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3.お姉様と木都フェリル

34.お姉様と魔法の才能

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 書類に記入していると、エルさんは奥からガラス瓶と羊皮紙、注射器のようなものを持ってきた。

「これから血を少し採りますね」

  え?
 
 エルさんは、目にもとまらぬ早業で俺の親指に針を刺し、それを血を妖しげな魔法陣の書かれた羊皮紙に落とす。そして、ガラス瓶に入っていた謎の緑色の液体をピペットで掬うとそこに一滴たらした。羊皮紙が白く光る。
 エルさんはそれを見ると申請書に何やらすらすらと書いた。

 隣ではモアも同じように血を抜かれている。ふふっ、血を抜かれているのを見ないように懸命に目を瞑っているのが可愛いな。

 するとモアの血を抜いたお姉さんが、エルさんに何やらヒソヒソと耳打ちをした。
 エルさんはモアの血を落とした羊皮紙を一瞥すると席を立ち、奥から白髪のお爺さんを連れてきた。
 お爺さんはモアの血を吸った羊皮紙をしげしげと見つめて目を丸くする。

「ほう、これは珍しい! 五色元素属性じゃないか!」

 辺りがざわめく。

「なんだって?」
「こりゃ珍しい」
「あんな小さな娘が。これは大物になるぞ!」

 どういうことかと言うと、要するにモアは火、水、風、闇、光の五属性の魔法を使えるということらしい。

「そうだったのか。いいなー」

 聞けば、普通の人間は大体一属性、まれに二属性や三属性がいるくらいで五属性というのは非常に珍しいのだという。
 しかも五属性が使えるだけでなく、魔力の貯蔵量も普通の人間と比べるととんでもなく多いらしい。

「子供の場合は魔力が大人よりも多いというのは良くあるのですが、同年代の子供たちと比べても20倍からさ30倍の魔力をお持ちのようですね。すごい才能ですよ、これは」

モアは急に注目されて恥ずかしそうにモジモジしている。

「お、俺は!? 俺の属性はどうだったんだ?」

 俺は身を乗り出した。モアにそれぐらい才能があるってことは、姉妹なんだし、俺にもそれなりの魔法の資質があってもおかしくないのでは!?

 しかしエルさんはニッコリと笑ってこう言った。 

「無属性ですね」
  
「あ、そうすか」

 俺はがっくりと肩を落とす。

「それではカードができ次第お呼びいたしますので、掛けてお待ちくださいね」

 病院の待合室のようなソファーに腰掛ける。

「いいなあ......モアは魔法の才能があって......」

 俺は大きなため息をついた。あーあ、魔法、使ってみたかったなあ。闇魔法とか、火の魔法とか使うところを密かに妄想してたのに。

「でも属性が沢山あるだけで、モア、魔法なんて全然使えないよ!?」

「そんなことないさ、凄いぞ! いいなー、そんなに沢山属性があって!」

 俺は天井を見上げた。

 そういえば、爺やや兄さんにモアは魔法の才能があるのだと聞いたことはあった。

 でも、モアは俺の前で魔法を使ったりどんな魔法を使えるなんて自分から話はしたことが無かった。
 俺が何か聞いても「大した魔法は使えない」としか答えないし。

 でもそれはもしかして、全く魔法の使えない俺に遠慮していたんじゃなかろうか?
 姉より妹の方が才能があるなんて知れば、俺が悲しむから……

 そう考えると、なんだか胸が痛くなってきた。

「ここを出たら、モアに魔法使い用の装備や魔術書を沢山勝ってやらないとな。折角の才能なんだし、勿体無い」

 俺が言うと、モアは首をブンブンと振った。

「そんな! 私はお姉さまが勇者になれさえすればそれでいいの。お姉さまの装備を優先して……」

 「バカ言え。最強の勇者の相棒は、最強の魔法使いでなきゃいけない。そうだろ?」

 そう言ってウインクしてやると、モアは少し赤くなってコクリと頷いた。

 よーし、二人で最強の冒険者、目指してやるぞー!
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