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3.お姉様と木都フェリル
48.お姉様と裏庭のモンスター
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そんなこんなで俺たちは中庭を臨むテラスへと移動した。
「元々この別荘は五年近く使われていなかったんだけど、久々に来てみたら、たった五年放っておいたとは思えないほど荒れ果ててたの」
マロンがため息をつく。
「しかも元々この辺りにはいなかったモンスターまでうようよ湧き出して」
ゼットも神妙な顔をする。
「そうなのか」
俺たちはマロンの淹れたお茶をご馳走になりながら話を聞いた。
目の前では使用人たちがジャングルと化した庭で必死に草刈りをしているが、刈っても刈っても草が伸びてきて、次の日にはまた元通りになっているのだそうだ。
「この庭も昔は美しい庭園だったのに」
ため息をつくマロン。
「そうなんだぜ! 俺は昔この美しい中庭で、マロンにプロポーズしたんだ!」
胸をはるゼット。しかし、マロンは眉間に皺を寄せた。
「そうだったかしら? 覚えてない」
見るからにしゅんとするゼット。何だか可愛そうだ。
「それで? モンスターも出るんだ」
「ええ。この辺りはそうでもないけど、裏庭辺りは酷いわ。きっとどこかにモンスターの巣でもあるのよ。夜には家の中にも出るし」
「なるほど、夜にモンスターが沢山出るんだな」
俺がそう言うと、マロンは手を叩いて立ち上がった。
「そうだ! 二人もこの別荘に泊まればいいわ。そうしたら夜に出てくるモンスターにも対応できるし! ね?」
うっ、それは確かにありがたい。宿代もそろそろ底をつきそうだし。ちろりとモアのほうを見る。
「いいんじゃないかな」
モアはあっさり頷く。
「そう、じゃあ二人の部屋を使用人に用意させなきゃ。お姉さま、私がお姉さまのこと、隅から隅までお世話してあげる。うふふ」
立ち上がったマロンにモアが呼びかける。
「モア、お姉さまと同じ部屋がいい!」
「え? でも、部屋も沢山余ってるし」
「お姉さまと一緒がいい!」
全くもう~! モアったら!
「分かったわ。新しい部屋を一部屋用意させるね」
根負けしたようにため息をついたマロンは、部屋を用意するため席を立った。
モアは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「良かった。お姉さまが襲われたら大変だもん。えっと、テーソーの危機? ってやつ?」
モア、そんな言葉、どこで覚えたんだ?
「襲うってマロンがか? それはないと思うぞ」
俺がそう言うと、モアはしゅんとする。
「だって、マロン凄く本気なんだもん。お姉さまが取られちゃう......」
「なんだそんなことか。心配しなくても、俺は誰にも取られやしないって」
「本当?」
くぅー、モアのやつ、お姉ちゃんを取られるのが嫌だなんて、可愛いなあ。
「なあ、お前らさあ、なんつーかこう、仲良すぎねえ?」
しばらくその様子を見ていたゼットが呆れ顔をする。
「そうか? 妹を愛するのは普通だぜ」
「そ、そうだよ! 姉妹なんだから、お姉さまを好きなのは当然なんだから!」
ゼットは苦笑する。
「いや、それにしたってさ、限度ってものが」
全く、ゼットは何を言ってるんだろう。俺は心が男だから男と恋愛するのは嫌だ。かといって女の体のまま女の子と付き合うのもピンとこない。
でも家族を愛するのは当然だから、モアを好きなのは普通の事だ。そうだろう?
「俺には何だかそれ以上の関係に見えるけど。まあお前らがそれでいいんならいいんだけどさ。」
全く、ゼットが何を言いたいのかさっぱり分からないぜ。
それから俺たちは裏庭に行き、モンスター退治を始めた。
一角ウサギやオバケモグラ、カラスほどの大きさのキラービーや草系モンスターを倒しているうちに日が暮れてきた。
モアは炎魔法が草系や虫系のモンスターを纏めて焼き払うのにぴったりが大活躍。
ゼットも巻き付き草や人面樹を剣で勢い良く切り裂いていた。
俺はと言うと庭に落ちていた角材でオバケモグラをひたすら叩いて退治していた。
オバケモグラってのは、中型犬くらいの大きさで二足歩行をするデカいモグラなんだけど、これがなかなか攻撃力高くて厄介なんだよな。
「みんなー、晩御飯よ」
マロンが呼ぶ。日の晩餐はシェフが腕によりをかけてふるった牛フィレ肉のステーキ。
俺は王宮育ちだから、町で食べるジャンクな食事も好きだけど、やっぱこういうちゃんとしたシェフが作った料理の方が口に合う。うーん、懐かしい味!
「久しぶりにボンチャックの料理が恋しくなっちゃった」
モアがポツリと呟く。ボンチャックってのは宮廷料理人の名前で、でっぷりと太ったオッサンなんだけど、俺たちは彼の料理を食べて育ったんだ。
「みんな順調?」
マロンがお肉を切り分けながら尋ねる。
「ああ。大分退治したよ。でもなかなか減らないな」
「なんの、本番は夜だぜ」
ゼットがステーキをお代わりしながら言う。こいつ、よく食うな。
「そういや夜はモンスターが増えるんだっけ。また退治しに行かないとな」
「それにしても」
モアがフォークとナイフを置いた。どうやらあまり食欲がないらしい。もしかすると昼間魔力を使いすぎたのかもしれない。
「こんなに次から次へとモンスターが湧いてくるなんておかしいよ」
「だな。どこかに魔物の巣だとか魔力が湧き出るスポットがあってその影響かもな」
俺が言うと、ゼットも神妙な顔をして頷いた。
「じゃあ、これ食い終わったらまた退治に行くか」
それはいいんだけど……俺は鼻の頭に溜まった汗をハンカチで拭いた。なんだか全身汗まみれだ。
「その前に、俺はシャワーが浴びたいな」
そう言うと、マロンは恍惚とした笑みを浮かべた。
「それならうちの大浴場に行くといいわ! うふふ」
「モアもお姉さまとお風呂入る!」
ニコニコと笑うモアとマロン。
何だか嫌な予感がするのは俺だけか?
「元々この別荘は五年近く使われていなかったんだけど、久々に来てみたら、たった五年放っておいたとは思えないほど荒れ果ててたの」
マロンがため息をつく。
「しかも元々この辺りにはいなかったモンスターまでうようよ湧き出して」
ゼットも神妙な顔をする。
「そうなのか」
俺たちはマロンの淹れたお茶をご馳走になりながら話を聞いた。
目の前では使用人たちがジャングルと化した庭で必死に草刈りをしているが、刈っても刈っても草が伸びてきて、次の日にはまた元通りになっているのだそうだ。
「この庭も昔は美しい庭園だったのに」
ため息をつくマロン。
「そうなんだぜ! 俺は昔この美しい中庭で、マロンにプロポーズしたんだ!」
胸をはるゼット。しかし、マロンは眉間に皺を寄せた。
「そうだったかしら? 覚えてない」
見るからにしゅんとするゼット。何だか可愛そうだ。
「それで? モンスターも出るんだ」
「ええ。この辺りはそうでもないけど、裏庭辺りは酷いわ。きっとどこかにモンスターの巣でもあるのよ。夜には家の中にも出るし」
「なるほど、夜にモンスターが沢山出るんだな」
俺がそう言うと、マロンは手を叩いて立ち上がった。
「そうだ! 二人もこの別荘に泊まればいいわ。そうしたら夜に出てくるモンスターにも対応できるし! ね?」
うっ、それは確かにありがたい。宿代もそろそろ底をつきそうだし。ちろりとモアのほうを見る。
「いいんじゃないかな」
モアはあっさり頷く。
「そう、じゃあ二人の部屋を使用人に用意させなきゃ。お姉さま、私がお姉さまのこと、隅から隅までお世話してあげる。うふふ」
立ち上がったマロンにモアが呼びかける。
「モア、お姉さまと同じ部屋がいい!」
「え? でも、部屋も沢山余ってるし」
「お姉さまと一緒がいい!」
全くもう~! モアったら!
「分かったわ。新しい部屋を一部屋用意させるね」
根負けしたようにため息をついたマロンは、部屋を用意するため席を立った。
モアは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「良かった。お姉さまが襲われたら大変だもん。えっと、テーソーの危機? ってやつ?」
モア、そんな言葉、どこで覚えたんだ?
「襲うってマロンがか? それはないと思うぞ」
俺がそう言うと、モアはしゅんとする。
「だって、マロン凄く本気なんだもん。お姉さまが取られちゃう......」
「なんだそんなことか。心配しなくても、俺は誰にも取られやしないって」
「本当?」
くぅー、モアのやつ、お姉ちゃんを取られるのが嫌だなんて、可愛いなあ。
「なあ、お前らさあ、なんつーかこう、仲良すぎねえ?」
しばらくその様子を見ていたゼットが呆れ顔をする。
「そうか? 妹を愛するのは普通だぜ」
「そ、そうだよ! 姉妹なんだから、お姉さまを好きなのは当然なんだから!」
ゼットは苦笑する。
「いや、それにしたってさ、限度ってものが」
全く、ゼットは何を言ってるんだろう。俺は心が男だから男と恋愛するのは嫌だ。かといって女の体のまま女の子と付き合うのもピンとこない。
でも家族を愛するのは当然だから、モアを好きなのは普通の事だ。そうだろう?
「俺には何だかそれ以上の関係に見えるけど。まあお前らがそれでいいんならいいんだけどさ。」
全く、ゼットが何を言いたいのかさっぱり分からないぜ。
それから俺たちは裏庭に行き、モンスター退治を始めた。
一角ウサギやオバケモグラ、カラスほどの大きさのキラービーや草系モンスターを倒しているうちに日が暮れてきた。
モアは炎魔法が草系や虫系のモンスターを纏めて焼き払うのにぴったりが大活躍。
ゼットも巻き付き草や人面樹を剣で勢い良く切り裂いていた。
俺はと言うと庭に落ちていた角材でオバケモグラをひたすら叩いて退治していた。
オバケモグラってのは、中型犬くらいの大きさで二足歩行をするデカいモグラなんだけど、これがなかなか攻撃力高くて厄介なんだよな。
「みんなー、晩御飯よ」
マロンが呼ぶ。日の晩餐はシェフが腕によりをかけてふるった牛フィレ肉のステーキ。
俺は王宮育ちだから、町で食べるジャンクな食事も好きだけど、やっぱこういうちゃんとしたシェフが作った料理の方が口に合う。うーん、懐かしい味!
「久しぶりにボンチャックの料理が恋しくなっちゃった」
モアがポツリと呟く。ボンチャックってのは宮廷料理人の名前で、でっぷりと太ったオッサンなんだけど、俺たちは彼の料理を食べて育ったんだ。
「みんな順調?」
マロンがお肉を切り分けながら尋ねる。
「ああ。大分退治したよ。でもなかなか減らないな」
「なんの、本番は夜だぜ」
ゼットがステーキをお代わりしながら言う。こいつ、よく食うな。
「そういや夜はモンスターが増えるんだっけ。また退治しに行かないとな」
「それにしても」
モアがフォークとナイフを置いた。どうやらあまり食欲がないらしい。もしかすると昼間魔力を使いすぎたのかもしれない。
「こんなに次から次へとモンスターが湧いてくるなんておかしいよ」
「だな。どこかに魔物の巣だとか魔力が湧き出るスポットがあってその影響かもな」
俺が言うと、ゼットも神妙な顔をして頷いた。
「じゃあ、これ食い終わったらまた退治に行くか」
それはいいんだけど……俺は鼻の頭に溜まった汗をハンカチで拭いた。なんだか全身汗まみれだ。
「その前に、俺はシャワーが浴びたいな」
そう言うと、マロンは恍惚とした笑みを浮かべた。
「それならうちの大浴場に行くといいわ! うふふ」
「モアもお姉さまとお風呂入る!」
ニコニコと笑うモアとマロン。
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