。あれは一体――」
「あはは、なんか成り行きでそんな風になっちまって」
困って頭をかく俺に、エルさんが説明してくれる。
『オルドローズが言うことにゃ、満月の夜、町に再び勇者が訪れる。それは美しいお姫様。白いドラゴンに跨って、町を青い薔薇で染める――』
それがこの町に伝わる伝承。オルドローズが死の間際にこの町に勇者が現れることを予言したというのだ。
「みんなそれが貴女だって言ってるわ」
「お姉さますごーい」
「よせよ、大袈裟だな」
俺はため息をついた。確かに、その予言が俺のことを言ってるんだったらこんなに嬉しいことは無いが、あまり目立ちすぎるのも困る。いつどこで追手が来るかもわからないし。
「そろそろ、この場所も離れなきゃなんないかもな」
俺は、さらに別な土地へと旅立つことを決意した。
*
そして旅立ちの日、荷物を用意していると、マロンがバタバタと走ってくる。
「本当に行ってしまうのね」
うつむき、目に涙を溜めるマロン。やがて彼女は、決心したように叫んだ。
「お姉さま、私も連れて行って下さい!」
だが俺は、残念だけどその申し出を断った。
「いや、悪いけど、危ないし連れていけないよ」
「そうだよマロン、お父様からもエリスに帰ってこいって手紙も来てるしよ」
ゼットもマロンを諭す。
マロンはしゅん、とうなだれる。
「そうよね。仕方ないわよね。私じゃ足でまといになるし」
マロンは涙を拭くと、笑顔を作った。
「お姉さま、また遊びに来てね! お手紙沢山書くから!」
「ああ。俺も書くよ」
俺は力強く頷き、玄関を出た。
モアと一緒に大きく手を振る。
「バイバイ! 二人とも!」
手を振るマロンとゼットがどんどん小さくなっていく。
「さようなら! さようならお姉さま! また会う日まで!!」
晴れやかな青い空にそんな声が響く。
俺たちは新しい旅路へと歩き出した。
ああ、きっとまた会えるさ。そしてその時には、俺はきっと勇者になってやる。誰よりも強く、大切な人を守れる勇者に。
0
お気に入りに追加
380
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる