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3.お姉様と木都フェリル

56.お姉様と怒りの鉄拳

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「貴様、許さねぇ!」

 俺はキッとシト神父を睨んだ。

「よくも……よくもモアに怪我させな!!」

 すると外野が叫ぶ。

「あの、俺も怪我してんだけど」
「あたしもあたしも」

 そうだっけ? まあでも、喋れるくらいだし軽傷だろう。それよりも、モアを傷つけるなんて、お天道様が許しても、この俺が許さない!!

「それはそうとして、モアを傷つけたことは許さん!」

「ククッそれがどうした! 力無きものはそうなって当然!!」

 ハイになって笑い続ける神父。ウネウネと根やら茎やらが不気味に蠢く。

「覚悟しな!」

 拳をギュッと握りしめ、異形と化した神父の元へ走る。

「でやあああああ!!」

 襲いかかる根での攻撃をかわし、拳を突き上げ思い切り神父の顎へヒットさせる。俺のアッパーは綺麗に決まり、神父は壁へと叩きつけられた。

「やったか!?」

 ゼットが叫ぶ。

「無駄さ!」

 しかし、神父は鼻から血を出しながらも瓦礫の中から起き上がる。

「ふん、いくら攻撃しようが僕にはこの魔法陣からの魔力供給が……ゲフッ!」

 が、その瞬間、神父は口から大量の血を吐き出した。

「な、何っ? 馬鹿な! 回復が!」

 神父は口を血まみれにしながら魔法陣の方へと振り返る。
 そこではアオイと、いつの間にか目を覚ましたモアがしゃがみこみ、呪文を唱えていた。

「アオイー、これでいい?」

「そうそう。ここに光属性の魔力を注ぎ込んで闇魔法を中和させてくださいね~♪」

 モアと仲良くしゃがみ込んだいたアオイが顔を上げてニコリと笑う。

「あ、この魔法陣、邪魔だったので効力消しておきましたー」

 アオイがニコリと笑う。

「お姉さまのために頑張るもん!」

 胸を張るモア。

「クソッ!」

 神父は唇をギリリと噛み締めると、木の根と化した足を尻尾のように動かし、背後の土壁を叩いた。
 背後の壁がボロボロと崩れ落ち、天井に穴が開く。神父は穴へと素早く逃げ込んだ

「あっ!」

「逃げるぞ!」
 
 ゼットとヒイロが隠し通路への階段へ急ぐ。俺は神父が逃げた穴を素手でよじ登った。

「クソッ、結構高さがあるな!」

 二人みたいに階段で追ったほうが良かったか? そんな考えが頭によぎったものの、何とか持ち前の腕力で登りきる。

 地上に出た俺がシト神父の姿を探すと、墓地を横切って森へと逃げていく姿が小さく見えた。

「クソッ、出てこい亡者よ!」

 シト神父は振り返ると、墓地に向かってそう叫んだ。

 すると、墓地からわらわらと死体がはい出てくる。しかも、この国には火葬の習慣がないらしく、皆腐っている。
 だが、思ったより怖くない。どうやら俺が苦手なのは姿が見えなくて正体不明の「オバケ」であり、ゾンビやボーンマンは平気なようだ。

「でやっ!」

 俺は襲いかかってくるゾンビの腐肉に蹴りを入れた。グチャリという音と共に腐肉の臭いがする。ウゲッ!

 するとゼットとヒイロがこちらに追いついてきたので、ここは奴らに任せて俺はシト神父を追うことにする。
 だがシト神父の後ろ姿はどんどん小さくなっていく。

 ――追いつけるか!?

 神父を追い走っていると、森の切り株に刺さっていた一本の薪割り用の斧が目に入った。

 走りながらも一気に斧を引っこ抜く。そして大きく腕を振りかぶって助走をつけると、思い切り斧をぶん投げた。

「ハハハハハ! どこを狙っているのかな?」

 斧は神父のはるか頭上へ飛んでいき、ブーメランのように弧を描いてこちらへ戻ってくる。

「フフ、この森の養分や魔力を吸えば僕はまた回復できる! そしたら」

 大きな口を開けて笑う神父。俺はそんな神父の真上に飛んだ。

「そしたら何だって?」

 神父の頭上で掲げた俺の右手に、斧がパシリと子気味のいい音を立てて納まる。

 そしてそのまま、俺は斧を重力のままに下ろし、神父をぶった切った。

「うぎゃあああ!!」

 真っ白な光が辺りを包む。真っ二つになりながら地面の上でのたうち回る神父。


 俺は神父に突き刺さった斧を抜いた。森の魔力を吸っているためか、半分に割れた神父の体は見る見るうちに再生していく。

「よくやった。あとは任せ……」


 そう言いながら走って来たのはヒイロだった。

「ヒイロ!」

 ヒイロは刀を構え、ぐるりと回す。刀に赤い炎が宿る。


 しかし、俺は再びシト神父に向かって飛び、思い切り突きを食らわせた。だって、距離的に俺が攻撃した方が早いし。

「うぎゃああああああ!!」

 再生しかけていたシト神父の体が粉々に砕け散る。

「おいこら!」

 ヒイロが怒る。毎度毎度タイミングが悪いんだよ。

「やりました!?」

 アオイ、モアも走ってくる。

「ああ」

 神父だったモノの残骸に近寄る。手を触れると、その亡骸はサラサラと砂になって崩れ落ちた。

「終わったぜ」

 森の奥で木々が燃えるように煌めく。
 いつの間にか辺りは朝焼けに包まれていた。俺はほっと息を吐き出した。

「帰ろうか」

 こうして、俺たちはマロンの別荘へと帰った。

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